第196話 和人の選ぶ道2

196話 和人の選ぶ道2



「わ、私のように、ですか!?」


「はい! 俺、裏からサキを支えられる存在になりたいんです!!」


 サキを……柊アヤカを支える。その考えが頭の中に浮かんだ時、取れる選択肢としては二つのものがあると考えた。


 まず一つ目。それは俺もVtuberになること。同業としてスキルを学び、時には一緒にコラボなんかもしたりして。″隣に立つ″という意味ではこれが一番最適だと思う。


 ただ残念ながら俺にはトークスキルが全く無いし、今から新規参入というのは正直気が引けた。あと俺とアヤカが仲良く配信をすることでその裏の関係を疑い始める人が出てくると、結果として迷惑をかける形にもなりかねない。


 そうして自動的に目指すこととなった二つ目の形。それこそがまさに今ミーさんがしている「マネージャー」のような支え方だった。


「な、なんだか照れますね。そんなこと言われたの初めてです……」


「そうなんですか? ミーさんってしっかりされてますし、慕ってくれてる後輩とかもいそうですけど」


「学生時代は……そう、ですね。帰宅部でした。友達もあまり多い方ではなかったですし、慕ってくれる人なんて。それこそ本当にアカネさんが拾ってくれなかったら今頃どうなっていたか……」


 ま、マジか。意外過ぎる。


 アカネさんに振り回されながらもいつもかっこよく仕事をこなしているミーさんのことだ。てっきり学生時代は運動部か何かでバリバリに成績を残し、どこか凄い企業への就職を果たした後今の仕事に定着したものだとばかり。


 まあ流石に勝手な偏見が過ぎるところはあったけども。「拾ってもらった」という言葉を使うあたり就活で苦労したりしたのだろうか。そこはあまり深掘りしないようにしておこう。


「まあその話は置いておいて。それで、和人さんはアヤカさんのマネージャーになりたいということですか? だから私に相談をしたかったと」


「そうなりますね。ミーさんみたいにかっこよく演者をサポートできる人になりたいです。マネージャー、って言葉の使い方で合ってるのかは分からないですけど。助手か……裏方、か。とにかくそんな感じです」


「なるほど。和人さんの考えはよく分かりました」


 届いたブラックコーヒーを一口ふくみ、飲み込んで。パンケーキに備え付けられていたハチミツをゆっくりと全体に広がるよう塗り込むと、コトンッ、と小さな音を立ててから。ミーさんは俺の目を見てハッキリと告げる。


「やめておいた方がいいですよ。なるもんじゃないです、Vtuberのマネージャーなんて」


「……へ?」


 出鼻をくじかれた、とでも言うのだろうか。てっきり応援してくれるものだとばかり思っていた彼女の口から出た言葉につい、固まってしまう。


 やめておいた方がいい。なるもんじゃない。その言葉が何度も脳内で反響した。


 将来の夢や就きたい職業なんかも無かった俺に初めてできたやりたいこと。それをバッサリと切り捨てて見せられ、どこか否定されたような気持ちになりつつも。ミーさんのことだ。俺を想ってそう言ってくれているのだろうと、無理やり自身を納得させる。


「理由、聞いてもいいですか……?」


 だが、無理に言葉を発したせいだろう。





 自分で分かるくらい、俺の声は震えていた。

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