第220話 命名会議、本番3

220話 命名会議、本番3



 なんだよ、アカネーズって。正気か?


『ふっふっふ。いくつか他にも候補は作ってたんだけどね。やっぱりこれかなって!』


『おま、私のこと言えないだろこれ』


『アカネさん? 散々仕事サボって考えた結果がこれですか? ……あとでお仕置きですね』


『なっ!?』


 なんで驚いてるんですかね。非常に妥当な評価だと思いますけども。


 まあともかく、これで本命は一人に絞られたと。


 サキがどんなグループ名を考えたのかは俺も知らない。今日のこの発表でした方がお互い面白いから、と。俺も教えていなかったからな。


『むぅ。じゃあ最後はサキちゃん!』


「は、はい! えっと……」


 サキは戸惑いながらもスマホの画面を切り替えると、メモアプリを開く。


 きっと幾つもの候補を考えていたのだろう。あまり見ないようにしようと思って一瞬しか視界に入れなかったが、そこには文字がびっしりだった。


「私が考えてきたグループ名はーーーー」


 緊張しているのがこっちにまで伝わってくる。


 こういうのは真剣に取り組めば取り組むほど、いざ本番の発表となると緊張するものだ。


 俺には、こんなことしかできないが……


「っ! か、和人?」


「大丈夫。サキが悩み抜いた結果なら、誰も責めたりしないって。自信持てよ」


「……うん」


 彼氏として。ずっと机の前に張り付いては頭を悩ませ続けていた彼女の出したそれに、少しでも自信を持たせてあげられるよつに、と。そっと手を握った。


 効果はあったのだろうか。そうするとサキは小さく深呼吸して、言葉を続けた。


「ーーーードリームプロダクション、です」


 五人の中を、数秒の静寂が包む。


 これまで三人、発表があったが。サキの提示した名前はそのどれともテイストが違って……そして、まともだった。


『プロダクション? って、どういう意味だっけ?』


『たしか製作所、みたいな意味じゃなかったですか? 芸能プロダクションとかよく言いますよね』


「はい。最初は和人みたいに全員の名前を文字ったりとか考えてたんですけど、なかなか浮かばなくて。それで色々言葉を辞書で引いてたときに浮かんだのがこれです」


 ドリームは言うまでもなく「夢」という意味だ。そしてプロダクションはミーさんの直訳をなぞると「製作所」。なるほどな。サキがこの名前に込めた今が、なんとなく理解できた。


「結論から言うと文字る路線は諦めて、逆に誰の名前も入っていない名前にしました。だからここに込められているのはそういった要素じゃなく、私たちの在り方というか。この先目指していくところ、みたいなので」


 サキ曰く。プロダクションという言葉には生産や製作所という意味があり、ドリームと合わせて「夢を作り出し、叶える場所」という気持ちを込めたらしい。


「このグループ結成はあくまで各々がやりたいことをするためのものだと思うんです。だからこの五人が、そんな夢を叶えられる場所にできたらな……って」


 ここに参加している全員が、このグループに夢を乗せている。


 そして、これから参加してくるVtuberたちも。きっと各々夢があって、アカネさんは全員がそれを叶えられるようにしたいと言っていた。





 誰かが得をし、誰かが損をしてしまうようなものじゃない。全員が全員の夢を作るために協力できる。きっとそれが、サキの……アカネの思い描くグループ像なんだ。

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