第3話 君たちの名前
虹翼のスカイダイバー 3話
青いアーマードゴーレムでも何とかレスキューアームズを使うことが出来たので、カナタは消化活動を終わらせることが出来た。
この青いアーマードゴーレムを動かしてみたところ、恐ろしいほど追従性が高くあらゆる動きに対応しているらしい事がわかった。
もちろんただ消化活動を行っただけなので、その性能の全てを推し量る事は出来なかったのだが。
「いつまでも青いアーマードゴーレム、なんて呼ぶわけにもいかないから名前をつけてやらないとな」
『名前でございますか? SFAG-0471 TXという型番がありますが』
「呼びづらすぎるだろ」
「空戦型アーマードゴーレムの中でも471番目に作られた汎用タイプ、という意味でございます」
「空戦型、やっぱりスカイダイバーって事か」
「あの、スカイダイバーってなんですか?」
「空を飛ぶのに適したアーマードゴーレムのことだよ、さっき俺が乗ってたサイファーもそう」
アーマードゴーレムは主に戦闘用、作業用に分類される。
その中でもスカイダイバーは雲海を航行するために制作されたアーマードゴーレムであり、軍・民間双方に広く普及している。
飛行能力を持つアーマードゴーレムはオリジナルのみだったが、ここ2〜30年で技術が向上しレプリカにもスカイダイバーが主流になってきた。
「ただ飛べるからスカイダイバーってわけでも無くてさ、空を飛ぶ事に特化したアーマードゴーレムってのが重要なわけだ。並大抵のアーマードゴーレムはスカイダイバーには追いつけないし、航行距離も桁違いだ」
「な、なるほど……」
ついオタクのような早口で語ってしまった事にカナタは後悔しつつ、本来はサイファーの装備品であったアンカークローを青いアーマードゴーレムに付け替える。
これはニューロン接続が途切れてしまい操縦不能となったサイファーを牽引するための処置だ。
「で、青いアーマードゴーレムの名前なんだけど……メテオライト、なんてのはどうだ?」
『メテオライト、認証完了。以後は当機の名称として登録されます』
「あー、そうじゃなくて……お前自身はこの名前、どう思う?」
『どう、とは? どういった意図で聞いているのですか?』
「えぇと、だな……」
カナタが言葉に詰まる、こんなにめんどくさいのかこいつ。などと思っていると、青いアーマードゴーレムに囚われていた少女が唐突に言葉を発した。
「あなたがその名前で、メテオライトと呼ばれて嫌じゃないか、嬉しいか、という意図で聞いているのだと思います」
『嫌じゃないか、嬉しいか、と聞かれても困りますが。マスターが付けた名前を嫌悪する道理が私にはありません』
「嫌じゃないって事ね。じゃあ、これからよろしくな、メテオライト!」
『言葉は必要ありません、私はマスターに尽くすのみです』
これがゴーレムの考え方なのか、メテオライトが変わっているのか分からないがカナタはメテオライトを『相棒』として乗りこなすと決めた。
「後はあんた……君だな」
メテオライトに囚われていた少女、白いフード付きの法術着を身に纏っており今でもフードを頭に被っている。
「私ですか?」
「そう、まだ君のことを何も知らないからな。村に連れていくにも素性とかを村長に説明したい」
「私、私は……」
少女は右のこめかみに指を当て、何かを思い出すような仕草を見せる。
「誰だっけ?」
「はぁっ!?」
なんでここに来て面倒ごとが増えるのか。
謎のアーマードゴーレムとかならオリジナルのアーマードゴーレムが暴れていたけど沈静化しました〜で済む。
だが自分の素性が分からない年頃の女の子なんて、面倒くささの極みだ。
「えぇと、名前とか自分のことを思い出そうとしたら、何も思い出せなくて」
「メテオライトにいつ乗ったとか、どういう経緯でここに来たとか全然分からないのか!?」
「はい、いつの間にかメテオライトさんのコクピットにいて……」
「ちょっと待てよ? メテオライト、お前ならこの子の素性を知ってるんじゃないか?」
メテオライトならどこにいて、どうして彼女がパイロットに乗せられたのかも分かるはずだ。
『私も思考回路が汚染されていたのでマスターに呼びかけられる以前の記憶が混濁していますが、過去のニューロンログを辿ってみます』
「やっぱさっきのあれ、正気失ってたんだな」
思考回路が汚染されていた、という事は何者かの手でメテオライトの人格の刻印に何かしらの手段で悪影響を与えた人物がいる。
何か大きな陰謀に巻き込まれているのではないか?
もしかしたら、その陰謀に自分自身が巻き込まれそうになっているのではないか?
『メモリーの大部分が消去されており、復元は不可能です。操縦系統に影響は無いため、戦闘行動には問題ありません』
「やっぱダメか、じゃあ……君にも名前をつけないとな」
メテオライトみたいなものより、人名に相応しいものを。
カナタは頭を捻るが、なかなか良いものが思い浮かばない。
『セイティア・アンディールはどうでしょうか?』
「セイティア・アンディール……!!」
メテオライトが唐突に名前の提示をした。
お前が命名するのか!? という驚きと共に、思っていたよりも人間らしいネーミングに驚いた。
だが名前をつけられた当人は普通に感動しており、美しい響きに酔いしれているようだ。
「一応聞くけど、セイティア・アンディールってどういう意味だ?」
『古代には"天より舞い降りた乙女、聖なる涙で言の葉を伝える"という伝承があり、それをモチーフとした名前です』
「お前、メモリーの大部分が消去されたはずじゃなかったか?」
『消されたのは大部分であり、雑学的な部分は無事だったようです』
「わぁ……わぁっ!素敵です!! 今後、セイティア・アンディールと名乗りますね!!」
この人工人格はそんな屁理屈まで言いやがるのか……などとカナタは眉をひそめるが、当人が喜びまくっているので問題ないだろう。
「さて、牽引の準備も終わったし、消化活動も終わったから村に戻るぞ」
「あの、私はどこへ行けば——」
「取り敢えず、村長に相談してからだな」
カナタはメテオライトに乗り込み、アンカークローを発射してサイファーに突き刺す。
「爺ちゃん、サイファーのこの有様見たら怒るだろうなぁ」
「これ、カナタさんのお爺ちゃんが作ったものなんですか?」
「いいや、俺と爺ちゃんの合作。最強のスカイダイバーを作るぞ!って気合い入れて作ってた」
『申し訳ございません、私が強くて』
「すげぇ、謝ってる感じがゼロだ」
◆◆◆◆◆◆◆
「熱源反応があったのはこの島か?」
「はい、マリナデール自由国の辺境に位置するフェノシア村です」
コマンダー級高速雲上艦スカイウィンド艦長、ジャック・アートウェイはオペレーターに確認を取る。
「星鍵を帝国に渡すわけにはいかん、何としても彼らを味方につけるぞ」
「はいッ!!」
「しかし、このやり取りは面白くないな。我々は軍人じゃない、空賊らしく行こうじゃないか」
「空賊らしく、というと?」
「決まっている。星鍵を手に入れ、帝国の野望を叩き潰すぞ!!」
「ラジャー!!」
ジャック艦長の激励の言葉に彼らの部下たちは全力で応えた。
その部下たちの姿は老人から少年少女、青年に性別があやふやな者、化粧をしっかりキメたギャルまで幅広くバリエーションに富んでいる。
ジャック艦長は帝国の命令を受けた際、なんて個性的な連中を任されたのだと頭を抱えたものだが今はこう思っている。
「軍人としてはドベかもしれないが、飛空士としては最高じゃないか!!」……と。
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