第52話 バラされる王子

 一方、突然の事にシャーリーはポカンとしてシャーロットとギルバートを交互に見た。そしてポツリと言う。


「……え……嘘……」

「嘘じゃないわ。ロタは逃げたって聞いてるけど本当の所は謎だし、レイリーだって処刑された。それを決定したのはコイツよ」


 ビシッとギルバートを指さしてくるシャーロットにギルバートは眉根を寄せた。それは誤解である。というよりも、それは混乱させる為の嘘である。


 レイリーは今も牢に居るし、ロタも拷問部屋を好きに改造してゴロゴロしている。たまに飴を所望してくる図太さだ。


 けれど、それを聞いたシャーリーは黙り込んで涙目でギルバートを見上げてきた。


「全部……お芝居……だったんですか……?」

「それはちが……わないかもしれないが……」


 こんな時に口下手な自分を呪いたくなるギルバートである。ただ誤解のない様にこれだけは言っておきたい。


「キャンディハートさんが好きなのは本当だ。君の事をずっと本当に替え玉だと思っていた事も。それが双子だと分かったのは、彼女を捕まえた時だ」

「……どうして……」

「君がヒントをくれたんだ。スーミレの花言葉。僕はシャーロットにはピンクのスーミレを渡した。君には黄色いスーミレだ。スーミレは色によって花言葉が違う。それで君達は双子だと気付いたんだ」

「……姉様? 私……それも話したよね?」


 涙目のシャーリーに、シャーロットまで青ざめて何か言いたげにギルバートを睨んでくる。


 どうやらシャーロットはやはり、このまま自分が処刑されるつもりだったようだ。そしてそれをバラしたギルバートに怒っているようだが、これは自業自得である。もちろん、ギルバートもなのだが。


「ち、違うの。そもそもね、この男私の手を握って気付いたのよ! だからちょっと試してやろうと思ったの! 本当にそれだけよ? 別に深い意味は無かったの!」

「本当か? 最初からお前、入れ替わる気なんて無かっただろう?」

「煩いわね! あんたは黙ってなさいよ! この嘘つき男!」

「う、嘘つき男⁉ それはお前だろう!」

「うっさいわね! 大体手握って気付くとか気持ち悪いのよ!」

「仕方ないだろう! シャーリーの白パンはもっとモチモチフワフワだったんだから!」


 そこまで言ってギルバートはハッと口を噤んでシャーリーを見た。シャーリーは驚いたような顔をしてギルバートとシャーロットを見ている。


「……もしかして……二人とも……凄く仲良し……なの?」


 その言葉にギルバートとシャーロットはお互いの顔を見合わせて同時に首を振って叫んだ。


「違う! 僕が好きなのは君だ!」

「違うわよ! コイツが好きなのはあんたよ!」

「……え?」


 二人の言葉にまた驚くシャーリー。


「ど、どうしてお前が言うんだ! せっかく僕はロマンチックに告白しようと画策していたのに!」

「そういう所が気持ち悪いって言ってんのよ! 何よ、ロマンチックって! 狼男にロマンチックも何もないわよ!」 

「なにを⁉」

「なによ!」


 牢越しに顔を突き合わせて罵り合う二人をしばらく見つめていたシャーリーは、とうとう涙を零しだしてしまった。


「シャ、シャーリー、黙っていたのは本当に悪かった。でも騙そうとした訳じゃないんだ! この通り僕は口下手で小心者だから、それで……」

「そ、そうよ、シャーロット。私は別に自分が処刑されればいいだなんて思ってなかったんだからね⁉ ちゃんと隙見て逃げようとしてたわ!」


 言いながら牢の中をチラリと見たシャーロットは、足で急いで牢番に貰ったオヤツをカーペットで隠した。あんな物を見られたら、牢生活を満喫していた事がバレてしまう。


 そんな二人の言葉にシャーリーは首を振ってようやく顔を上げた。その顔はどこか安心したように微笑んでいて、ギルバートもシャーロットも互いに顔を見合わせて胸を撫でおろす。


「良かった……姉様、無事だった……元気そう……良かった」

「元気よ。何ならアルバよりご飯も美味しいわよ」

「ふふ、そうなの?」

「ええ。太りそうよ。特にフルーツが沢山乗ったタルト! あれ絶品ね!」

「……そんな物食べてるのか? ロタといい君と言い、アルバの者達は厚かましいな!」


 ギルバートが白い目を向けながらそんな事を言うと、それを聞いたシャーロットとシャーリーは目を丸くしてギルバートに飛び掛かって来た。


「ちょっとどういう事なの⁉ ロタはもしかしてまだここに居るの⁉」

「ロタは生きてるんですか⁉ 本当に⁉」

「お、落ち着け二人とも。生きている。ロタもレイリーも。ロタに至っては悠々自適に拷問部屋を改造して暮らしているぞ。この間なんて、僕に飴をもっと寄越せとせびって来た」


 ロタとレイリーの近況を二人に伝えると、二人は手を取り合って安堵したようにその場に座り込んだ。


「そうなの……良かった……あの二人には幸せになって欲しかったの、ずっと……」

「良かった……でも、何でそんな嘘……」

「どこにスパイが潜んでいるか分からなかったからだ。僕は君達の作戦にまんまとハマってしまっていた。ロタとレイリーをああでもしないと、下手したら今頃既に戦争していたかもしれないんだ。避けられるはずの無益な戦争を」


 眉を吊り上げたギルバートに、双子はシュンと頭を下げた。


「そうね……それは反省してるわ。父様があんな事にならなければ、私がさっさとあんたに嫁いでいれば、モリスとは戦わないといけなかったかもしれないけど、グラウカとは戦争にはならなかったはずだもの……」

「いや、それは感謝しているぞ、シャーロット。僕はお前には婚約破棄してくれと手紙を出す予定だったんだ」

「なんで!」

「当たり前だろう⁉ 僕のような繊細な人間に悪役令嬢は荷が重すぎる!」

「失礼ね! 私だってあんたなんてこっちから願い下げよ!」


 また睨み合う二人にシャーリーは今度は涙を拭いながら笑い出した。そんなシャーリーを見れば、シャーロットもギルバートも黙り込むしかない。


「まぁいい。君がどんな人間かは分かった。ついでにシャーリーンも城に連れてきている。親子三人で会ってみたらどうだ? シャーリーンはシャーリーが生きている事を知らないんだろう?」


 ギルバートの言葉にシャーロットはゴクリと息を飲んでシャーリーを見た。すると、シャーリーは嬉しそうに頷く。

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