第7話 王子、なのです
プリン姫が目覚めると、そこには以前と変わらない姿の百合ちゃんがそこにいたのだ。部屋を出ていったのが昨日の夕方過ぎだったという事を考えると、わずか半日程で元の姿に戻ったという事なのだが、一体どんなことをしたら一気に痩せることが出来るのだろうか。太らない体質であるプリン姫もそこは気になって仕方が無かった。
「プリン姫おはようございます。本日はダルダル国のメシアン王子がプリン姫に大切な用があるとのことで午後からやってきますが、いかがいたしますか?」
「うぇ、プリンはあの人達が苦手だからあんまり会いたくないんだけど、どうしても会わなきゃいけないの?」
「私個人としては会わなくても良いかと思っているのですが、今回はグダグダ王子が招待しているという建前がありますので会わないわけにはいかないと思いますよ」
「はあ、本当にあのバカ兄さんはプリンが嫌がることしかしてくれないの。本当だったら大魔王と戦うのもバカ兄さんの務めだったって言うのに、戦いたくないからってなんだかんだ理由を付けてはプリンに押し付けて自分は学校で経済を学ぶとか言って逃げてただけなの。プリンだって大魔王にとどめを刺した以外は何もしてないのだけれど、百合ちゃんがいればプリンでもバカ兄さんでもどっちでもよかったってプリンは思うなのね」
「それは違いますね。さすがに私もグダグダ王子の子守りは出来かねますよ」
ムチムチ王国の王子であるグダグダはプリン姫の兄であり、現在は王国内にある大学で経済学を学んでいる学生でもある。プリン姫には他にも二人の兄がいるのだが、三人の兄全てが王位を継承するための試練をクリアすることが出来ていないのだ。そのため、現在はムチムチ王国には国家元首は不在の状態が続いているのだが、そこは百合ちゃんが上手い事やっているのでさしたる問題はないのである。
グダグダ王子は自分でも王たる器は持ち合わせていないことを自覚しているのだが、それゆえに二人の兄やプリン姫のサポートをしようと努力はしているのである。ただ、そのサポートがどれもプリン姫にとって嬉しくないものばかりであり、無能な働き者としての認識しかされていない状態である。プリン姫が大魔王を討伐することになった一番の原因はグダグダ王子の行動なのだが、グダグダ王子はそれが誰にとっても一番良い事だと心の底から信じていたに過ぎないのだ。実際に大魔王を討伐することが出来たのは慧眼であると言えるのだが、百合ちゃんがいればどの王子でも大魔王を討伐することは出来たのだろうが、プリン姫以外だと百合ちゃんはモチベーションを保つことが出来ずにいて受ける被害が大きくなっていたのかもしれない。
「バカ兄さんたちがプリンのために何かしようとしてプリンのためになったことが一度も無いというのはいつになったら気付いてもらえるのか知りたいなの。百合ちゃんの魔法でバカ兄さんたちの考え方を改めて欲しいって思っているけど、そんなことが出来るならもうとっっっくにしているって事はプリンは知っているからどうすることも出来ないの。ねえ、メシアン王子って何をしに来るか知っているか教えて欲しいの」
「私も王子たちをどうにかしようと思ったことはあるのですが、あの方たちは心の底から人のために頑張っているという思いがあるようです。そんな思いが無くても人の心を簡単に変えるような魔法は使えないんですけどね。そんな魔法があれば私はプリン姫の性格を真っ先に変えていると思いますから。そうそう、メシアン王子はプリン姫に求婚しに来られるそうですよ」
「それって、バカ兄さんがプリンをダルダル王国に嫁がせようとしているってことなの?」
「いえ、どうやらそうではなく、メシアン王子をムチムチ王国の国王にしようと画策しているそうなのですよ。プリン姫のお兄様方は誰も国王になりたいとは思っていないようですし、プリン姫が女王としてムチムチ国を統治するのが一番だと考えているようですね。一方のメシアン王子ですが、彼は王位継承権が絶望的に低いのでダルダル国の国王になることは不可能な状況と言っても差し支えないでしょう。そんな両者の思惑が一致して今回の話がまとまったそうですよ。これはムチムチ国の三馬鹿王子とダルダル国の国王が意図して行っていると言えるでしょうね」
「プリンが結婚するとしても、あの人は無理だと思うんだけど、どうしてそれを理解してくれないのかな。プリンはそこがいつもわからないの」
「全くです。私の力をもってすればダルダル王国程度なら難なく滅ぼすことが出来るという事を理解していなんですかね。理解はしているんでしょうが、私がそれを実行することは無いと踏んでいるのかもしれませんね」
「百合ちゃん、どうしたの?」
「いえ、私もプリン姫が受けている仕打ちを考えると思うところがありますので。今までもプリン姫は多数の嫌がらせを受けていましたからね。彼らは良かれと思って行動しているようなのですが、無能な働き者ほど有害なものはいないと知るべきですよ」
「うん、それはプリンも思うんだけど、百合ちゃんに二つ質問してもいいかな?」
「はい、何でしょうか?」
「ずっと気にはなっていたんだけど、どうしてたった一晩で元の姿に戻れたの?」
「ああ、それは簡単な話ですよ。こことは時間の概念が異なる世界に行ってひたすら戦闘を繰り返してきました。おそらく、両手で足りるくらいの世界を旅してきたと思うのですが、どの世界も楽な戦闘ばかりだったので痩せるのに時間がかかってしまったんですよ。この世界の大魔王もそんなに苦労するような相手でもなかったので期待はしていなかったんですが、どの世界にいる魔王も拍子抜けするくらい貧弱でしたね」
「そ、そうなんだ。それと、人の心を変える魔法があればプリンの性格を変えたいって、どういう意味か教えてくれないかな?」
「特に深い意味は無いですが、もう少し積極的になっていただけると私も助かるなと思っているだけですね」
「積極的ってどういうことなの?」
「例えば、私を強引に押し倒すとかですかね」
「そんなことしたら百合ちゃんに反撃されてプリンは死んでしまうじゃないかって思ってしまうの」
「いや、そう言う事じゃないでしょ」
ダルダル王国の王子とムチムチ王国の姫が結婚するという事は経済的にも大きな意味を成すことになるのでしょうが、プリン姫の意思を無視したこの計画はうまく行くのでしょうか。
それとも、プリン姫と百合ちゃんが知らないだけで何か深い意味が隠されているのかもしれません。
二人には無能と思われているグダグダ王子ですが、その行動には何か大きな理由が隠されているとしたら。この話にも何らかの意図が隠されているのかもしれませんね。
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