第68話 初めての夜遊び4
68話 初めての夜遊び4
サキの腕のつりを治し、そろそろ体力的にもスポーツ施設を回るのは最後かという頃。俺たちが最後に選んだのは……
「おぉ、懐かしいー」
「え? 懐かしいって、もしかして和人サッカー経験者なの?」
「まあ、中学までだけどな」
フットサルコートであった。まあサッカーとフットサルは細かい部分が違うが、コートに描かれたセンターサークルを見ると、つい懐かしいとこぼしていた。
小学一年生で友達に誘われて小学校主催の弱小サッカークラブに入って、流れで中学もサッカー部を続けて。だが入学した高校はサッカーの名門校で、一応見学には行ったのだがあまりのこれまでとの雰囲気との違いに圧倒され、俺はサッカーをやめた。
別に、プロを目指していたわけでも何でもない。ただ仲のいい友達と楽しく、そこそこのサッカーが出来ればそれでよかったのだ。大学でも未経験者よりはマシだからとサッカーサークルでも探そうかと思っていたが、その前にサキと出会った。というわけで、絶賛帰宅部続行の巻なのである。
「……ほっ」
足の裏とつま先でボールを浮かせ、地面に落とさぬよう、軽くリフティングをしてみる。
小中学生のサッカーでは基礎を練習していかなければならなかったため、このリフティングはよくやらされた。どうやらその感覚はボールをしばらく触っていない今でも多少残っているようで、十回ほど左右の足でのタッチを繰り返して、胸元に上げたボールを手でキャッチした。
「わぁ、和人凄い! リフティング出来るんだ!」
「え? そんなに凄いか……?」
「凄いよ! 私なんて二回しか出来ないもん!!」
あー、でもサキは確かに出来無さそうだな。……だってアイツ、膝枕したら俺の顔が見えなくなるほどのご立派様を持ってるし。多分立ってる状態だとつま先が見えないだろうから、リフティングなんて出来るはずもない。未経験者なら尚更だ。
「ま、これからするのは普通のサッカーじゃないし、リフティング技術の有無なんてなんて関係ないんだけどな」
「まあね〜。ふふふっ、さあ勇者和人よ、これを装備するのじゃぁ〜!」
「ははは、お前がコートの上を転がり回る姿を見るのが今から楽しみだよ」
これからするサッカー名は、ズバリ「バブルサッカー」。これは吸収性のある透明なバブルを上半身に纏って行うサッカーのことで、とにかくそのバブルが重いからよくこける。だがその吸収性により痛みを伴うことは全く無く、むしろ相手にタックルして吹き飛ばしたりしながらというのが、これの正しい楽しみ方とも言えるだろう。
「和人、覚悟ォォ!!」
「ぬぉあ!?」
と、早速装着したばかりで油断していた俺を背後から、サキのタックルが襲った。当然それに耐えられるわけもなく、俺はこかされてコートを転がる。
「油断したね和人! 私はここで日頃の負け分を取り返し……ひにゃぁぁぁぁっっっ!!!」
「ばぁか! 油断してるのはテメェだろうがァ!!」
なんか調子に乗った台詞を吐こうとしたサキに向けて、俺はすぐに立ち上がって本気のタックルを喰らわせた。
ただでさえ普段から上半身に重心が偏りがちのサキは、更にそこにバブルの重みが加わってそれはそれはよく転がる。横転し、そのままゴロゴロと転がされてコートの端のネットにまで激突していた。
「ぬ、ぅぅ。私だって負けな……ん、んっ? ふんっ! ふんぬっ!?」
「おやおや、どうしたのかなぁサキさん? そんなにピコピコしてぇ」
「う、うるさいっ! 今すぐ起き上がるからそこで待っててぇ!!」
ピコッ。ピコピコピコッ。
身体を必死に動かし、反動を使ったりしながらなんとか起きあがろうとするサキ。だがその身体は、いつまで経っても上に向かない。その姿はまるで、ひっくり返ったダンゴムシのようだ。
「あ、ちょっ。なんか和人変なこと考えてる顔してる! やめ、やめてっ!? 何企んでるの!?」
「いやぁ、別にぃ? ただひさしぶりに俺、大玉転がしがしたいなぁって」
「う、嘘だよね? そんなこと……おぉっ!?」
俺は横たわるサキの身体を包むバブルに触れ、そして両手で支えながら、大玉転がしと同じ分量で転がした。
「やめてぇ! 転がさないでぇぇ!!」
「いい格好だなぁ、サキぃ。バブルお散歩だぞぉ〜」
「目が回るぅ〜っ!!」
ゴロゴロ、ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。
サキを転がしながら、コートを徘徊する。たまに身体をくねらせて抵抗の意思を見せるサキだが、状況は変わらない。
「なんでこうなるのぉぉぉ!!!」
ポンコツの悲鳴が、鳴り響いた。
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