011 見習い勇者襲来

 翌朝、目を覚ますと違和感を感じた。外が騒がしい。何かあったのかと窓から外を見ると、人間が4人中央広場に立っているのが見える。すぐに向かう為、装備を整え、宿の出口に向かう。


「ラングさん、行くのでしたら支援魔法をかけますね!」


 リタが支援魔法をかけてくれた。


「ありがとう、宿から出るなよ!」


 宿を飛び出すと勇者達の会話が聞こえてくる。


「こんなに魔族が居るぞ!」


「殺し放題だな!」


「奴隷として売ったらいくらになる? 大儲けじゃないか?」


「昨日の魔族もめちゃくちゃ弱かったから、こんな村余裕で制圧できるさ」


 勇者らしき人間が村人を掴んでいる。


「とりあえず男は殺しちゃってもいいだろ」


 ザシュッ!


「ぎゃああああああああ!」


 村人は剣で貫かれ、地面に転がされた。


「よえええええええ! 楽勝すぎる!」


 あの村人は昨日お礼を言ってきた男だ。下衆な勇者共め、絶対に許さないぞ。


「お前達、よくも村人を殺したな」


 俺は勇者達の正面に立ち、声をかける。


「あ? なんだこいつ。俺達と戦う気みたいだぞ」


「おいおい、四天王を返り討ちにした俺達の実力が分からないのかよ」


「俺がやる。ちょっと遊びたかったんだよね」


 短剣二刀流の勇者が猛スピードで接近する。こちらはもう既にパイソンの書を召喚済みだ。


「実行」


 短剣二刀流の勇者は圧倒的な手数で攻撃を仕掛けてきた。通常であれば防御すら難しい。


 キキキキィン!


 しかし、全く意識しなくても全ての攻撃を防御することが出来た。


「嘘……だろ……?」


 短剣二刀流の勇者は呆然としている。


「もう終わりか?」


 俺が問いかけると、正気に戻ったように飛び退く。


「おい! お前らも手伝え!」


「お、おう!」


「仕方がねぇな」


 全員でかかってくるようだ。4人の勇者が俺を囲んで一斉に襲いかかった。


「実行」


 やはり結果は変わらなかった。いや、今回は反撃するように呪文を作ってある。結果は変わった。


「ば、馬鹿な……!」


 ドサッ


 結果、全ての勇者は地面に倒れた。全て急所を突かれて絶命している。我ながら恐るべしif文。


『レベルアップ! レベルが201になりました』


 周りを見回すと、村民達が避難している家から出てきた。


「ラングさんは村の救世主だー!」


「物凄い戦いだった! これは吟遊詩人が黙っていないぞ!」


「永遠に語り継ぐべきだ!」


 褒め称えてくれるのは嬉しいが、目立ってしまったので宿に避難ひなんすることにした。


 部屋に戻って今後について考える。今回勇者(にしては弱かったが)を倒してしまったので、きっと魔王軍に報告が行くだろう。報告が行かなかったとしても、勇者がどこに居るのか調査団が派遣はけんされることは間違いない。


 俺がこのままイナカ村に居ると、魔王軍と、下手をすれば四天王と鉢合わせてしまい、戦闘になるかもしれない。まだ俺は四天王には勝てない。レベル上げに適した場所に移動したほうがいいだろう。


「俺のレベルに合っているダンジョンは、たしか……魚貝ダンジョンと肉ダンジョンと、ゴールドダンジョンか。金塊がザックザクとか言われてるんだったか」


 地図を見ながら悩むフリをしているが、もう俺の心は決まっていた。


「よし! ゴールドダンジョンに行こう!」


 ゴールドダンジョンの最寄りの街はゴールドタウンである。明日、ゴールドタウンに旅立つことにしよう。


「一応、村長に言っておいた方がいいだろうな」


 宿の店主でありリタの父親でもあるフランクに聞いて村長宅に行き明日出発することを伝えた。村長はとても残念がっていた。


 その日は腹筋を1000回してから眠りについた。


 翌朝、宿でフランクとジョアンナにお礼を言う。


「ありがとう。良い宿でした。これはお礼です」


 宿代は無料だと言われたが、下級ポーションを大量に渡す。


「ありがとう、村の皆で有効活用させてもらうよ。また来た時は寄ってくれ!」


 宿を出ようとすると、後ろから声をかけられた。


「待ってください! 私もついて行きます!」


 大きな荷物を持ったリタだ。


「俺と一緒だと危険だぞ。それに、ご両親が許さないだろう」


 説得してくれることを期待してフランクとジョアンナに視線を送る。


「リタ、気をつけて行ってくるんだぞ。ラングさんに迷惑をかけないようにな」


「ラングさん、娘の事をよろしくおねがいしますね」


「ええ!?」


「そういうわけで、よろしくおねがいします!」


 ご両親公認でリタが一緒に来ることが決まってしまった。だが、1日持続するバフ魔法はとても助かる。


「まぁ、いいか。準備が出来ているなら出発しよう」


 宿を出ると、村人達が集まっていた。


「旅立つって聞いたからよ! 色々と役立つ道具を持ってきたぞ!」


 鍋、食器一式、動物の皮で出来たテントなどを貰ったのでアイテムボックスにしまう。


「ラングさん、アイテムボックス持ちだったのか! うらやましいなぁ」


「寂しくなるなぁ。元気でな!」


「リタちゃん、寂しくなったら帰ってきてもいいからね〜!」


 俺とリタは村人達から別れを惜しまれつつも出発した。


 出発して1時間後、俺は大事なことを思い出した。


「そうだ、リタにこれを渡しておこう」


 アイテムボックスからドラゴンファングを取り出して、リタに渡す。


「何ですかこれ!? 持っただけで力が湧いてきます!」


 攻撃力:+600だからだろうな。ランクAの武器は伊達ではない。


「ドラゴンファングという武器だ。ドラゴンの牙で出来ているらしいぞ」


 喜んでいたリタだったが、急に心配そうな表情になる。


「でも、ラングさんの武器がなくなってしまうのでは……?」


「大丈夫だ。俺のアイテムボックスは同じ武器を何度でも取り出せるからな」


 アイテムボックスからドラゴンファングを取り出してみせる。


「す、凄すぎます! じゃあ、予備用と観賞用と保存用と布教用のドラゴンファングを貰ってもいいですか!?」


「あ、ああ、いいぞ」


 保存用や布教用というのがよく分からないが、本人が欲しいというのなら気にしないことにした。合計5本のドラゴンファングをリタに渡した。リタは満足そうだ。


 ゴールドタウンに向かう道中はリタのレベルアップをしながら進んだ。そのおかげでリタはLV1からLV30に上がるのだった。

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