第173話 柊アヤカの答え
173話 柊アヤカの答え
初めは、完全に趣味の延長線上だった。
ゲームを好きになって。けど、私の通う女子校でそれを好きな子はいなくて。多分優子なら一緒にやってくれたかもしれないけど、何気にゲーム機って高いし。
一人でプレイしていくうちに、動画サイトで配信、実況たるものを見るようになった。
楽しくプレイしながら視聴者と繋がり、時には参加型で対戦したりコメントで助言をもらって一つのゲームをみんなでクリアしたり。
気づけばその姿に憧れを抱くようになっていた。私もあの人達みたいにみんなとゲームできたら……楽しくお喋りすることができたら、と。
そしてそんな中。一人の配信者の配信を見ることが日課になっていく。
「私はアカネさんに憧れて、Vtuberになることにしました。私に始まりを与えてくれたのはあなたなんです」
赤羽アカネ。彼女のトーク力の高さ、惹きつける力。そして何よりも自分の欲に従順で、やりたいことをやりたいようにやっているその姿に。私はいつの間にかどんどん引きつけられていき、気づけば″彼女のようになりたい″と思うようになった。
それからは早くて、コッソリお小遣いを貯めて夕凪ママにVtuberとしての身体を用意してもらったり、モデリングや機材の準備。配信サイトにアカウントを作って初配信日を決めて、柊アヤカとしてデビューして。
初めは何もかもがグダグダで、視聴者さんも全く増えなかった。
でも少しずつ。場慣れして配信が当初よりもっともっと楽しくなり始めた頃、色んな人が私のことを見てくれるようになって。
自信がついてくると赤羽アカネに憧れ、その後自分が手に入れた姿である柊アヤカはどんどん魅力を増していく。アヤカの仮面を被った私は、私にとってコミュ症で引っ込み思案などうしようもない赤波サキよりも、よっぽど魅力的で。
「今の私があるのはアカネさんの……そしてアヤカのおかげなんです。昔のままの私じゃ、何者にもなれなかった。初めの一歩を踏み出すこともできずに縮こまってた」
好きなものを好きだと言える力を貰った。好きな人にもっと好かれるための力を貰った。ゲームも、配信も。それら全てが私というどうしようもなかった、もはや人ですらなかった私を人にしてくれた。
全部繋がってる。優子が私と一緒にいてくれたことも、アカネさんが私に憧れを抱かせてくれたことも。和人があの日私に初恋という感情を教えてくれたことも。好きな人に好きだと言ってもらえることの喜びに気づかせてくれたことも。
「私の、夢。多分それはもう、叶っちゃってるんです。柊アヤカになれたから、私は今の私になれた。大好きな人の隣にいれて、い続けれて。自分の趣味として週に何度か配信をして、視聴者のみんなとも楽しく遊べてる。この幸せな日々は、きっと一つのゴールです」
一瞬、和人と目が合う。
私の幸せはもう、手に入れてしまっているのだ。
ずっと彼と一緒にいたい。赤波サキはこの先ずっと、彼と人生を添い遂げていきたい。
でも私はワガママだから。ついさっきまでは赤波サキの幸せだけで満足できていたのに、アカネさんからまた一つ、別の道への進路を示されたせいで。
身体が滾ってしまっている。この熱に……嘘はつきたくない。
「けど、柊アヤカとしては。一番になりたいなんてとんでもない目標は持ってないかもしれないけど、憧れの人の隣に立てるのなら、そうしたい。アカネさんが私を欲してくれるなら、応えたい。そして何より……アカネさんのキラキラした夢の先の景色を一緒に、見てみたいです」
これが私の答えだ。本当はもっと考えてから結論を出したほうがいいのかもしれないけれど、この提案は私にとって未だに現実味が湧かないほどに。ただひたすら、嬉しい話なんだ。
それさえ頭の中でハッキリしているのなら、いい。柊アヤカとして目指す場所としては絶対に間違っていないはずだ。間違っているなんて、誰にも言わせない。
アヤカは、私なんだから。
「グループ結成……受けます。私でよければ、喜んで!」
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