第8話 再契約
オレはダーシーを連れて監獄から出ると、上の方からレイがワイヤーを使ってスーパーヒーロー着地をかましてきやがった。
「いや~流石ですね、旦那! アンタならきっと出られると思ってましたよ!」
そう言いながらレイはフードと口元の布を取って盗賊モードを解除した。
「ウソつけ! お前オレのこと一回見捨てただろ! 一人で逃げやがって!」
「何言ってんですか、旦那~。そのおかげで覚醒できたじゃないですか」
覚醒ね……なんかノリで使ってたけど、何なんだこの能力は? そんなことを思いながらオレは、己の手の平を見つめる。
「しかし旦那、まさかダーシーまで助けるとは思わなかったですよ」
「おお、そうだった! おいレイ! あの何でも開けられる鍵で、ダーシーちゃんの手錠を外してやれよ!」
レイは肩を竦めるながら「ハイハイ」と流しつつ、科学宝具の鍵でダーシーちゃんの手錠を外した。
「さあ、もう大丈夫だよ。ごねんね……助けるのが遅くなって」
オレはこれでもかという程のイケメンスマイルを展開する。これで落ちなかった女はいないのだ!
【バカみたいな面だな】
しかし、ダーシーちゃんは項垂れながら黙り込んでしまう。どうやらオレのイケメンスマイルに言葉を失っているようだ。
【バカだから失ってるんだよ】
「おーい、ダーシーちゃーん?」
「ちっ、余計なことしてくれたなッ‼」
あれ……? プリティなお顔が一瞬で目をひん剥いた顔に変わったんだけど……
「クソッ! クソッ! 後もう少しで上手くいくところだったのにッ‼」
ダーシーさんは気でも狂ったかのように、地面を何度も蹴っていらっしゃっていた。
「えええええっ⁈ ちょいちょい、急にどうしちゃったの⁈」
「テメエが余計なことしなけりゃ、今頃『グリーズ家』に潜入できてたんだよコラァッ‼」
今までのお淑やかさはどこへやら……目の前の女の子はオレの襟を掴んでは首をブンブン振り回してご覧に見せた。
「えええええっ⁈ 何でこんなことになってんだあああ⁈」
「まあまあ、その辺で離してやってくださいよ。グリーズ家にはあっしらも仕事で行くんで、その時に一緒に潜入すればいいでしょう?」
「ちっ、本当だろうな⁉ ウソだったらブチ殺すぞッ‼」
ダーシー様はそう言うと、ようやくオレの襟から手を離してくださった。
「ちょっ、レイ! この子何者なんだよ?」
「まあ、同業者ってところですかね」
「同業者って……この子も盗賊かよ⁈」
「あ? テメエみたいな三下と一緒にすんなッ!」
わーお……キャラが変わりすぎ……
「ちょっとレイ君……さっきまでヒロインムーブかましてたあの子はどこに行っちゃったの? オレ結構頑張ったんだよ、今回? せっかくカッコ良く決めたのに意味ないじゃん」
「まあまあ、いいじゃないですか。これで今年の転生者は全員生き残りが確定したわけですし」
「え? 全員って何だよ? まさか、まだいるのか?」
「ええ、旦那を入れて三人います。ダーシーが一人目、旦那が三人目、そして旦那の前に二人目がね」
おいおい、この世界はどんだけ転生者がいるんだ……?
「ダーシー、アンタは確か二人目に会ったことありましたよね?」
ようやく落ち着きを取り戻したダーシー皇女殿下は、レイの問いに幾分か気だるげにお答えになる。
「あぁ……アイツは使えないわ。出会った瞬間、戦え戦えって話し通じないし。片っ端から斬っていくようなヤバい奴よ」
しかもガチ勢かよ……絶対に関わらないようにしよう。
「とにかく! 私の計画を邪魔したんだから、ちゃんと責任取ってよね!」
まるでラブコメでも始まりそうなセリフだが……再度オレの襟を掴むダーシーに死角はなかった。何故ならまったくその気配を感じさせない程に怖いのだ。
「わっ、わわわかりました。ちゃっ、ちゃんとその時になったらお誘い申し上げますのでハイ……」
「絶対よッ……! わかった……⁈」
近い! めっちゃ顔が近い! あっ、でも近くで見たらやっぱ可愛いな。うん。
【節操ないな】
オレの襟を強引に離した後、ダーシーは「フン!」と言い放ち、この場から去って行った。帰っていく途中で痰を吐いたように見えたが……きっと気のせいだろう。
「ハァ……レイ君よぉ……普通ヒロインを救ったら、お礼を言われて、なんだかんだ惚れられて、そしてパーティーに加入したりするもんじゃないのかね?」
「あの女に限ってそれはないと思いますよ」
なんと世知辛い……この世界に来てから、まともな女に出会ってない気がする。
「さあ旦那、我々もそろそろ行きましょう。仲間の馬車を待たせているんで」
「馬車ねぇ……」
こうしてオレたちは、このクソ長い下り坂を降りることになった。そりゃあこんだけ高い場所に建っているんだから当然なんだが……いかんせん長い。激闘の末、女の子を救い、勝利を収めた者にこの仕打ちはあんまりじゃないか?
◆
それから三十分。ようやく下に到着した。
「あぁ……やっと着いた……」
「お疲れ様です、旦那。さあ、乗ってください」
オレは馬車の荷台に乗りながら、クソ長い坂道の恨みも込めて愚痴をこぼす。
「なあ? なんで科学宝具みたいな便利な物があるのに、乗り物が馬車なんだ? もっとこう……未来感あふれる乗り物はないのか?」
「そういうのは貴族様御用達なんで、我々庶民には縁遠い代物ですよ」
「一応あるんだな……」
オレはため息をつきつつ走り出した馬車に揺られながら周りの風景に視線を向ける。辺りには一面草原が広がり、ちらほら風車のようなものが建ち並んでいた。あまりにのどかな風景すぎて、先程までの処刑がどうたらが、まるで嘘のようだと錯覚させる。最初に目覚めた街とはずいぶん印象が違うな……そんな穏やかな思考をしている最中、無粋にもレイが話しかけてくる。
「さて旦那、一段落ついたところで今後の話をしましょうか」
「二人の未来についてか?」
「……なんか引っかかる言い方だけど、ツッコむのも面倒くさいので、そういうことにしときます」
「わかった! 式場は押さえておくから、ウエディングプランの方は任せた!」
若干やる気を失っってしまったオレは、冗談を交えながらサムズアップで流そうとする。
「違うわ‼ 全然わかってないわこの人‼ そうじゃなくて仕事の話ですよ‼」
「ああ……仕事の話ね。グリーズ家って言ってたっけ? そこに盗みに行くんだろ?」
「あ、ちゃんと聞いてたんですね。頭空っぽなのかと思いましたよ」
失礼な奴だな。後でセクハラの刑に処してやろう。
【学習能力の欠如】
「というかさぁ……よくよく考えたらお前、オレのこと一回見捨ててるんだから契約不成立だよね? 仕事手伝う義理ないと思うんだけど」
「またその話ですか? まあ、そうかもしれないですけど……じゃあどうするんです? ここで手を組まないなら旦那、一人で生きていくことになりますよ? 何も知らないこの世界で」
うむ……確かにそれもそうだ。自分のこともあまり覚えてないのに、なんの情報もなしにこの世界に飛び出すのは危険すぎる。もう騙されて監獄行きはご免だしな。
「ナビゲーターが必要じゃないですか? あっしはこの世界の情報を教える。旦那はあっしの仕事を手伝う。これなら契約成立でしょう?」
「そうだなぁ……じゃあそういうことにしとくか」
オレは再度契約を結ぶことにした。どちらにせよ行くところもなければ、住む場所もないし、金も入用になるだろう……悪い契約ではない。
「なら契約成立ってことで。では、このナビゲーターにじゃんじゃん何でも聞いてください!」
「ん? 今なんでもするって――」
「言ってないです。聞けっつたんです。そろそろ怒りますよ?」
オレは「ハイハイ……」と微笑みながら疑問に思っていることについて質問を始める。この世界のこと、転生者のこと、そして、レイのスリーサイズのことを……ね。
【なんだこの締め方は】
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