防御力上げ過ぎ令嬢、襲い来る婚約破棄の危機を秒で無力化する

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私は乙女ゲームの世界に転生した貴族令嬢だ。

 悪役令嬢でもヒロインでもない。


 ただのモブ。


 でもそんなモブな私でも、一応一瞬だけ、ゲームに登場する瞬間があった。

 それは、悪役令嬢の未来を示唆する背景に、だ。


 ヒロインにイジワルして、断罪しようとした悪役令嬢がいる。

 その悪役令嬢は、逆に逆襲され、ヒロインたちに仕返しされる。

 その後の彼女はどうなったのか?

 正式には分からない。

 だが、彼女の未来は、エンディングでは語られなかったものの、その未来を示唆するイラストがあった。


 そこに登場するのが私だ。

 床に這いつくばる悪役令嬢、その背景で婚約破棄されるモブ(つまり私)。


 それを見たプレイヤーは、「ああ、悪役令嬢にも婚約者も、もうじきにそうなるのだろうな」と思うわけだ。


 きっつい終わり方が嫌だと言うプレイヤーもいるため、悪役令嬢の末路はそういった「破滅の予感におわせ」だけで終わったのだろう。


 だが私は、そんな事に一人の人間の婚約破棄を使用するな、と言いたい。








 と、ここまで説明すれば分かっただろう。


 このために私は、悪役令嬢でもヒロインでもないのに、婚約破棄におびえてすごさなければならなくなった。








 一体何が婚約破棄になるのだろう。


 考えた末に私は、ゲーム原作終盤で、邪神が復活し、多くの人が逃げだすシーンがある事を思い出した。


 あのシーンにも、私に似たようなモブがいたような気がする。


 そのモブは、確か自分の婚約者らしき男性を突き飛ばして逃げようとしていた。


 その後のシーンにも、そのモブが婚約者らしき男性と言い争っているらしき場面があったのを思い出した。


 ざっくりとした状況説明のみで、セリフは一言二言あるかないかくらいだったが、そのモブの口調が私に似ているのだ。


 乙女ゲームの記憶を思い出す前の私の「ですわよ」口調に。


 なら、そのモブは自分だと考えて行動した方がいいだろう。

 だって、他にヒントらしきものないし。


 そうと決まったら、何らかの手をうたなければ

 けれど、邪神が登場したシーンで。ただのモブが正気を保っていられるだろうか。


 いいや、無理だ。

 だって、イラストでもあの邪神めちゃくちゃ怖かった。

 生でみたら、きっと友人の一人や二人、いや三人や四人、その場においてさっさと逃げてしまいかねない。


 そんな風に色々考えてみた結果、私はある答えにたどり着いた。


「そうだ。防御力をあげよう」







 殺られる、と思うからパニックになっていけないのだ。

 強い者に相対しても、一撃で殺られない自信があれば、錯乱する事もないし、婚約破棄の未来につながる事もない。


 というわけで、私は防御力をあげる事にした。


「はぁ、また突拍子のない事を考えたものだな」


 私は武者修行に出る事を婚約者であるルキウスに話した。


 歳若い貴族として有名な彼は、顔も良し頭も良しの超優良物件だ。

 しかもちょっと優しいから、私好み。


 そんな相手を、手放すわけにはいかないのだ。


 すると、婚約者は呆れた顔で私に尋ねて来た。


「エピア、その間自分の所の領地はどうするのだ。領民が困り果てていても知らんぞ」

「うっ、そっそれは」


 私は貴族であると同時に、一地方をおさめる領主でもある。

 辺境の小さな区域だけだが、領民はしっかりと存在しているので、おろそかにはできない。


 最近は邪神復活の噂で治安が乱れたり、魔物の被害が多くなっているから、攻撃魔法を使える人に協力してもらって自警団とかをつくらなければならないし。


 魔物よけの道具も仕入れておかなければならない。


 私もルキウスも、早くに両親を亡くしたものだから、若いうちから仕事をしなければならなくなって大変なのだ。


「遠出はできませんよね」


 だったら、と代案をひねり出す。


「近くの魔物の森に日帰りで修行することにしますわ」


 そしたら、何のオブラートに包むことなく婚約者にけなされた。


「貴様は馬鹿だ」


 ルキウスの機嫌は急降下。

 原作の時期を待たずにして、婚約破棄もありうるか?

 という顔になった。


「婚約者である貴様が魔物の森に行くのを、俺が黙っているとでも思うのか。後ろ指さされる事になるのは俺だぞ。俺の立場を悪くするつもりか」


 きつい言い方をしてくるが、これは心配してくれているのだろう。

 前に観光地で迷子になった時は、文句を言いながらも探しにきてくれたし。


「でっ、ですよねー。すみません」


 しかし困った。


 魔物の森に行くだなんて事をルキウスに言ったら、止められるに決まっているのに。

 どうして気が付かなかったのか。

 焦っていて、頭がうまくまわらなかったのかもしれない。

 こうしている間にも、破滅へのカウントダウンは過ぎていっているのだから。


 しょんぼりしていると、ルキウスが「はぁ」とため息をついて、声をかけてきた。


「とはいえ、護身術の類も習わないのは問題だ。俺も貴様も執務にとりかかりで、そちらの方はからきしだしな。知り合いにたのんで、良い師を紹介してやろう」

「ルキウス様! ありがとうございますっ!」






 翌日、私の屋敷にルキウスが見つけてきた武術の師匠がやってきた。


 しかし、私は曲がりなりにも貴族の令嬢。一地方の領主なので、手荒い事はできないと述べられた。


 仕方なしに、護身術から習い始める事に。


 すると、みるみる技術が上達。


 私の防御力が上がっていった。


 お師匠様は、「千年に一度の逸材がこの短期間に二人も!」と喜んでいた。


 それで気合を入れたお師匠様は、色々やってくれるようになった。


 物理攻撃に耐える方法、魔法攻撃に耐える方法。


 色々な事を教わって、それらを全部吸収していった私は、もはやその辺りでは敵なしだった。


 一度修行を見に来た婚約者は「貴様は何を目指しているのだ」と呆れていたが。


 貴方との婚約破棄を防止するために、防御力の高い令嬢をめざしているんですよ。とは言えるわけがなかった。


 なので「ちょっと、防御力の魅力に目覚めまして」と返す事にした。


 結果。変人を見るような目で見られた。


 婚約破棄の可能性が高まった?


 あれ?


 私、頑張る場面間違えた?







 修行の方向性を修正すべきだろうかと悩み始めた頃、私はひょんなことからヒロインと出会ってしまった。


 お師匠様から紹介されたのだ。


「自慢の弟子なのだが、攻撃力が高すぎるのじゃ」


 それで、特訓相手が見つからずに困っていたとかなんとか。


 原作でヒロインは、昔誰かに修行をつけてもらったと言っていたが、まさかこのお師匠様だったとは。


 原作の流れを変えてしまうと、どんな影響があるのか分からないが。


 修行相手見つからなくて困っていたのは事実。


 だから私は、しぶしぶヒロインと修行をすることにした。


 攻撃力の高すぎるヒロインVS防御力の高すぎる令嬢。


 その戦いの結果は。


「すごい! こんなに防御力の高い人ははじめてです!」

「くっ、なんて攻撃力が強いの! 気を抜いたら一瞬で塵になってしまいそうだわ」


 いつも互角だった。


 実力が拮抗するライバルが現れたせいだろう。


 私の力はさらにめきめき上がっていった。


 そして、とうとうその時がやってきた。







 その日、乙女ゲームのラストエピソードが開幕した。


 邪神が暴れまわり、人々はなすすべもなく逃げ惑う。


 ここに至るまで、私は婚約者とは喧嘩もしていないし、言い争いもしていない。


 少し呆れられる事はあれど、嫌われるきっかけは、たぶんなかったはずだ。


 だから、ここさえ乗り切れば婚約破棄の運命は乗り越えられるはずだ。


「さあ、我が弟子達よ、暴れまわる邪神を止めるのだ」


 ちょっと原作が変わって、その辺りをうろちょろするはずの悪役令嬢が見当たらなくて、出番がないはずのお師匠様がいたりするけど、些末な事だ。


 ヒロインが攻撃力の高い魔法を駆使して、邪神を追い詰めていく。


 すると、なぜか私にも声がかかった。


「エピアよ、邪神の攻撃を食い止めるのじゃ」

「えええぇっ!」

「何を驚いておる、我が弟子「達」と言ったじゃろう。この日のために修行してきたのであろう」


 いや、自分一人の運命を変えるだけでよかったんですけど。

 別に、人々を守ろうだなんて崇高な使命を持って力を上げていたわけではないんですけど。


 でも、私欲にまみれた本心なんて言えなかった。


 ぐいぐい押されて前に出た私は、邪神が放つ超極太光線の脅威にされされた。


 目の前にまぶしい闇色の光が迫っている!


 婚約破棄の危機にさらされる前に、生命の危機にさらされてる!


「ひぃぃっ!」


 私は情けなく悲鳴をあげつつも、それを受け止めた。

 防御力をあげた私は、身体強化の魔法や魔法無効化の魔法を駆使。


 すると。


 眼前に迫っていた超極太な死の光線が秒で「じゅっ」と消え去った。


 驚異の消失は、一瞬だ。


 一秒もなかったかもしれない。


「えっ、今何が起こったの!」


 私のせい!?

 私の力そんなにとんでもない事になってたの?


 しばらくうろたえる私。

 その隙に、大技を放って硬直している邪神を、ヒロインが仕留めたらしい。


 後日、私達は邪神を止めた英雄として褒めたたえられた。


 やりすぎたかもしれない。








 パーティー会場にドレスで参加する私。


 周囲には多くの人達がいる。


 これで婚約破棄の危機は回避できたはずだ。


 顔良し、頭よし、ちょっと優しい婚約者のルキウスを逃がすなんて失敗を、犯さなくても済むだろう。


 国で行われた英雄のためのパーティ―には、彼も出席してくれて一応褒めてくれたし。


「婚約者より強い女はどうなんだ」とか言っていたけれど、大丈夫よね?


 けれど、危機は予想外の所からやってきた。


 直々に王様に呼ばれた私は「多くの人々を救った英雄を一地方の領主にとどめておくことはできん。これからは王宮に入って、その功績につりあう男性を伴侶に選ぶがいい」と言われた。


 あれ、その立ち位置ヒロインのもののはずでは?


 邪神を止めたヒロインは、用意された各ルートの一つの中で、攻略対象の一人である王子と結ばれる事になるのだが、


 その際に、王宮に迎えられる事になる。


 だが、この世界のヒロインは「もう一人の英雄は我が国の名誉騎士と添い遂げるらしいからな」別のルートに入っていたらしい。


 だったら、その代わりに悪役令嬢が王宮へ入る事になるはずだけど、ぜんぜん存在がない。


 あれ?


 なんて思っているうちに話が終了してしまった。


「国の力を強くするためにも、ぜひ良い返事を期待している」


 あれあれ?


 どうしてこうなってしまったのだろう。

 

 私は優良物件であるルキウスの伴侶になって、その後はそれなりに過ごせればよかったはずなのに。


 王宮なんて、堅苦しそうだし自由がなさそうなのに。


 どうやら、私にはまた新たな婚約破棄の危機が到来してしまったようだ。


「どうしたエピア。先ほど王と話していたようだが」

「ルキウス様ぁぁぁぁぁ! 王様よりどうにか強くなる方法しりませんかっ!!」

「落ち着け、俺は貴様の思考回路が全く理解できないんだが、どうしてそうなった」


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