木っ端微塵のローザ・ルクセンブルク

チェシャ猫亭

打ち砕かれた夢

 ローザ・ルクセンブルクという女性革命がいる。

 彼女は、あなたと同じ魚座。爆死して、小指の先しか残らなかった。

 友人が、そう教えてくれた。


 小指の先が弧を描き、舗道に着地する。

 爪のバラ色はそのままに、吹き飛んだ肉体の。唯一の、あかしとして。


 なんて美しい死に方だろう。

 以来、爆死が私のあこがれになった。自分の死を甘美なものにしたい。どこか、体の一片だけを残して。

 右の二の腕に、大きな黒子がある。右腕だけが残ったら、それで私だと判ってみらえるだろう、なんて夢想した。

 あるとき、ローザの詳しい最期を知りたくなった。

 なぜ爆死に至ったのか。仕掛けた爆弾が誤爆、とか。

 破壊力を優先し、自分の死も覚悟したのか。

 検索してみて、唖然とした。

 爆死ではなかった、のである。


 ローザは、銃床で撲殺されたのだった。


 なんということ!

 私の夢が、美しき爆死が、木っ端微塵だ。


 友人が、言っていたのは、ウソだったのか、何かの思い違いか。


 遺体は、川に捨てられた。


 その後、半年も放置?

 なんだ。

 それじゃ、私と同じじゃない。


 あ、殺されたんじゃないですよ、自分で落っこちたんです、酔っ払って。

 夏の終わりの夜。レモン杯を片手に、いい気分で橋を渡っていたら。水面に月が映っていて。

 欲見ようと身を乗り出して、そのままドボンと。


 死体は、浮き上がらなかった。川はけっこう深くて、底に大きな岩があって。たすき掛けのバッグのひもが、岩のでっぱりに、うまいことはまってしまったんですね。

 私は、ひもで岩に固定された形になって。そのまま半年以上たちます、多分。

 あいにくに目撃者ゼロだし、捜索願は出たけど、誰も川に注目しなかったみたいで。

 ローザの遺体は、半年して、引き上げられた時には判別不能になってたって、そうでしょうねえ。


 私も、どんな、おぞましい状態になっているか、想像するだけでゾッとするわ。

 幸いと言うか目も見えないから、確かめようがないけどね。


 どうでもいいんですよ、私の死体のことなんて。

 ローザみたいな、立派な革命家なら、まだしも。ただの酔っぱらいの、中年女ですから。




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木っ端微塵のローザ・ルクセンブルク チェシャ猫亭 @bianco3

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