第48話 安堵する王子

「なるほどね……道理で必死な訳だ。あんたもさては巻き込まれた口かい?」

「まぁ、そんなようなものだな」

「上の人達が何考えてんのか、私達にゃサッパリだよ。あんたの話に乗ろうじゃないか。私達はどうすればいいんだい?」

「何もしなくていい。俺達と共に旅芸人の振りをして深夜にここを抜け出す」


 ギルバートの言葉に女主は頷いた。


「分かった。あの子達にも準備させよう。荷物は少ない方がいいね?」

「ああ。だが、大事な物は持って行け。そういう物は何にも代えられない」

「そうだね。ところで、その子の部屋はここだよ」

「ああ、ありがとう【すまなかったな、手間をかけさせて】」


 ギルバートは約束通り女主に金貨を3枚渡して部屋をノックした。すると、中からあの懐かしい声が聞こえてくる。


「真実ははいつも見えない」


 暗号のようなあの言葉を言うと、中から驚くような声が聞こえて来て、続いてすぐさま扉が開いた。


「だからこそ、幸せな時もあるゾ!」


 泣きそうな顔をしてギルバートを見上げてくるシャーリーを見て、ギルバートは思わず無意識に両手を広げてしまった。そこにシャーリーが飛び込んでくる。


「怪我はないか? 何か辛い目には遭わなかったか?」

「ええ、大丈夫。ここの人達はとても良くしてくれました! 皆、ドレスの一枚も無かった私にお下がりをくれて……お菓子とかもくれました!」

「そうか。【やはりシャーリーは可愛いからな! ついつい面倒を見たくなるんだな! はっ! そうだ!】助けに来た。このままグラウカに来てほしい」


 ギルバートの突然の言葉にシャーリーは驚いたように体を強張らせて一歩後ずさる。


「……え?」

「君はどこまで聞かされている? これからどうなるか知っているか?」


 ギルバートが言うと、シャーリーはゴクリと息を飲んで部屋に入ると、ギルバートにも入ってくるよう促してくる。


 何せ女子の部屋に入るなど初めてのギルバートである。ソワソワしていると、シャーリーはあっという間にお茶を用意してくれた。


「もう一人の私が捕らえられたと聞きました。もうすぐ処刑される、と」


 悲しそうな声でそんな事を言うシャーリーにギルバートはゆっくりと頷く。


「……そう……ギルが言うのなら本当なのね……」

「……すまない」

「ギルが悪いんじゃないわ! 私達、双子なんです。それはもう知ってますか?」

「ああ。何故こんな事になったんだ? 君は、シャーロットの代わりに殺される事を知っていたのか?」


 ギルバートが言うと、シャーリーはぎこちなく頷いた。どうやらそれに関してはシャーリーは抵抗するつもりも無かったようだ。


「シャーロットは私の双子の姉で、私が生まれた時にお母様は亡くなったんだと……そう、王妃様に言われて私達は育ちました。本当なら忌子を産んだら妹の方は殺される。それを生かしたのは、私の慈悲だって。アルバでは双子は禁忌だから、お前は隠れて生きろ、と……でも……」

「シャーリーンが生きている事を、君達は知ってしまった?」

「ええ。私達が10歳の時です。とある人からその時に王妃が私を生かしたのは、いつかやって来る三国統一の時の為の捨て駒だって聞かされたんです」


 そこまで言ってシャーリーは視線を伏せた。


「ある人?」

「はい。ユエラ姉さまです。ちなみに、ユエラ姉さまはセシル姉さまに聞いたと笑っていました……」

「……なるほど。それで君達は一人の人間をずっと演じ分けていた訳か」

「はい。私は城下町でシャーロット姫を演じてました。たまに私達は入れ替わってこっそり母様に会いに行ったり……とは言っても私は演技なんて出来ないから素のままで居たら、あんな事になってしまって……」

【ああ、あの噂な。今やアルバの末娘は悪役令嬢だものな。なるほど、だからアルバ王でさえシャーリーが生きている事を知らなかったのか……おまけに普段は仮面をつけて過ごしているんだもんな……身代わり役だと言って双子の妹が姉の側に居たって気づきはしないか】


 しかし分からないのはシャーロットの方だ。彼女は一体どういう立ち位置なのだ?


「今牢に居る方はどうなんだ?」

「姉さまは私の噂を元に大袈裟に城で振舞っていたんです。丁度いいって。いつか両親が幸せに暮らす為に、悪役令嬢を演じるって……本当は姉さまの代わりに捕まるのは私のはずだった。でも思ったんです。その時には私、すっかりギルと仲良くなってしまっていた。だからもしかしたら私が捕まるとバレるかもしれない。だからギルとしたのを思い出して入れ替え作戦を思いついたんです。利用して……ごめんなさい」

「なるほど。【つまり何か? この双子はどちらもどちらを思っていたという事なのか? 下手をしたらシャーロットは自分が処刑される事を望んでいる可能性もあるな……】」

「姉さまは元々とても器用で、王妃を追い出す為にずっと王妃の手先みたいな振りをしてたんです。母様に目を覚まさない呪術をかけたのは、私。もしも母様が見つかってしまったら、きっとこの計画は潰れてしまう。だから計画が全て完了するまでは眠っていてもらおうって」

【じゅ、呪術はまさかのシャーリーだったのか……何てことだ】

「このままいくとシャーロットが処刑される。それはどうするつもりだ?」

「そんな事はさせないわ! 私は、必ず姉さまの代わりをする。グラウカの銀狼はとても賢いって聞いてるもの。きっと、私達が双子だって事にも気付いてると思うんです。だからギルがここに来たんですよね?」

「ああ【いや、ほんとは違うが、今の話を聞くと何だかもう、どうすればいいのか分からなくなってきたな。こうなったらとりあえずシャーロットとシャーリーを面会させるか?】」


 ギルバートが頷くと、シャーリーは途端に顔を綻ばせた。


「やっぱり! 本当のシャーロットは双子だった。どちらが本当の悪役令嬢なのかまでは分からないだろうから、ギル……最後のお願いをしてもいいですか?」

「……【絶対に碌でもないお願いに違いないな、この感じは】」

「私をグラウカに連れて行って、姉さまと私を入れ替えて欲しいんです。そうしたら王妃は他の姫を連れてアルバを去ります。王妃と父様の離縁が成立したら、姉さまが父様の呪術を解く」

「アルバ王に呪術をかけさせたのは王妃だろう?」

「ええ」

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