042 夢幻郷の門番
「お客さん、やっと着いたぜ」
この場所に来るまで1ヶ月もかかってしまった。
「ああ、長い間世話になったな。これは料金代わりだ。釣りはいらない」
「こ、こいつは太っ腹だな!!」
大きめの金塊を手渡して馬車を降りた。
「ここが夢幻郷か……」
巨大なクリスタルに囲まれた場所に街が出来上がっており、街の中央には頂上が見えないほど高い塔が建っている。街の入り口には荒くれ者達が長蛇の列を作っていた。俺もその列に加わると、前に並んでいた男から声をかけられた。
「おい、あんた新人だろ。見ねえ顔だからすぐに分かるぜ。俺なんかこの街に入る為に1年以上かかってるんだぜ?」
街に入るのに1年もかかる? どういうことだろうか。
「街に入るだけなのに何故そんなに時間がかかっているんだ?」
「あんたは来たばかりだから知らなくても仕方がねぇな。この街に入る為には、門番を倒さなきゃならないんだよ」
「門番を倒す? そんなことをしていいのか?」
「普通は門番を倒しちまったら牢屋行きだが、この夢幻郷ではそれでいいんだよ。門番を倒せるくらいの実力が無ければ生きていくことが出来ないってわけだ」
「なるほど、それで1年かかっているのか」
「そういうことさ。あんたとも長い付き合いになるだろうな」
「いや、俺は遠慮しておくよ」
男は鼻を鳴らすと前を向いたので、俺も黙って自分の順番が来るのを待った。しばらく待っていると、俺の前に居た男の順番となった。その男を見た門番は腹を抱えて笑い出した。
「ガッハッハッハ! おいおいフィリップ! まだ諦めてないのかよゴミ野郎!」
大柄な門番が大声で男を罵倒している。門番の見た目はミノタウロスっぽい。それを聞いた俺の後ろの男達が話し合っている声が聞こえてきた。
「今日の門番はドリウスかよ! 運が悪いな」
「あいつは強すぎて誰も入れなかった日もあったくらいだぞ」
案の定、フィリップと呼ばれた俺の前に居た男も一瞬で吹き飛ばされて負けたようだ。あの男は俺とさっき会ったばかりだが、悪いヤツじゃなかった。何の義理もないが、結果的には仇を取ることになるだろう。俺はウォームアップを始める。
「次は人型もやし野郎かよ! さっさと家に帰って母ちゃんのおっぱいでも貰ったらどうだ!?」
門番のドリウスが挑発してくる。相手の力量も見極められないらしい。
「最近はずっと魔法ばかり使ってたから、今回は素手で戦ってみるか。余裕で勝てそうだしな」
「何だと!? 人型もやし野郎が俺様に勝てるわけがねぇだろう!」
イラッ。自分のことを俺様と呼ぶような輩にろくなヤツはいない。特に元四天王のグオーガとかな。
「俺様キャラってグオーガを思い出すから嫌いなんだよな。遊んでやるからかかってこい」
俺は半身に構える。激昂したドリウスが突進してきた。
「うおおおお! 轢き殺してやる!!」
俺は右手だけでそれを受け止める。
「片手で受け止めただと!? どんな手品だ!?」
ドリウスは次に両手で連続攻撃を仕掛けてきた。様々なフェイントを織り交ぜた連続攻撃だが動きが遅い為、全て右手で防御する。俺は一歩も動いていない。
「ぐ……鉄の塊を殴ってるみてぇだ」
片膝をつき、苦しそうな表情のドリウスの両手は既にパンパンに腫れている。
「おお! ドリウスが手も足も出ないなんて初めて見たぞ!」
「あの男は何者だ!?」
俺の後ろに並んでいた者達がいつの間にか観客になり、俺とドリウスを囲むように観戦しているようだ。
「何をやっているんだドリウス!」
新たな門番が野次馬をかき分け現れた。
「デ、デリウス兄貴!」
デリウス兄貴と呼ばれた男はドリウスとそっくりな顔をしており、身体は一回り大きかった。
「不甲斐ない弟に代わり俺様が相手をしてやろう」
「おいおい、このドリウスとやらを倒せば街に入れるんじゃなかったのか?」
「それは先程までの話、このデリウスが来たからには俺様に勝つ必要がある」
面倒なヤツだ。俺は圧倒的な力を示す為にドリウスと全く同じ方法で対処することに決めた。
「じゃあ、早くかかってこい。俺は一歩も動かないからさ」
「こしゃくな野郎だ! すぐに後悔させてやる!」
今度の相手は素手ではなくナックルダスターを装備している。普通の人間であれば怪我では済まない。しかし、俺にとってはどちらも同じことだった。
「な、何いいいい!?」
デリウスの拳を全て右手のみで防御する。ついでにナックルダスターを掴んで握力で握りつぶす。
「ぐ……俺様の拳が砕けた……!!」
デリウスも片膝をつき、砕けた両拳を見て震えている。
「うおお! デリウスまで負けたぞ!」
「マジであの男は一体何者だ!?」
「何をやっているんだデリウス!」
「ダ、ダリウス兄貴!」
「いいかげんにしろ! ファイアーボール3連射!」
ドドドーンッ!
ダリウス、デリウス、ドリウスは魔法で吹き飛んだ。
「す、すげぇ……」
「もう門番は倒した。街に入ってもいいだろ?」
俺が門の両脇に控えている門番に尋ねると、門番は無言で頷き道を開けた。さすがにこれ以上の横やりもなく、俺は門を通ることを許された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます