022 居候

 俺は冒険者ギルドを出た。


「ふぅ、やっと開放されたか……」


 冒険者ギルドでの報告に時間がかかってしまった。早く宿の自室に帰るとしよう。学園に通っているリタの事も心配だからな。それにキングスライムがドロップした魔導書についても協力してもらう必要がある。


「ただいまー……えっ!?」


 俺は部屋の番号を確認する。しかし、間違ってはいない。鍵も開いたので、この部屋で間違いないだろう。俺はダンジョンに篭もる予定だった為、リタと共通で大部屋を1部屋だけ借りている。つまり、今部屋に居るのはリタだけのはずである。


「……誰だ?」


 特徴的な翼、豊満な胸、2本の角。部屋の中に居たのはサキュバスの少女だった。


「あ、あのぅ……話せば長くなるのですが……えーっと、私は居候いそうろうですの」


 話せば長くなると言っておきながら、話は短かった。リタめ、俺に断りもなく居候を連れ込むなんてどういうつもりなんだ。


「リタはどこに居るんだ?」


「リタさんは今出かけていますの。そろそろ帰ってくると思うのですが……」


 ガチャリ


「ただいま〜」


 サキュバスの少女がそう答えると、ちょうど部屋のドアが開き、リタが帰ってきた。


「あれ!? ラングさん帰ってきてたの!?」


「リタ、このサキュバスの子を俺に無断で住まわせたのか?」


「ごめんなさい。でも、ラビリスの事情を聞いたら放っておけなくて」


 何か事情があるようだ。俺はラビリスというサキュバスの少女から事情を聞いてみることにした。


「じゃあ、ラビリスの話を聞いて納得出来たら許可しよう」


「わかりました。では、お話させていただきますの。私は元男爵家の長女でした。元というのは、もう両親は亡くなり、爵位しゃくい剥奪はくだつされ、財産も没収されてしまったからですの。両親はギャンブルで失敗して自殺したと聞かされましたが、噂では暗殺だったとも言われております」


「暗殺か……」


「私はちょうどルイーズ魔法女学園に入学する為に、この都市に来ていましたので殺されずに済みました」


「この都市に来ていたってことは、元は別の都市に居たのか?」


「はい、実家はゴールドタウンです」


 ゴールドタウンか。あそこはたしかに暗殺の噂があるし、浮浪者やギャンブルで借金を抱える者も多く暗殺を生業なりわいにする者が居ても不思議ではない。戦争が勃発したという噂を冒険者達が話しているのを今日冒険者ギルドで耳にした。


「そうか。それは本当に災難だったな……思い出させてすまない」


「いいえ、いいのです。私も両親の死と向き合わなければ先に進めませんから……」


 そんな過酷な事情の少女を路頭に迷わせるわけにはいかないだろう。見た感じお金も持ってなさそうだしな。


「分かった。ラビリスの同居を許可する。いや、同居というよりも別で部屋を用意しよう。学園を卒業するまでの家賃や生活費は俺が保証する」


 俺とリタとラビリスで3部屋を用意すべきだ。


「さすがラングさん! 話が分かりますね!」


 リタは嬉しそうだ。


「ありがとうございます。私に出来ることでしたら何でも致しますの!」


「何でもするなんて言葉は気軽に使うものじゃないぞ」


「いいえ、本当にそう思っていますの……」


 サキュバスの少女は顔を赤らめて恥ずかしそうに言う。


「お、俺は宿の店主に部屋を用意してもらってくるから! 準備しておくように!」


 俺に許された選択肢は戦略的撤退しかなかった。



 ――翌日、俺はリタとラビリスを連れて魔法都市の外まで来た。目的は魔法を覚えてもらい、俺の魔法ボックスに記録する為だ。


「これが魔導ダンジョンで手に入れた魔導書だ。何の魔法か分かるか?」


 魔導書は魔法適正の無い者が読んでも習得出来ないし、そもそも読むことも出来ず何の魔法か分からない。


「私が読んでみますね」


 リタが魔導書を読んでみる。5分ほど頑張ってみたが習得することが出来なかった。


「私には習得出来ないようです。支援魔法だったら自信はあるのですが……」


 リタは悔しそうに魔導書を俺に返した。


「あのぅ、私が試してもよろしいですか? こう見えて、学園では主席ですの」


 ラビリスはリタよりも魔法の才能があるのかもしれない。俺はラビリスに魔導書を渡した。ラビリスは受け取った魔導書を読み始めた。


「これは、一定範囲に雷を落とす魔法。ライトニングという魔法ですわ」


 範囲魔法! しかも雷属性! これは嬉しい魔法だ。この魔法があれば魔導ダンジョンのスライムを殲滅する速度が上がるかもしれない。


「魔法が分かるってことは習得出来そうか?」


「はい、もう習得しましたの」


「じゃあ、俺に向けて撃ってくれ」


「それはさすがに危ないですわ」


 ラビリスは俺のお願いに驚いたようだ。


「大丈夫だ。俺は魔法ボックスというスキルで受け止めるから」


「そこまで言うなら……じゃあ、いきますわよ! ライトニング!」


 魔法ボックスを構える俺に雷が降り注ぐ。


 バァーーン!!


 視界が真っ白になり、大きな衝撃が身体中を駆け巡る。


「……バタリ」


「ラングさん!?」


「ラング様! 直撃してるじゃありませんの!」


 リタが上級ポーションを俺にかけてくれたようだ。


「うぅ……範囲魔法だから魔法ボックスでは受け止めきれなかったんだな。レベルが上がって守備力が高くなっていたおかげで助かった」


 魔法ボックスを確認すると、ちゃんとライトニングが追加されていた。痛い思いをしただけじゃなくて良かった。満足した俺達は宿屋の俺の部屋に戻った。


「俺はまた魔導ダンジョン攻略に行くから、リタとラビリスには当面の生活費を先に渡しておく。現金じゃなくて申し訳ないが、商業ギルドか冒険者ギルドで現金化してくれ」


 俺は大きめの金塊を1つずつ手渡した。


「こ、こんなに大きな金塊を貰ってもよろしいのですか!?」


「大丈夫だよ、ラビリス! ラングさんは金塊をたくさん持ってるんだから!」


 リタが何故か自慢げに説明する。まぁ、たしかに俺は無限に金塊を持っていると言えるけどな。


「じゃあ、あとは宜しく頼んだ」


 俺が宿の部屋を出ようとすると、コンコンとノックの音が鳴った。

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