第3話 監獄

 ガチャコーン‼


 何かの扉が閉まる音で、オレはようやく目覚める。

 今度ばかりは記憶がどうこうではなく、完全に酔っぱらって寝ていたようだ。


「ありゃあ? ここはどこだ?……エリザベートちゃんは……?」


 寝ぼけ眼で辺りを見回すと、そこはまさしく牢屋のようだった。


「ようやく目覚めたか」


 そう言ったのは青い軍服に身を包み、長い黒髪で目つきが鋭く、長身の脚がすらっとしたキレイ系美女。


「今回は珍しく、だね」


 こちらも同じ軍服だが、先程とは対照的に短めの金髪で柔らかい目元、背が小さいが出るとこは出てるカワイイ系美女。


?……っていうか何なんだこの状況は⁉ どうなってんだ⁉」


 オレは訳も分からない状況に動揺して詰め寄ろうとするが、どうやら後ろ手に分厚い手錠をされているようで上手く動くことができなかった。


「覚えてないのか?」

「覚えてって……いや、そんなことよりアンタら誰だ! ここは何処なんだ⁈」


【再放送かな?】


「私はこの監獄の監獄副署長……マキナだ」

「私は副署長補佐のオリヴィアだよ。よろしくね」


 オリヴィアとかいう子は、その可愛らしい柔らかな表情で、オレに優しく手を振ってきた。


「あっ、どうも……こちらこそよろしく――って監獄って何っ⁈」


 単純な僕ちんは一瞬でニヤケ面になってしまったが、監獄というワードによってすぐに現実に戻される。


「騒ぐな囚人……ここは監獄リアビア。そこにお前は収監されたのだ」

「ちょっと待て‼ 何でオレが監獄で捕まらなきゃならないんだ⁈」


 マキナという女は呆れ顔でため息をつくと、腕を組みながら偉そうな態度で答える。


「覚えているだろう? エリザベートのご令嬢に大層世話になったそうじゃないか」

「そりゃあ世話にはなったけど……それが何だってんだ⁈」

「まだ分からないのか? お前は騙されたんだ、あのご令嬢に……エリザベートとはそういう女だ」

「なん……だと……? クソっ‼ あのアマ‼ やっぱり騙しやがったな! チクショーッ‼ 何でオレはあんな女に騙されちまったんだ‼ おっぱいか? おっぱいがよかったんか⁈」


 オレは余りの悔しさにブチ切れた。

 ぶっちゃけ騙されたことは百歩譲っていいとしても、おっぱいを触れなかったことの方がオレの堪忍袋の緒を切れさせた。


【どこでキレてんだよ】


 そんなバーニングファイターモードになりそうな頭を一旦冷静にし、オレはマキナの言った言葉を思い返して突破口を見つけようと反論する。


【バーニングファイターモードって何だよ】


「ん? いや、待てよ。アンタ騙されたって言ったよな? つまりオレが悪くないって知ってるってことだよな?」

「そうだな」


 マキナはオレの気持ちなど露知らずといった感じで軽く言い放ちやがった。


「じゃあ何で……」

「それがルールだからだ」

「ルールって……いやおかしいだろ‼ こちとら騙されたのが分かっていながら、監獄にブチ込まれているんだぞ‼ モラルはないのか! そう! モラルさ‼」


【お前がモラルとか言うな】


「ルールはルールだ。とにかく大人しくしていろ」


 マキナはそう冷徹に言い放つと偉そうな態度のまま立ち去っていく。


「ごめんね……そういうことだから……」


 オリヴィアちゃんは鉄仮面女と違い、申し訳なさそうに冷血女の後を付いて行った。


「ちょっ! おい!……ったく……どうなってんだ?」


 こんな動きを封じられた状態ではどうしようもない為、オレは取りあえず腰を下ろし気分を落ち着けることにした。


「ハァー……いきなり意味わかんないところに来たと思ったら記憶はあやふやだし、女の子には騙されるし、おまけに監獄行きとはなぁ……まあ出られるまで待つしかねーか」


 オレはポジティブだった。いずれ自分は出られるのだろうと……

 

 そんなオレの浅はかな思考は、向かいの牢屋に収監されている者から話しかけられたことで、打ち崩されてしまう。


「そこの旦那、ちょっといいですか?」

「あ? 誰だお前?」


 話しかけてきたのは、色白の整った顔立ちをした奴だった。

 

 可愛い顔をしてるが服装がなんていうか……全体的に黒ずくめであり、ダメージ服のように破れていて所々に露出が垣間見えていた。被っているフードからは少し長めの黒髪を覗かせ、首元には口元を隠す為の布か何かがあり、腰には銃の入っていないホルスターを身に着けている。例えると盗賊っぽいっていうか……いわゆる男っぽい格好していて、これは美少年か美少女か判別しづらいな。


【………………】


「あっしの名前は、レイ・アトラス。盗賊です」

「いや盗賊かよ! そのまんまだな!」


 オレは思わずツッコんでしまった。


「え? なんかマズイですか?」

「いや、なんか格好がいかにも盗賊って感じじゃねーか。そういうのはもっとこう……意外性というかさぁ、裏切りがあった方が面白いと思うぞ?」

「えぇ……初対面でそんなダメ出しされるとは思わなかったですよ……」

「おう! 次から自己紹介するときは気をつけろよ!」


 レイとかいう奴は随分な困り顔をしつつ話を戻そうとする。


「なんでこっちが悪いみたいになってるんだろう……いや、そんなことより旦那。アンタ転生者ですよね?」

「は? 転生者? 何だそりゃ?」

「別の世界から、こちらの世界に来た者……それが転生者です」


 別の世界? 何言ってんだコイツは……もしかして此処ってヤバい奴が収監されてる監獄だったりするのか?


「それじゃあ旦那。アンタ自分の名前……覚えてます?」

「……」

「……何をしていたかは?」

「……」


 オレは答えられなかった。未だにその部分については思い出せていなかったからだ。


「己の名前である『氏名』と己の役目である『使命』……これらを奪われたも者をこの世界では転生者と呼びます」

「……え? ダジャレ?」

「いや、ダジャレじゃないです……真面目な話です」


 何だか調子が狂うな……と言わんばかりの態度をとるレイは「コホン」と咳払いをしながら再度話しを戻す。


「まあ、そんな訳で旦那は典型的な転生者の症状が出ているというわけです」

「症状って、病気みたいに言うな!」

「そんな転生者な旦那に一つ、仕事の話があるんですよ!」


 これでは話が進まないと思ったのか、レイは軽やかな笑みでツッコミを無視する。


「仕事ってまさか……盗みじゃねーだろうな?」

「さすが旦那! 察しがいい!」


 そりゃあそうだろ。盗賊の仕事といったら盗みしかないだろうからな。


「へっ! 冗談じゃねぇ! こちとら監獄で捕まってんだぞ? これ以上余計なことして、また監獄行きなんてゴメンだね。オレはもう普通に暮らしていくんだ!」


 そんなオレの返答にレイはきょとん顔で小首を傾げる。


 何だその顔は……可愛い顔したって無駄だぞ。


「何言ってるんですか、旦那?」

「何ってなんだ!」

「だって旦那……このままだと……」

「このままだと何じゃい!」


 レイはまるでCMを挟みまくって、やたら引っ張るテレビ番組の如く溜めに溜めた後――


「……死刑ですよ?」


 ――そう言い放った……



「……え? 死刑?」

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