第172話 思い描いた終着点2
172話 思い描いた終着点2
「私は、一番になりたいの。私の好きな子達と一緒に」
元々はアカネさん一人で描き始めた夢だったという。
親に敷かれたレールの上を歩くだけの人生が嫌で、独り立ちと言う名の家出をした。
アルバイトをしながらやりたいことを探す日々。そしてそんな中で彼女はVtuberという世界を見つけて、そこで一番になることを目標に据える。
だけどそれはすぐに、一人の夢ではなくなった。少しずつ人気が出始めてマネージャーが欲しいと思い始めていた頃、就活で心の折れていたミーさんに出会う。
ミーさんに新しい世界を見せる。こうして一人で始まった物語は繋がり、ミーさんと二人の道となった。
「私は今や日本の個人勢の中ではトップに位置するVtuberになれたけど、それは私一人の力じゃない。ミーちゃんには、本っっ当に感謝してる。多分普通の人ならこの立ち位置でも充分に我慢できるんだろうけど、ね。私はワガママだから……」
アカネさんがトップを取ったのは、あくまで個人勢という一つの括りの中での話。
俺から見ればそれだけでもとんでもないことだ。幸せなレールから外れて自分の好きなことをして。そのうえで大切な人を見つけ、結果まで出している。
けど、彼女が見据えているゴールはもっと先。まだそのトップですら、通過点に過ぎなかったのだ。
「個人勢とか企業勢とか、そんな枠組みは全部ブチ抜いてさ。私は、まだ誰も到達したことのない領域まで行きたいの。私と……ミーちゃんと。そしてアヤカちゃんと、ね」
アカネさんの本当の夢。それは、自分と自分の好きな人全員でその他大勢をブチ抜くこと。
アカネさんもミーさんも、アヤカも。全員でトップに立って、アカネさんは自分の好きな子達と最強のVtuber軍団を作りたい、と。いずれは気に入った子をどんどんスカウトしてアカネさんだけの可愛いワールドを完成させたいそうだ。
それが彼女の思い描く終着点。アヤカとの間に上下関係を作りたくないと言っていたのは、あくまでアカネさんをトップに据えて他の人を傘下にした社長と社員のような関係ではなく、もっと対等な……それこそ友達のような付き合いのまま、全員で上がっていきたいからか。
自分勝手で、ワガママで。でも……凄く、アカネさんらしい夢だと思った。
「あっはは……。正直さ、私は楽しくやりたいだけなんだよね。私の大好きな可愛い子たちを集めて、一つになって。コラボしたり一緒にご飯食べたり、ゆくゆくはテレビに出ちゃったりなんかしてさ。一人一人の夢を他の全員と一緒に叶えられるような、そんな環境を作れたらと思ってる。あ、もちろん私の夢は一番になることだけどね!! そこだけは負けないよ!!」
「ふふっ。みんな一緒にって言ってるのに、アカネさんが一番になりたいことに変わりはないんですね」
「もち! ま、アヤカちゃんに負けるならそれはそれで本望かなぁ、なんて思ったりもするけど」
「む、それは聞き捨てなりませんね。私はアカネさんが野望を捨てるところなんて、見たくありませんよ」
「ほらぁ、ミーちゃんもこう言ってるし〜。ま、とりあえず私の夢ってのはこんな感じかな。要約するとこのグループは初期メンバーを私、ミーちゃん、アヤカちゃんの三人に据えるってだけで、その後に入った子達は下とか、そういうのは全然ない。全員で楽しくやろ! ってな感じのアットホームな職場ですぜ」
アカネさんはただひたむきに、欲望のままに。自分の夢へと突っ走っている。
ブレることのないその有り様は、本当にかっこよくて。話を聞いているだけの部外者な俺でも、じわりと心が熱くなった。
「さあ、アヤカちゃん。せっかくだしそっちの夢も教えてよ。そのあとで、返事を聞かせて」
ちらりと横を見ると、サキは膝の上に置いた手のひらを強く握りながら。まっすぐにアカネさんの目を見て、強い眼差しで顔を上げている。
「私の、夢……」
そしてゆっくりと口を開くと、サキもまた。柊アヤカとしての夢を、語り始めたのだった。
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