晴れ、ところにより勇者

じょん

第1話:PT追放のススメ

 良い子のみんな、元気かな?

 オレは今日も元気です。


 さて、突然ですがここで質問です。


 Q・空から可愛い女の子が降ってきたらどうしますか?


 A1・もちろん 助けるぜ!

 A2・ヤバそうだから逃げるぜ!


 健全な男の子ならまあ、A1を選びますよねオレだってそうします。


 では、降ってきた可愛い女の子が勇者だったら。

 あなたは、どうしますか?


 これは、そんなお話。



 ある爽やかな秋晴れ、爽やかすぎて涙が零れそうなそんな午後。

 一人の冒険者がとぼとぼと丘越えの街道を歩いていた。


 どーも、主人公のオレですコンゴトモヨロシク。


 てかなんで主人公たるオレがこんなとこ一人で歩いているのか!

 よくぞ聞いてくれました奥さん!

 いや奥さんじゃなくてお嬢さんでしたかこりゃ失礼。

 今ならこの何の変哲もない路傍の小石がなんと半額の5000G!

 ご注文の遠話魔法はこちらのチャンネルまで!

 オペレーターがお待ちしておりまっす!


 とまあそんなツカミはそこそこに。

 語りますは語るも涙語らぬも涙のお涙頂戴物語。

 語るの?語らないの?とかのツッコミ無用でここは一つ。

 

 この度、オレは巷で流行りのPT追放イベントを解放してしまったのです。

 追放されたのはなんと!オレ。

 いやいや無能じゃないっすよ、自分で言うのも何だけど、そこそこ有能。

 さすがにチート持ち転生者や実は超有能な不遇スキル持ちとかじゃありませんが。

 そこはそれなりってことで。

 そんな、普通なオレがまさかの追放。

 おっと、忘れちゃいけない追放した側の彼ら。

 そうです元・PTメンバーの皆さん。

 自慢じゃないですがめっちゃ有能。まさに人材の玉手箱。

 ちなみにPTリーダーは爽やかイケメンでイクメンなオレの幼馴染でマブダチ。

 ハーレムなんてまるで眼中にない嫁さん一筋20年。

 嫁さんもオレの幼馴染で村中憧れのマドンナ。

 いやあ、彼女の結婚が決まった時はそりゃもう泣いたね、まじ大泣き。

 村の同期一同で旦那(イケメン)を拉致って池に沈めようとかしたもんだ。

 しかし、この世に悪の栄えたためしなし。

 嫁さん(マドンナ)に見つかり全員半殺しで焼き土下座。

 旦那(イケメン)の仲裁がなかったら今ごろ何人かはウェルダンだね!

 美味しそうだね!


 さて、そんなイケメン率いる我らがPT、愉快な仲間を紹介するぜ!

 鉄壁を誇るはちょっとお茶目なタンク担当、ドワーフ女子!

 参謀はご存じ中級魔導士、イケメンの嫁さん(マドンナ)!

 回復担当はいつもニコニコ現金払いの、ものぐさ坊主!

 そしてトリを務めますは雑用担当、オレ!


 いやいや、雑用担当はさすがに酷いんじゃない。

 これでも斥候だよ斥候。

 斥候って知ってる?

 盗賊とか盗人とかとよく間違われるから要注意。

 試験に出るからね、ここ。

 物陰から獲物めがけて精密射撃。

 開けられない鍵はなく。

 解除できない罠はなし。

 解体処理もお手のもの。

 力仕事も計略も、専門職にはちょこっと及ばないけど。

 自慢の薬草学も回復魔法にはだいぶ及ばないけど。

 困ったときの何でも屋。

 ……やっぱ雑用担当じゃん。


 精密射撃が1km先から10㎝の的とか当てられたらアナタも一躍人気者。

 だけど現実は無理無理無理のカタツムリ。

 どんだけがんばらなきゃいけないのか。

 まずそんな距離見えねえって、どっかの草原の民かよ。

 それこそ長寿ご自慢エルフ村の住人くらい気長じゃなきゃ無理だっつーの。

 日がな一日見えもしない的に目を凝らすなんてどんな人生よ。

 そんなこんなで弓だけでなく一事が万事この有様。

 帯に短したすきに長しってまさにオレのことだね

 困ったときには頼りになるが、困らなければどうということはない

 当たらなければなんとやらみたいなもんだよ!

 言ってて悲しくなるよ!




 てなわけでそこそこでそれなりなオレだけど、PTではそれはもうそれなりに有能ポジ?な扱いだったのさ。

 イケメンご夫妻もいたしね!

 おっと、言い忘れたけど、イケメンはイクメンって言ったよね。

 イケメン夫妻には子供がいたわけさ。

 イケメン夫妻に似て珠のように可愛い娘さん。

 目に入れても痛くなさそうなので目を近づけてみたら目つぶし食らったよ。

 将来有望間違いなしの太鼓判。

 ちなみにその時一緒にいたイケメン嫁さん(マドンナ)にぶん殴られたね。

 母は強し。

 でだ、子供連れで冒険かって問題が出てくるわけだけど。

 嫁さん(マドンナ)のご実家ですくすく育てられておるわけだ。

 いつ戻れるかわからない住所不定ほぼ無職のような冒険者稼業。

 子供の成長を見守れないなんてなんという地獄か。

 ところがどっこいそんなあなたにご朗報。

 皆のあこがれ転移魔法の出番ですよ奥さん。

 いつでもどこでも自宅に一発帰還の優れモノ。

 ちょっと花摘みにオホホホとか言ってる間に行って帰ってくるんだから無問題。

 便利な世の中になりましたねえお爺さんとか言いながら縁側で茶でもすする勢い。

 とはいえ必要魔力は相当なもの。

 毎日の往復分を確保するためには計画的省エネ運転。

 そこらのPTなら一触即発ですよ。

 しかしそこはそれ、イケメン率いる我がPT。

 可愛い娘さんのためなら知恵を絞って効率化。

 稼ぎ減らさず魔力減らそうのスローガンのもと、日々戦ってきたわけですよ。

 

 で、オレも無い知恵絞って閃いた。

 転移魔法に並ぶはいつか欲しい素敵アイテム10年連続ぶっちぎりNo.1。

 その名もマジックポーチ!

 マジックバッグとかストレージとかいろいろ呼び名がある例のアレね。

 誕生日のプレゼントに贈った日には気になるあの子もメロメロですよ。

 そんなわけで提案してみたさ

 いちいち帰るより、マジックポーチに入れておきゃよくね?

 いやあ、思い出しただけでもズボン濡らしそうだわあの笑顔。

 イケメン嫁さん(マドンナ)にすっごい笑顔で微笑まれたね。

 まさに天使の笑顔。


 そしてしこたま怒られた。

 子供が成長しなくなるってね。

 なるほど確かにマジックポーチ。

 お値段相応の時間延長効果!みたいなのがありまして。

 それなりの金貨を積みますと、時間停止とまではいかないがなかなか優秀。

 狩った獲物も狩りたてほやほやっぽい状態で持ち運べる優れもの。

 可愛い盛りのままいつまでもお楽しみ可能ときたもんだ。

 え、ダメ?そうだよねー。

 入れてもいないのに周囲の時間が止まったよねあの時は。

 イケメンの仲裁がなかったら今ごろ以下略だったね。


 さて、そんな我らが仲良しPT。

 PT追放なんていう残念イベントが発生したわけで。

 きっかけは、日頃お世話になっている領主の一言。


 ——チミたちさー将来有望なPTに花のないメンバーがいるよね。


 その場が凍り付いたね絶対零度くらい。

 次の瞬間一斉にオレのこと見たのよ。

 あろうことかイケメン含むPTメンバー全員も。

 可能ならオレもオレのこと見たかったよ!

 わかってるんだそんなことはさあ。

 次の瞬間皆が目を逸らしたよ明後日の方向に。

 なんとなく気まずくなっているところにさらなる追い打ち。


 ——せっかくだからウチの娘と入れ替えてみない?


 うっわぁ……有望PTに自分の娘入れて自分の名を上げようって魂胆丸見えなの。


 さすがにそれはとイケメンがお断りしようとしたとき。

 ババーンと開かれる扉の向こう側に颯爽と現れる一つの影。

 いやいや驚いたよ。

 めっちゃ美少女。

 領主の遺伝子どこいったって具合の。

 奥さんの身辺調査したほうがよくね?って思ったくらい。

 ……言わないよ、流石に。


 イケメンも言葉を失ってたよ。

 次の瞬間嫁さん(マドンナ)に腹つねられて悶絶してたけど。

 ちょっといい気味と思ったのはここだけの秘密。

 

 で、あとは流れるようにPT追放かと思いきやそんなことはなく。

 一応領主の顔を立ててお試し雇用2週間。

 客寄せパンダではさすがに困るということで。

 戦力不足であれば残念ながら今後の活躍をお祈りしますとの約束で。

 ダンジョンに挑んだわけですわ。

 ちなみにオレは街でお留守番。

 こんな機会とばかりにちょっとエッチなお店へGO!したりもした。


 待てばカイロもあったかいとばかりにのんびり待つこと1週間。

 ちょっと早くね?とは思ったが我らがPT(我抜き)のご帰還。

 すわ敗走かと心配して駆けつけるも、みな満面の笑顔の原因はこれ如何に。

 聞けば領主ご令嬢獅子奮迅の大活躍。

 東方のどっかで修行して学んできたのはニンジャの秘術。

 いわゆる上級職って奴ですよ。

 ついでに野営時には甲斐甲斐しくもおさんどんまでしてくれる家事万能ぶり。

 料理をべた褒めしたイケメンが嫁さん(マドンナ)に殴られるハプニングもあり。

 しかしすぐさま嫁さん(マドンナ)に頭を下げつつもイケメンを諫める漢っぷり。 愛する人がいるのに無闇に他所の女の料理を褒めちゃだめですよ、ときたもんだ。

 ここでイケメンをかばうような全自動修羅場製造地雷女じゃなかったいらしい。


 皆イチコロだね。

 オレだってその場にいたらイチコロだったろう。

 くそう、その場にいたかったぜ。

 なにこのパーフェクトイケメン(女子)。

 

 これはもう戦う前に勝負ありって雰囲気ばりばり。

 ただ、嬉しいことにイケメン夫妻は最後までごねてくれた。

 ご令嬢とオレ両方連れてきゃいいんじゃね?って言ってくれた。

 でも、現実問題それって同情でしかないよね。

 同情が悪いとは言わないけど、オレの矜持がもたない。


 オレが必要な理由十個挙げろって言ったら困るだろ、君ら。


 って言ったら黙られた。

 ……まじかー。


 ——オレの良いとこ十個見つけたら声かけてね。

 ——オレもご令嬢に負けないくらいの男になって帰ってくるからさ!

 ——君らも一回り成長したオレが戻るにふさわしいPTになっておいてよ!


 とまあそんなこんなで惜しまれつもPT追放となったのでありました。

 ……惜しんだよね、みんなも。

 ちょっとでいいからさ。

 

 一応救いがないわけじゃなかった。

 今回の有望PTへの領主ご令嬢電撃加入は領主とご令嬢の株を上げるため。

 領主はともかくご令嬢は株が上がれば近い将来のご婚礼も引く手数多間違いなし。

 ご婚礼後はやんごとなきお立場になるに違いなく、冒険者稼業廃業待ったなし。

 PTに空席が出来るというわりとナイスな未来予想図。

 数年の我慢かぁ……。

 負けないもん。

 絶対あなたを見返してやるんだから!   

 今更後悔しても遅いんだからね!



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