024 招待

 ――2日後、使者が来て歓迎会は3日後に行うと伝えられた。そして今日は3日後。歓迎会の当日となった。


「ここが領主の館か。思ったより大きいな」


「すごく広い庭! そして大きな家ですね!」


 リタは大きな建物を診て感動しているようだ。イナカ村では大きな建物はなかったから仕方がないか。


「リタ、そんなに動き回って庭に入ったら危ないですわ。魔法による罠が仕掛けられておりますの」


「えっ、罠!?」


 ラビリスは元貴族だから罠について知っていたのか、もしくは魔力を感知して気づいたのかもしれない。


「たしかに領主だったらセキュリティくらいは万全にしてあるはずだよな」


 俺達は館の扉の前で立ち止まる。すると、一つ目コウモリが飛んできてぐるぐると俺達の周りを飛び回った後、自動的に館の扉が開いた。


「一つ目コウモリで招待客かどうかを確認しているのか?」


「そのとおり、あれは私が作り出した魔法生物だ。ようこそ我が館へ!」


 領主であるエリアスが扉の奥から現れた。


「歓迎会にご招待いただきありがとうございます」


「ラング君は礼儀正しいな! 他の冒険者は無礼な者が多くてね。ラング君も楽にしてくれたまえ」


「分かりました」


 エリアスについていくとパーティー会場に着いた。沢山の豪華な料理、酒が並べられている。既に大勢の客は会場入りしていたようで、入場してくる俺達を拍手で迎えてくれた。


「皆の者! 彼が今回ダンジョンにて窮地きゅうちおちいった学園の生徒達を助けたラング君だ!」


 大きな拍手が巻き起こった。よく見ると、教師のマーシャさんや助けた生徒達が居るようだ。


「今夜は彼らの為の歓迎パーティーだ。美味しい食事と酒を楽しんでいってくれたまえ!」


 領主エリアスのスピーチが終わり、自由行動となった。俺は早速料理を食べることにする。リタとラビリスは学園の友達を見つけて話をしに行ったようだ。


「彼はまるで救世主ヒーローのように颯爽さっそうと現れて次々とモンスターを倒したらしいぞ」


「信じられない速度で魔法を連射していたらしい」


 パーティー会場の各所から噂が聞こえてくる。俺は聞こえないフリをしつつ、料理を食べていく。


「む、こいつは美味いぞ。キングオークのローストと季節野菜のテリーヌか……名前が長いな」


 キングオークのローストを即アイテムボックスに入れる。そういえば、アイテムボックスにデザートを記録したことがなかったな。デザートを探してみよう。


「このデザートは酸味と甘みのバランスが最高だな。食獣ベリーのムース チョコレートのアイスクリーム添えか」


 相変わらず名前が長い。でも、美味い。これはアイテムボックス行きだな。俺がいくつかの食材をアイテムボックスに記録していると、シビッラ学園長が近づいてきた。


「ラングさん、5日ぶりね。今日は改めてお礼と、感謝の品を渡す為に来たのよ。学園の生徒を救ってくれてありがとう」


 シビッラ学園長は小さな包みを俺に手渡した。


「これは?」


「シールドの魔導書よ。あなたは魔法使いというよりは近接戦闘のほうが得意そうに見えたから」


 これは有り難い。魔導ダンジョンでは魔法しか通用しないから魔法を使っているのであって、本来は剣での戦闘経験のほうが長いのだ。


「とても助かります。ありがとう」


「喜んでもらえたのなら嬉しいわ」


 俺と学園長が話し合っていると、酔った貴族同士の自慢大会が聞こえてきた。


「高貴な血を引く私の魔法は針の穴を通すほどの精密さです。もちろん威力も世界一と言っても過言ではありません」


「おいおい、男爵ごときが言いすぎだろう。子爵である俺のほうが魔法の威力が高いに決まっている!」


「なんですと!?」


「やるのか!?」


 男爵と子爵が喧嘩を始めていると領主エリアスが止めに入る。


「お二人共、もし魔法の腕を競うのであればすぐそこにある訓練場で行いたまえ。他にも我こそは! と思う方は挑戦するといい」


 何人かの魔族が訓練場に向かっていく。パーティー会場から訓練場がよく見える。


「あ、そうだ。ラング君も来たまえ。皆もラング君の魔法の実力が見たいだろう?」


「え!?」


 拍手が沸き起こる。これは見逃してはもらえない雰囲気だ。


「仕方がない。少しくらいならいいか」


 俺は他の魔族達の後ろについて訓練場に向かった。訓練場には石で出来たモンスターが配置されている。


「制限時間内に石像を何体壊せるかで勝負をしたらどうだろうか? ちなみに私の最高記録は7体だ」


 領主がルール説明をし、言い争っていた男爵が先に挑戦することになった。


「私の繊細せんさいな魔法で新記録を出しましょう。アイスアロー! アイスアロー! アイスアロー! ………」


 しかし、結果的に壊せた石像は2体だけだった。


「まさか私がたったの2体だなんて……」


 男爵はがっくりとうなだれた。次に言い争っていたもう一人、子爵が進み出た。


「はっはっは! やはり男爵はその程度だろう。子爵である俺に任せておけ。ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ……」


 結果は同数の2体だった。子爵は悔しさのあまり涙を流し膝から崩れ落ちた。


「馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な!」


 その後も挑戦者が名乗りを上げたが最高でも5体の石像を壊すことしか出来なかった。そして最後に俺の番となった。


「ラング君がどのような魔法を使うのか実に楽しみだよ」


「大した事は出来ないかもしれないですが、パイソン」


 パイソンの書を出して、どの呪文にするか考える。ページをペラペラとめくると過去に書き込んだ呪文を選ぶことが出来る。


「見た目も派手だし、ファイアーボール100連射でいいか」


「え? ファイアーボール100連射とか言ったか?」


「そんなまさか、制限時間内にそんなに連射出来るわけがない。絶対に不可能だよ」


 ひそひそと観客達から声が聞こえてくる。まぁ、見せれば分かることだ。


「ファイアーボール100連射!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……!!!


 訓練場に設置された全ての石像は粉々に破壊された。


「50体の石像が全て粉々に……」


 エリアスはポカーンと口が開いたままになっている。他の魔族達も信じられないものを見たという顔をしている。


「まぁ、ざっとこんな感じだな」


 1発で石像は粉々になるなら100連射も要らなかったな。


「ラング君! 今のはどうやったんだね!?」


「高貴な血を引く私でも今のは驚いた。私の家でボディーガードとして雇われませんか?」


「男爵ごときがボディーガードなど不要であろう! 子爵である俺の家で働くべきだ」


「吾輩の家に来てくれたら月に30金貨払おう!」


「私の家では50金貨は払うぞ!」


「60!」


「70!」


 謎のオークションが始まってしまった。


「いや、俺はどこにも雇われるつもりはないぞ」


 貧乏スキルのせいでいくら金貨をもらおうが消えてしまうからな。それよりも今は四天王より強くなることが先決だ。


「では、1000金貨でどうだ!」


 何故か領主であるエリアスが1000金貨だなんて言い出した。仕方がない、俺が金に興味ないことを示す必要があるようだ。


「アイテムボックス」


 俺はアイテムボックスから金塊(超特大)を取り出したゴールドダンジョンのボスを倒した時にドロップしたアレだ。


「なんだこの巨大な金塊はあああああああ!!?」


 エリアスは謎の精神的ダメージを受けて片膝をついた。他の魔族達はもはや金塊に目がくらみ開いた口から涎が垂れている。


「そうか。ラング君は金でなびくような男ではない、と言いたいのだな」


「そういうことです。今日は美味しい料理と酒をいただきありがとうございました。俺は明日の準備がありますので今日はこれで失礼しますね」


 俺は金塊をアイテムボックスにしまうとリタとラビリスを連れて領主の館を後にした。明日からは本格的に魔導ダンジョン攻略だ!

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