第69話 同盟の条件
「同盟……? オレが……帝国と……?」
次の言葉を模索していたオレを見て、カタリベは「ああ……」と話を続ける。
「同盟を結べば自分の領土が貰えるうえ、帝国の強力な後ろ盾をもつことにもなる。今までの生活とは一変し、国賓級の扱いになるだろう。もしダンに危害が及ぶようなことがあれば、帝国の軍隊が総出で動く……国宝人とは、それ程の称号なのだ」
「ちょい待ち。オレってさ……アンタのこと、ほとんど知らないんだけどよぉ? そんな話持ってくるなんて、アンタ一体何者なんだよ?」
先程まで顔を逸らしていたレイは、ここぞとばかりに「カタリベ様は……」と、説明キャラの地位を取り戻さんとする。
「旦那の大先輩にあたる方で、この世界に初めて転生したお人……つまり、初代転生者なんです」
「初代だってっ⁉ マジかよ……⁈」
前々から只者じゃねえと思ってたが、まさか初代転生者だったとはな……って、ちょっと待てよ? よくよく考えたら転生者の歴史って、六十年くらいあるんじゃなかったか? こいつはどう見たって二十代半ばやそこら……オレと同い年くらいに見える。どういう絡繰りだ……?
「そして帝国と初めて同盟を結んだ、帝国同盟支隊の国宝人でもあります」
「カタリベも国宝人だったのか。まあ、初代なら当然って気もするが……それよりも支隊ってとこが気になるな。独立行動が許されてるってことか?」
オレの問いかけにレイは正面へと視線を移し、それを受け取ったカタリベが言葉を続ける。
「国宝人とは基本的に行動が制限されるものではない。ただ一つの仕事さえ全うすれば、他はどう過ごそうが個人の自由だ」
「仕事って……ラスト・ボスの討伐か?」
「それは私の仕事だ。ダンだと恐らく……破滅の帝王の討伐になるだろう」
破滅の帝王の討伐か……確か帝国が今一番、危険視してる奴だっけか? う~ん……それはかなり、めんどくさそうだな。できることなら一生遊んで暮らしていたい。さて、どうしたもんか……
オレがあれこれ思案していると、ミサが得意げにフンと鼻を鳴らす。
「『全知のカタリベ』と呼ばれるカタリベ様の前で思考など無意味です。時間の無駄ですので早急にお答えすることを進言します」
「全知のカタリベだって? ほ~ん……じゃあ、オレの考えも読めるって訳か? 是非とも聞きたいもんだね~?」
背もたれに身体を預けるオレは、腕と足を組みながら尊大に構える。
「いや……それはできない」
何処かばつが悪そうに語るカタリベに、「え……?」と驚いた表情を見せるミサは、出鼻を挫かれたように固まってしまう。
「なーんだ、つまんねーの。結局できねえのかよ。そんなんじゃ、オレも決められねえな?」
「何故そうなる? それとこれとは話が別じゃないか?」
「いや、別じゃねえ。オレはかつて帝国の奴らに処刑されそうになったんだぜ? それなのに名が売れたからって急に手の平返すなんざ虫が良すぎる。アンタが帝国の勅使だってんなら、まず信用させてもらわねえとな?」
ミサは「何を偉そうにっ……⁉」といきり立つが、カタリベは直ぐさま肩を掴んで制止させると、冷静に「どうすればいい?」と知的な眼差しを向ける。
「何だっていいさ。オレの知らない……納得するような情報を教えてくれ。そうだな……例えば、この宿屋のこととかどうだ?」
カタリベは俯きざまに、しばらく考え込むと、溜息交じりに視線を戻す。
「……まあ、いいだろう。納得するかどうかは知らんが、気が済むまで付き合ってやる。では、まず一つ目……実はこの宿屋は昔、潰れ掛けだった。だが、ある客の助言によって、ここまで繁栄した経緯がある。こんなのは、どうだ?」
「ほう……その、ある客ってのが気になるな。それがアンタしか知らない情報か?」
「正確に言えば私と先代の店主だ。だが、誰なのかは言えない。
出た出た、お得意の意味深攻撃。そんなことなら最初っから言うなって話だが……まあ、この程度で終わっちゃあ、こっちとしても面白くねえ。今回はスルーしてやろう。
「それじゃあ、ダメだな。次」
「では、二つ目……この宿屋には『東の三宝石』と呼ばれる、三人の有名なウェイトレスがいる。その三人の正体を教えよう。一人目はレキという少女風の女性……実は彼女は我々と同じ転生者で、その力は未来を読むものである。年齢は……まあ、これは言わないでおこう」
あの真ん丸お目めのガキんちょって、転生者だったのか……しかも未来を読むだと? 年齢もぼやかすし……中々、興味深いじゃねえか。
「二人目はイズという若い娘……彼女は一流貴族の出で、バリアント家のご令嬢だ。身に着けている宝石類は、どれも最上級の科学宝具で、彼女自身も……いや、これはやめておこう」
あのギャルっぽい子が一流貴族の娘⁈ 身に着けてるもんが随分高そうだとは思ってたが……しかも彼女自身ってなんだ? くそっ、気になる!
「三人目はヘマという最古参の女性……彼女はこの世界で唯一の、人間と魔人のハーフだ。何故あの子がこんな場所にいるのか。それは奴が……おっと、喋りすぎたな」
くそっ! こいつわざとやってんだろ⁉ 心なしかほくそ笑んでるようにも見えるし! めちゃめちゃ気になるじゃねえか‼ だが、ここで悟られるわけにはいかねえ! もっと面白い情報を聞き出す為に冷静に振る舞わねば!
「い、いや~……全然、興味そそられないわ~。え、何? その情報? そんなんでオレが満足すると思ってんの? だとしたら、その考えは実に浅ましいものだと言えるねっ⁉ いや~、全然わかってないわ~、この人。国宝人って呼ばれるくらいならさ~、もっと何ていうかこう……大衆が喜ぶべきユーザビリティ溢れる、いい感じのアレをもっとこう……アレするべきじゃないのかね⁉」
あ、ダメだわ。全然、考えがまとまってないわ。完全にオレの方が浅ましい存在になってる。心の底から興味が湧いて来て、話の続き聞きたがってるよ。参ったねこりゃ。トークセンス抜群じゃねえか。
「そうか……しかし、これ以上はプライベートな話になる。おいそれと言う訳にはいかないな」
「いや、話してもらうぜ。何故ならアンタは前に言ってたからな……『何かあったら一回だけ手を貸してやる』って。そこまで言い切った癖に、まさか約束破らねえよな?」
「いや、寧ろ此処で使っていいのか? もっと大事な局面で使った方が……」
「あんな可愛い子たちのプライベートを知れる……これ以上、大事な局面があるのかい?」
最早、誰もツッコもうとはしなかった。どうやらオレの熱い想いが通じたらしい。視線がちょっと可哀想な奴を見る目になっていた気もするが、きっとあまりの崇高な理念に言葉を失っているだけだろう。フッ……可愛い奴らめ。
「ハァ……分かった。そこまで言うなら、とっておきのやつを……実はこの宿屋では毎日、あるイベントが催されている。スペランツァをここまで繁盛させ、男たちを足げく通わせているのは、そのイベントが要因と言って相違ない。しかし、そのイベントは人知れず行われていて、一見の客では到底知りえない情報だ。それを教えてやろう」
ほう……面白そうじゃねえか。なら聞かせてもらおうか、とっておきの情報ってやつをよ? だが、そんじょそこらの情報じゃ、このオレを釣ることなんて……
「そのイベントの名は『
「聞こうか……詳しく」
オレはその甘美な響きによって、物の見事に……釣られてしまった。
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