第3話
「しかし、弱いのぉ。いくらわしとの後遺症が残っとった言うても、それでようあの男殺せたなぁ……」
女の言葉に胃の中の物を全て吐き終えた妹の体がびくりと反応した。そして、ゆっくりと姉の方へと視線を向ける。
「そや、主の父を殺したんはこいつや。主はこいつにわしを仇やと騙されとったんやで」
「……なんで……お姉ちゃん、お父さんを?」
妹に問いかけられる姉は、女に持ち上げられたまま力なくがくりと項垂れたまま、答える力も残っていないようである。
女はちらりと妹の方へと視線を向けると、四肢をつき震えている妹のところへと姉を投げつけた。姉の体が妹へとぶつかり、姉妹は縺れるようにして地面へと転がった。
そこへゆっくりと歩み寄る女。妹が力を振り絞り立ち上がろうとするが、足に力が入らずすぐに倒れてしまう。それでも何とか立ち上がろうと女の足を掴んだ。
「なんやぁ……清姫みたいに執念深い娘じゃなぁ。ええから、そこで寝とき?」
足にしがみつく妹をぽんと足蹴にすると、仰向けに倒れている姉の腹を踏みつけた。
「……やめて」
這いずりながらも姉の方へと近寄ろうとする妹を一瞥した女は、ぐりっと踏みつける足へと力を入れる。姉の口から大量の吐瀉物が吐き出され、血塗れの顔を汚していく。その踏みつける足を姉が震える手で掴んでいた。そして、ちらりと妹の方を見た姉は小さく首を振る。来るな……そう、妹へと伝えている様にも見えた。
「父は殺しても、妹は助けたいんか?ええやろ、主の希望通り妹は助けたるわ」
そう言うと女はぺろりと唇を舐めた。紅い椿のような唇をしている。妹はぼやける視界の中でそれだけがはっきりと見えていた。なぜだか分からない。どこかでこの風景を見た気がするのだ。
「どや、悔しひんか?こない踏み躙られ、我の弱さに悔しならへんか?」
踏みつけられ苦しそうに顔を仰け反る姉に対し、さらに足に力を込める女は真顔で言った。
「主の父は、わしに敵わんとも一矢報いてやろうと、足ぃ払い除け立ち上がってきよったぞ?それでもあの男の娘か?どないな覚悟でわしに挑んできたんや?」
足の下で苦痛に歪む顔をしている姉にぺっと唾を吐きかけると、ぼりぼりと頭を掻いた。そして、姉の腹から足を離し冷たい目で見下ろしている。
「すまんなぁ……やっぱり気ぃ変わったわ。主は殺す」
「……お姉ちゃん」
力なく仰向けとなり、四肢を投げ出し横たわる姉。
「……言い忘れとったわ。童子切はわしがあの男から預かっとる。主が父から奪い取り持っとたんは偽もんや」
女のその言葉に姉がぴくりと反応した。しかし、もう動く力さえ残っていないようで、胸だけが浅く上下していた。
「せやから簡単に折ることができたんやで?ほんもんやったら、あないにぽっきり折れるかいな」
ふぅっとため息をつくと、もう一度片足を上げ、今度は姉の首めがけ足底で踏み折ろうとした。
「……やめて……殺さないで」
「なら主が強うなれ。目ん前で誰も殺されひんように強うなれ」
消えそうな程に小さな妹の声が女の耳に届いた。しかし、女は妹の方へは振り向かず呟くように答えた。そして、姉の首へと足を振り下ろしたその時である。一陣の強い風が三人を包みこんだ。
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