第六話〔続き新規再生文〕 ラスト

 後日──真央は髪を切った。服装も少し整った清潔なモノを意識して着るようになった。

 不思議なコトに髪を切って、身綺麗になった真央は変わった。

 散らかっていた部屋も片付けるようにもなった。

 蝉の脱け殻のように部屋に脱ぎ散らかしていた学校の制服も、極力クリーニングに出したり。

 自分でアイロンをかけたりするようになった。

 ハンガーにかけて壁に吊るした、白く清潔なワイシャツを眺める真央の下着も少し女の子らしい清潔な下着に変わってきた。

 一つの変化が真央の気持ちも変えた。


(どんな結果になってもいい……告白してみよう)

 姿見の鏡に映る、制服姿の自分に語りかける、柊 真央。

「やらない後悔よりも、やる自分……真央、あなたならできる。魔王のあなたならできる」

 鏡の中に映る自分の姿と、小説の中に登場する 『魔王様が、勇者をプロデュースするそうです』 の女魔王と。

 ラノベ作家の魔王。

 そして、等身の女子高校の真央の姿が重なる。

「よしっ」

 うなづいた真央は、自分が書いて出版された。数冊のラノベをカバンに入れると家を出て学校に向かった。


 その日の放課後──真央は女子バスケ部員で親友の葉山 忍に頼んで、桜川 勇太に人気ひとけがない校舎の裏に来てもらった。

 バスケ部のユニフォーム姿で、長身の勇太が向かい合って立つ真央に訊ねる。

「用事ってなに?」

 勇太と向かい合って立つ、真央の心臓は慣れない陸上トラックを周回したように、バクバクしていた。

(落ち着け、落ち着け……あたし)

 近くの茂みの中からは、好奇心旺盛な忍の視線もある。


 ゴクッとツバを飲み込んだ真央は、持っていた自分のラノベが入ったレジ袋を勇太に向かって差し出して言った。

「これ! あたしが書いた小説です! 読んで感想聞かせてください!」

 ほとんど、桜川 勇太にレジ袋を押しつけるような形で渡すと、振り返らずに真央はキョトンとしている勇太を残して走り去っていった。


 数日後──真央と忍は校舎の屋上にいた。

 忍が真央に訊ねる。

「勇太、なんて言ってきた?」

「まだ、何も言ってこない」

 真央は勇太に渡したラノベの一冊に、手紙を挟んだ。


 青い空を見上げながら真央が言った。

「次のシリーズのサブタイトル、今決まったよ『魔王様が、勇者をプロデュースするそうです〔魔王再生〕』」

「いいんじゃない、あたしが世界で一番最初に、せんせーの新シリーズ出たら買って読むから」


 その時、桜川 勇太が屋上に現れ。真央の心臓がドクッと高鳴る。

 真央の所に近づいてきた、制服姿の勇太が真央が渡したラノベが入ったレジ袋を差し出して言った。

「これっ」

 真央が自分が書いたラノベを受け取ると、勇太がすまなそうな顔で言った。

「ごめん、忙しすぎて読んでいる時間が無かった……せっかく、教えてくれたのに本当にごめん」

 勇太の様子だと、本の間に挟んだ手紙は読んでいないようだった。

 真央は安心したような、残念なような、そんな複雑な気持ちでレジ袋に入った自分の作品を抱き締めて勇太に言った。

「気にしなくてもいいよ、急に感想を求めたあたしも悪かったんだし」

 屋上に微風が吹き抜けて真央の髪を揺らす。


 勇太が照れ臭そうに言った。

「読んでいないのにこんなコト言うのも、変かも知れないけれど……小説の内容を書いた本人から聞かせてくれないかな」

 真央がラノベ作家『魔王』であるコトを学校で知る、身近な二人目に勇太はなった。


 尊敬の眼差しで真央に、正直な今の気持ちを伝える勇太。

「本当にすごいよ、そんな本を書ける才能! こんな身近に小説家の先生がいたなんて──オレ本を読むのは小学生のころから苦手だけれど……読者になってみたい『魔王』先生の読者に」


 忍が「やったね♪」といった感じで、真央の横腹をヒジで軽くつつく。

 興奮気味に勇太は続けてしゃべる。

「小説の先生と、どう接したらいいのかわからないけれど。オレと友だちになってくれるかな?」


 うなづき、答える真央。 

「うん、いいよ」

 そう言って真央は、青い空の下で微笑んだ。


  ~おわり~


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