特殊資料調査室【第一部完】

透峰 零

第一部

第1話 先輩

 怖い先輩がいる。



 あとでまた話すことになるとは思うが、僕の職場はいわゆるオカルティックなものを扱っている。

 その名を特殊資料調査室。

 警察局に設けられた歴とした部署だが(名前だけならwikiにものっていてひっくり返ったことがある)職務内容は極めて特殊である。

 すなわち、怪異の蒐集。

 全国津々浦々、ありとあらゆる場所に散らばる不可思議な現象を検証し、必要とあらば資料として保存する。それが仕事だ。


 配属された僕の世話係として引き合わされたのが『先輩』だった。

 その先輩が、怖いのだ。

 設立時からのメンバーだという彼は知識も経験も豊富だし、面倒見も良いので室内でも慕われている。


 ――怖いのは、誰も彼の名を覚えられないことだ。


 僕とて、名刺を貰った。名前だってメモをした。入り口には彼の名前が書かれたマグネットが予定板に貼られている。


 なのに、その名前が出てこないのだ。

 名刺、メモ、マグネット。いずれも、一瞬でも目を離せば彼との繋がりを思い出せなくなる。

 信じてもらえないだろうが「これは誰の名前だっけ?」となるのだ。


 仕方がないので皆、彼のことを『先輩』と呼んでいる。



「あれが俺達の行き着く先だよ、新入り」

 囁いた主任が古い名簿帳を捲った。


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