指切り

勝利だギューちゃん

第1話

「指切りげんまん」


幼稚園の頃に、好きだった女の子と交わした指切り。

その事は、覚えている。


でも、何の約束かは覚えていない。

ただ、「お嫁さんになってあげる」とか、そんな感じではなかった。


卒園してから、もう何十年と経つ。

その子の事は、もう記憶のかなたに封印した。


向こうもそうだろう・・・


僕も結婚して、子供が出来て、家庭を築ている。

その子も同じだろう・・・


でも、時々思い出す。

何の約束だっただろう?


その子の事は、名前も顔も覚えている。

通常、幼稚園くらいの記憶は、あやふやになる。

実際、他の子は覚えていない。


でも、その子の事だけは、忘れたことがない。

しかし、その約束は思い出せない。


零れ落ちている。


「不思議なこともあるね」

妻が言う。


「でも、大丈夫だよ」

「何が?」

妻の問いかけに答える。


「あなたは、その約束は守っているから」

「どうしてわかる?」

「NOとは、言わせない」


妻とは、あるイベントで知り合った。

あの時の約束の女の子ではない。


断言できる。


でも、なぜわかる?


そして、臨終の時を迎える。

妻や子や孫たちに看取られて、僕は旅立った。


「久しぶりだね」

「やあ、・・・ちゃん」

「覚えていてくれたんだ」

「ああ」


あの世で、約束の女の子と再会した。


「お互い老けたね」

「老けてと言っても、まだ80歳だけどね」

「私は、70歳で来たよ」


勇気を出して訊いてみた。


「あの時の、指切りはなんだっけ?」

「やはり、忘れたのね」

「うん」


元女の子は、続けた」


「あなたは、一生懸命に生きた?」

「ああ」

「胸を張れる?」

「ああ」


元女の子は、笑顔でいう。


「それが、約束」


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指切り 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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