第57話 説得を試みる王子
そう言ってギルバートは馬から降りた。そこには驚いたシャーリーが馬に跨っている。そしてそんなシャーリーを見て国民達も驚いたような顔をしていた。
「彼女はシャーロット王女の双子の妹だ。ずっと、存在を隠されてきた、もう一人のシャーロット姫。君達に馴染みがあるのは、恐らくこちらのシャーロットだろう。そうだな? シャーリー」
ギルバートが言うと、シャーリーはコクリと頷いた。そんなシャーロットを見て国民達はゴクリと息を飲む。
「で、でも姫様はいつも仮面をしてて……」
「仮面……持ってるわ、ちゃんと」
そう言ってシャーリーはポシェットからあのお馴染の仮面を取り出してつけた。それを見て国民達はさらに息を飲んだ。
「ど、どういう事なんだ⁉ 俺達は騙されてたって……そもそもあんたは誰なんだ⁉」
もっともな男の叫びにギルバートは深く頷いた。
「僕の名はギルバート・グラウカ。アルバの元王妃の企みを知ったシャーロット姫にある相談を持ちかけられて、今回の作戦に手を貸した」
全くの嘘だが。
何ならあの悪役令嬢はギルバートさえ利用しようとしていたが、この際それはもう水に流そう。婚約は無事に破棄されて棚ぼたで友好条約も結べたしな!
「グラウカの……銀狼に、姫様が……相談……?」
「ああ。元王妃は王に呪術を使って言いなりにしてアルバを乗っ取るつもりでいる。それを阻止するために自分が犠牲になるから手を貸してくれ、とな」
「なんて事だ……で、でも何故そんな……シャーロット姫様だけが……?」
「それについては私からお話します。少し長くなりますが、どうか最後まで聞いてください。実は、私ともう一人のシャーロットだけが父さまの血を引いています。母親はシャーリーン・ローランド。ユエラ姫とセシル姫はモリス王の娘です。元王妃はアルバに嫁いでくる前からモリス王と関係がありました。アルバに嫁いできた時には既にユエラ姫を妊娠している状態だったんです。それでも父さまはその結婚を受け入れなければならなかった。何故なら……私達の母親、シャーリーン・ローランドを人質に取られていたからです」
シャーリーがそこまで言って、大きく息を吐いた。手が可哀相なほど震えていたので、ギルバートはそっとシャーリーの手を握り耳元で言った。
「大丈夫だ。キャンディハートさんを信じろ」
「! はい」
シャーリーはギルバートの手を強く握り返してまた話し出した。事の顛末を。
「私達の母、シャーリーンと父の出会いは、父がモリスに遊学に行った時だと聞いています。それから二人はずっと文通をして仲を深めて行ったそうです。母の爵位は子爵家と低く、結婚をするには問題が山積みでした。それでも父はどうにかアルバの前王の許しを得て、母をこちらに呼ぼうとしたそうです。ところが、それに気付いたモリスの王に脅されたのです。元王妃を妻にしろと。でなければシャーリーンは殺す、と。もしも断れば、その時もシャーリーンを殺すと脅された父は、既に身籠っていた元王妃を妻にする事を選んだのです。その代わり、父は母を愛人として側に置くことが出来ました。けれど、この時からモリスの恐ろしい計画は始まっていました。父の結婚後も元王妃とモリス王の関係は続いていて、ユエラ姫が生まれ、一年後にセシル姫が生まれ、それから二年後、ある呪術師が母の元に訪れたそうです。この頃、母は姉をお腹に宿していました。そこへ安産の呪術をかけるよう父に言われたと言ってやってきた呪術師に、母は何の疑いも持たなかったそうです。そして生まれたのが私達、双子のシャーロットでした。そう、呪術師は呪術を使いお腹の子供が双子になるよう仕向けた。アルバでは双子は禁忌です。もしもそれがバレてしまえば母は本当に殺されてしまうかもしれない。こうして妹である私は父の命で殺される事になったのです。ですが、元王妃は私をこっそりと生かすよう指示しました。それが、それこそがモリスの三国統一計画の一部だったから……」
「三国……統一計画……?」
国民達はとても信じられないような話に、皆一様にポカンと口を開けていた。
「そうだ。モリスは二人のシャーロット姫を使って、とんでもない計画を立てていた。まずはグラウカとモリスの戦争にシャーロット姫が仕組んだと言ってアルバの兵士を投入する。もちろんグラウカは規定違反だと怒り、計画を企てたシャーロット姫を捕える。ここでグラウカがシャーロット姫を処刑し、国民の怒りの矛先をグラウカに向けて攻め込ませた所で、シャーロット姫がモリスで生き返ったと言ってもう一人のシャーロット姫を使って宣言する。そうするとどうなる? アルバ王はみすみすシャーロット姫を処刑させた無能だ。蘇ったシャーロット姫はモリスを選んだ。そういう流れに嫌でもなるだろう。それこそが、モリスの作戦だった。そうしてモリスとアルバを統一し、グラウカを攻め落とす。これがモリスの三国統一計画だ。お前達はまんまとモリスの作戦に踊らされていたという事だ」
「そ、そんなのは全て作り話だ! 姫様が二人だなんてそんな……」
「でも確かにユエラ姫とセシル姫は王には似てない……どちらかと言うと、髪の色なんかはモリス王にそっくりだ……」
「それに突然シャーロット姫が処刑された、王と離縁するって言うのも変な話だ。シャーロット姫が処刑されるのなら、それこそグラウカでまずは裁判があるはずだ。そうなったら絶対に王妃も王も裁判に出向くはずなのに、それも無しに処刑なんて……いくら残酷なグラウカでもそれは流石にしないだろ……」
「……酷い言われ様だ」
耳が良いギルバートには国民達が囁いていた声がしっかりと聞こえていた。
しかしどうもギルバートのイメージは他所ではまるで悪魔か何かのように伝えられている。謎である。
そこに突然、ここに居るはずの無い人間の声が聞こえて来た。
「あんた達! 王子の話は本当だよ! あと、そこに居るのも本物のシャーロット姫だ」
「ロタ!」
「あ、シャーリー、君が走ったら……」
ギルバートが止める間もなくシャーリーはそう言って、嬉しそうにロタに駆け寄ろうとして盛大にこけた。
その時にサイラスが二人の姫達に持たせたオヤツの干しブドウを思い切りぶちまけ、その干しブドウめがけて猟師たちが連れて来ていた猟犬達が一斉に飛びかかった。
一心不乱に干しブドウにありつこうとする猟犬達に飛び掛かられて、あちこちから悲鳴を上げる国民達を見てギルバートは頭を抱え、ロタは呆れ、シャーリーは狼狽えている。
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