第9話 ナビゲート

 オレはレイと再び契約を結ぶことにした。その代わりにレイはナビゲーターとして、この世界について教えてくれるとのことで質問タイムを設けられた。レイ君の恥ずかしい、あんなことやこんなことをどんどん聞いちゃうゾ!


【なんだそのキャラは】


「じゃあ、まずスリーサイズ――」

「却下」


 予告通りに取りあえず聞いてみたが、速攻で却下された。まあ、こいつの寸胴そうなボディに聞いたところで、大して意味はないだろう。


【最低だな】


「つれないねぇ……まあいいや。えーとっ質問ね……そうそう気になってたことあるんだけど、お前さっき転生者の話になったときはって言ってたよな? あれってつまり……」

「ええ、毎年来てますよ」

「あぁ、やっぱりか……三人でも驚きなのに。で? どの位の歴史があるのかな?」

「転生者がこの世界に現れ始めてから、およそ六十年程経ってます。なので旦那は《第六十一代転生者》という肩書になりますね」


 六十年……長いのか短いのか、わからんな……


「しかし、せっかく特殊能力得たのに、この世界ではあんまり特別感なさそうだな」

「そうでもないですよ? もう数えるほどしか残ってないですからね」

「え? そうなのか?」

「ええ……旦那が来る少し前まで『転生者狩り』が行われていましたからね。そのせいでほとんど残ってないんですよ」

「は? なんで転生者狩りなんて……それに転生者って特殊能力持ちだろ? そんな簡単にやられる奴らじゃないだろうに……」

「数が増えると、それだけ危険な奴も出てくるものです……力を悪用するなんて輩がね。それに忘れたんですか? 転生者は覚醒しないと能力を使うどころの話ではないんです。記憶だってあやふやですし。だからその間に貴族が裏社会の人間に金を渡し、転生者を狩らせていたんです。貴族は自分達で動くことはしないんでね」


 転生者狩りに裏社会……えらく不穏なワードが出てきたな。


「少し前までってことは、今はないんだろ?」

「はい。今は『破滅の帝王』という旦那より少し前に来た転生者が裏社会を取り仕切っていて、貴族は勿論のこと帝国の人間ですら介入できないほどの一大勢力になっているんです。それで転生者狩りはなくなったという訳です」


 なんだよ破滅の帝王って……いかにもヤバそうなネーミングだな。まあ、そんなのと関わり合いになることなんてないだろう。


「そう考えると今の時代に転生してきた旦那は運がいいと言えますね」

「運がいいねぇ……いや、ちょっと待てよ。オレ、エリザベートに騙されて処刑されそうになったんだけど。アイツだって貴族だろ?」

「あぁ、エリザベートは別です。あのご令嬢は他の貴族たちと違って、自ら動いて転生者達を死刑台に送ろうとするイカれた奴なんで。そう考えると旦那は運が悪いですね」

「結局どっちなんだよっ‼ ったく……」


 オレのそんな反応にレイは、嘲笑うかのようにニヤついていた。

 

 コイツ……仕返しとばかりにおちょくってきてねえか? ここはガツンと言ってやらないとな。


「じゃあ、次の質問は……下着の色――」

「却下」


 流れで聞いてみたが、又もや却下された。まあ、こいつの下着の色なんて聞いたところで色気もなさそうだし、大して意味はないだろう。


【どこがガツンなんだ。あと最低】


「ウソだよウソ。えーとっ、そうだな……ここってマリオネッタって国でいいのか?」

「いえ、違いますよ。ここはマリオネッタの隣国です。と言っても街のはずれの方ですが……」

 

 あぁ、やっぱり違うのか。どうりで、のどかな風景が続いてるわけだ。


「せっかくですから、この世界にある四つの国についてお話ししましょうか」

「は~い、先生」

「ちょっと……ふざけないでくれます?」

「いや、今のはふざけてないよ。普通に答えただけ」

「あ、そうだったんですか。紛らわしいんでやめてくださいよ。存在がふざけてるんですから」


 おいおい、随分とディスってくるじゃねえか? 好感度メーターが下がってきてる気がするが……何故だろう?


【自覚がないのか】


「では、まず旦那が目覚めたであろうマリオネッタについて説明します。正式名称は『マリオネッタ連邦』。この世界の南方に位置していて、先程言った破滅の帝王が、この国のほとんどを支配下に置いています」

「あと残りは?」

「圧政に苦しむ民の為に支配権を取り戻そうとする貴族、それに失敗して破滅の帝王と裏で手を組む、堕ちた貴族ってところですかね」


 ふーん……圧政に苦しむ民の為ね。貴族の中にも善し悪しがあるわけか。


「次は西方に位置してる『ドミナッツィオーネ帝国』。その領土の大きさ及び、科学宝具の所有率八割を占める超大国です。貴族の後ろ盾もあって資金も潤沢。旦那が欲しがってた未来感あふれる建物や乗り物がたくさんある国ですね」

「ほーん……さっき隣国って言ってたけど、今いるこの場所は帝国の領土なのか?」

「いいえ、ここは真逆も真逆。東の領土ですよ」

「そうなのか……普通、処刑とかって帝国の領土で行うもんじゃないのか?」

「それは破滅の帝王率いる裏社会の連中が、北方ルートを除いて東西を分断する形で見張っているからなんですよ。だから帝国側に転生者が送られることもないし、帝国側からの介入も防いでいるんです」

 

 あのクソ監獄署長が危険を冒してまでって言ってたのはこれのことか。


「続いては北方に位置してる『アッソルート魔人連合』。魔人や魔物が蔓延る魔境で、人間が立ち入ることの許されない場所……国ですね」

「おお! 魔人や魔物がいるのか! 科学がどうとか言ってたから、そういうのいないと思ってたけど、ようやく別の世界に来たって感じがするな……って、って何?」

「今から約八十年前に『魔帝ラスト・ボス』という絶対的な存在が君臨していましてね。その圧倒的な力は、この世界を数秒で制圧するほどだとか。そんな伝説があった国なんですが……」


 なんだろう……どっからツッコめばいいのか……


「昔は圧倒的な力を誇る勢力だったんですがね……絶対的な存在であるラスボスが消えた今、かつての栄光は見る影もなくなっていて、人語に落ちるというわけです」

「あぁ……またツッコみどころ増えちゃった……あのさ、ラスボスって略しちゃってるけど、もっとちゃんとした名前とかないの?」

「魔帝ラスト・ボスって言いましたよね?」

「いや、違うのよ……そのまんまなのよ、名前が。魔帝付ければいいって問題じゃないでしょ……まあそんなことはどうでもいいや。つまりこの世界に転生者が多いのは、そのクソ強いラスボスを倒すためだろう? 消えたって言ってたけど、倒したのか?」

「さあ? 随分昔に消えたとしか聞いてないので、今のところ行方不明ってことになってます」

「行方不明ねぇ……」


 なーんだ……魔王を倒しに行く! みたいなワクワク感あふれる冒険はないってことか……なんのためにこの世界に転生したんだ、オレは……


【奴を倒すのは私の役目だからな】


「さて、最後に紹介する国が……おっと、もう着いたようです。窓から外を見てください」

「おお……すげぇ……」

 

 窓から外を覗いてみると、そこには巨大で分厚い外壁に囲まれた街があり、ちょうど馬車が大きな門を抜けたあたりで真上を見上げると、豪勢な屋敷が建っているのが見えた。


「なんであんなところに屋敷なんか建ってるんだ?」

「最強の門番が住んでいて見張りをしているんですよ。まあ、それについては今度教えますよ」


 はたして門番にあんな屋敷は必要なのか? 最強だからか? 見張ってるだけであんな豪勢なところに住めるなんて……羨ましい!


「旦那、上ばっかり見てないで周りも見ましょうよ。いい街ですよ、ここは」


 レイに言われた通りに周りに視線を移す。

 確かに……まるでおとぎ話の世界に迷い込んだかのような綺麗な街並みが広がり、自然が所々に溢れていて透き通った小川までもが流れている。市場には色とりどりの食材が並んでいて、それを求めてか人々が活気づいている。オレが目覚めたマリオネッタとは正反対の国ってイメージだな。


「ここが最後の国、東方に位置している『リベルタ共和国』。人呼んで……『自由』の国」

「自由か……いい響きじゃねえか! オレにピッタリだ!」


 こうしてオレはリベルタの国に降り立つことになった。この賑やかな空気に気持ちが少し高揚して自然と笑みがこぼれる。


 そう……ここからオレの新たな人生、冒険が始まるんだ!

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