第49話 ヤケになる王子
「だったらシャーロットを野放しにはしないだろう?」
「王妃は姉さまの事を大事な駒のように思ってます。だからほとぼりが冷めたら姉さまを引き取るつもりなんです。王妃は最後まで姉さまを利用するつもりだと思います。それは姉さまがずっとそうやって振舞ってきたから。逆に私は王妃に嫌われるよう仕向けた。そこで今回の作戦を姉さまから王妃に持ちかけたんです。アルバから王妃と娘たちを逃がし、アルバを孤立させる。そこを一気にモリスから襲撃をかけてまずは二国を統一しようって」
「その後はどうするつもりだったんだ?」
「その後はグラウカにアルバを攻めてきてもらうつもりだったんです。モリスとアルバの戦力を足したってグラウカには敵わない。何せあの銀狼が守護する国だもの。アルバはもうモリスの属国みたいになってしまってる。実権が父様から王妃に移った時点で。だからグラウカに喧嘩を売ったんです。モリスとの戦争に無理やりアルバも参戦してみせた」
「なるほどな……【グラウカにアルバを引き取らせるつもりだったという事か。それなら】もっと良い手がある。何の犠牲も出さずにアルバとグラウカが友好条約を結ぶ方法が」
ギルバートの言葉にシャーリーは目を丸くした。
「一体……どうやって?」
「それはまだ秘密だ。だからシャーリー、その時は君の力を貸して欲しい。とりあえず話は分かった。これからここの者達を全員連れてグラウカに移動する。準備は出来るな?」
真剣な顔で言うギルバートに、シャーリーもまた真剣な顔で頷いた。
「では、僕は馬車を用意しておこう」
ギルバートはそう言って部屋を出ると、怪訝な顔をして待っていた女に言った。
「会わせてくれてありがとう。有益な時間だった。ところで店の娘たちは全部で何人なんだ?」
「15だよ」
「そうか。では、準備を頼む」
それだけ言って入り口に戻ったギルバートは、待っていた騎士達にここに居る者達を全員グラウカに連れて帰るよう指示を出した。
「ぜ、全員、ですか?」
「ああ、全員だ。【仲間外れにしたら可哀相だろうが! しかしあの二人は姉妹仲が悪かった訳ではなかったのだな。それは少し嬉しかったぞ、シャーロット。帰ったらやる事が山ほどあるな。まずは兵を】分けて少しずつ【配置しておくか。食料も確保しておかなければ。】運び出す為に荷馬車がいるな」
「畏まりました!」
「ん? ああ、頼んだぞ」
ギルバートの言葉を聞いて騎士達はあっという間にそれぞれ準備に走り去ってしまった。何も言っていないのにギルバートの指示をいちいち仰がず最善の行動をする、とても優秀な部下たちである。
しばらくすると一台の荷馬車がやってきた。それを見て首を傾げるギルバートに騎士が言う。
「まずは第一陣、出発します!」
「【第一陣? はっ! なるほどいくつかに分けて運ぶのか。賢いな! 確かに全員が一度に居なくなるには無理があるものな!】頼んだ」
ギルバートはそう言い残して店に戻り、騎士に倣って店に残っている非番の者達を、女主と共に分けた。
◇◇◇
ギルバートが感心している間に既に準備を終えていた非番だった女達が馬車に乗り込んだ。そこへ一人の酒を片手に持った客が来てヘラヘラ笑って言う。
「おーなんだなんだぁ~? 皆して夜逃げかぁ~?」
それを聞いて御者を務めていた騎士がギョッとしたのも束の間、馬車に乗り込んでいた一人の女が嬉しそうに馬車から顔を出して男に言った。
「あら、またこんな時間から飲んで! 違うの。それがね、どうやらこの間来たお客様の中に物凄い人が居たみたいなの! 今日になってお店を改装してくれるって事になって、その間、私達はここには住めないからしばらく分かれて色んな店に行く事になったのよ! 改装が終わったらまた遊びに来てちょうだいね」
女がウィンクすると、男はそれを聞いてヘラヘラと笑って返事をして去って行った。その途端、女は騎士に真顔で言う。
「今ので良かったかしら?」
「あ、ああ。上出来だ。おかげで分けて運びやすくなった。ありがとう」
「構わないわ。あなた達、私達を助けに来てくれたんでしょ?」
「……そうだな。結果的にはそうなるのかもしれないな」
「じゃ、ちゃんと協力するわ。よろしくね、お兄さん」
女は笑って馬車にまた引っ込んだ。ギルバートが一体何を考えているのかはさっぱり分からないが、こんな事を彼が指示するのは珍しい。きっと何か策があるのだろう。
騎士は分かる筈もない事を考えながら馬車を走らせた。
◇◇◇
ギルバートは次々やってくる馬車に女たちを詰め込み、最後にやってきた馬車にシャーリーと女主と共に乗り込んで一息ついていた。
客を取っていた者達の仕事が終わるのを待っていたらすっかり遅くなってしまったが、この分なら明日の夜にはグラウカに到着するだろう。アルバがシャーリーを匿った娼館が国境の境で本当に良かった。
『営業時間内に全員居なくなったんじゃ怪しまれる!』という女主の言う事はごもっともだったので、ギルバート達が出発をしたのは夜だった。土壇場の所でふとギルバートは思い立って女主に許可を貰って娼館に火を放った。こうしておけばここにギルバートが来たと言う証拠も何もかも消え去るだろう。
「で、これからどうすんだい? 真っすぐグラウカに向かうのかい?」
「いや、アルバとグラウカの国境近くの教会に寄る」
「え⁉」
ギルバートの言葉に何か気付いたのか、シャーリーが息を飲んだ。
ギルバートはここに来る前、シャーリーの侍女をつけていた騎士に言った。シャーリーの身辺に居た解雇された者達を集めてあの教会に匿っておいてくれ、と。
ギルバートは単純にシャーリーが喜ぶだろうと思ってした事だったが、シャーリーの今の反応を見てふと思った。そう言えばあの教会にはシャーリーンも居たな、と。
もうこうなったらヤケだ。シャーリーンもついでに連れて帰ってしまおう。
どのみちモリスはまだ動かない。というよりも動けないはずだ。王妃が戻ってくるまでは。その王妃はシャーロットの処刑を聞いて実際にシャーロットが帰って来ない限り戻れない。
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