魔剣少女と呼ばないで ~天音編

ちい。

第1話

「行きはよいよい、帰りは怖い……ってか?」


 少女はにたぁっと笑うと柄に数珠を巻いた刀身二尺七寸六分の刀を肩に担ぐ様に乗せた。柄に巻かれたその数珠の親玉は一寸程、一回り小さい百八ある主玉にしても五分程の大きさであり、柄からだらりと垂れて少女の前腕へと巻き付けられている。


「なら……我が道を真っ直ぐ振り返らずに進むだけだよ」


 緩やかな風が吹いている。その風に吹かれ、少女の長く濡鴉の様に艶のある長い黒髪がさらりさらりと靡いている。前髪を少し太めの眉の上で真っ直ぐに切りそろえ、そして少しつり目勝ちの意思の強そうな瞳が真向かいににいる一人の女性に向けられ、その椿の様に真紅の唇は両端をきゅうっと釣り上げ笑みを浮かべている。


「……大層な自信家ね」


「可笑しいかい?」


「いいえ……若いうちはそれ位の元気がなきゃ」


 真向かいに立つ女。年の頃は二十代後半。少女と対照的に亜麻色の髪、少し細めに整えられた眉と垂れた大きな目。女は少女に向けくすりと笑うと、そのぽってりとした桜色の艶っぽい唇が少し開き白い歯がちらりと見えた。


「まぁ、うちはあんたみたいなおばさんよりずぅっと若いからね。そりゃぁ、元気も有り余ってるさ。あんたを倒して前に進めるくらいにはね」


 少女が来ている紺色のセーラー服のスカートが風でふわりと軽く舞い上がる。その言葉使いと肩に担ぐ様に持つ刀、数珠丸恒次じゅずまるつねつぐがなければ、誰もがその姿に魅入ってしまう程の美少女である。


 そして、真向かいの女もそうである。はち切れんばかりの豊満な胸を白いシャツに押し込み、きゅっと引き締まった腰に萌葱色のハイウエストのフレアスカート。その裾からは黒いスウェードのラウンド・トゥでヒールの高いハイブーツが覗いており、こちらも男女問わず衆人の目を引く美女であった。


「井の中の蛙、大海を知らず……まさにあなたにぴったりの言葉ね……お嬢ちゃん。ここにはパパやママは居ないのよ?」


「そう、あんたにしてみりゃ、うちは井の中のかわずさ。されど蛙は……井戸の中から、空の蒼さを知り、天の高さを知り、地の深さを知る事ができたのさ」


「……へぇ、言うわね。ならそれを見せて貰わなきゃね」


 女はそう言うと持っていた二尺一寸八分の大典太光世おおでんたみつよを鞘からすらりと抜いた。少女も数珠丸恒次を鞘から抜く。天下五剣と呼ばれた二振りが相見える。そして、ぼんやりとした月明かりに照らされ、その研ぎ澄まされた刀身を光らせた。


「さぁ……お嬢ちゃん、踊りましょうか?」


 

 

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