第67話 初めての夜遊び3
67話 初めての夜遊び3
「ダ〜メ〜ぇ〜ッ! 打たないでぇぇ〜〜ッッ!!」
「しがみ、つくなァッ!! 大人しく負けを認めろォォォ!!!」
小さなバスケットコート。1on1専用のそのコートで、サキは俺にしがみつきながら引きずられる。
三点マッチで始めた1on1のスコアは、今や2対0。サキがディフェンスの時はちょっと左右に揺さぶってやるだけで簡単に躱せるし、逆に攻めてくる時はやろうとしてることがバレバレすぎて簡単にボールを奪えてしまう。
そして、あと1点で俺の勝利となるこの局面。正攻法では敵わないと判断したサキが取った行動は……俺の身体を無理やり押さえて、シュートを打たせないことであった。ルールなんてガン無視である。
「重、いぃ……! 腕が上がらねぇぇ!!」
「お、重いとか言わないでよォォ!!」
「なら離しやがれぇぇぇ!!!」
結局俺は無理やりサキを振り解き、ゴール下まで移動してから片手で緩やかなシュートを決めた。めちゃくちゃ疲れたが、一先ずは勝利だ。
「う゛ぅぅ! 和人のバカぁ! 自分の得意な球技で勝負するなんて卑怯だよォォ!!」
「バスケ選んだのはお前なんだけどなぁ!?」
ほんと、なんでサキはここまでポンコツなんだ。バスケだってドリブルとか普通に人並みのこと出来てるのに、すぐに調子に乗るから表情で全部バレるんだよなぁ。しかもその事を本人が自覚していないから、また面白い。
「はぁ……腕疲れた。ちょっと休憩しないか?」
「ふっふっふ、何を言ってるの和人。弱ってるなら徹底的に叩かせてもらうよっ!」
「うえぇ……」
そう言って次にサキが俺を引っ張ろうとしたのは、バドミントンコート。だがその前に視界に入った自販機を見て、俺は一瞬寄り道を提案した。
「サキ、頼む水分を! 水分を補給させてくれ……! サキだって欲しいだろ!?」
「え、水分……ゴクリッ」
よし、食いついた。これで上手いこと休憩の流れに持ち込んで────
「……ぺろっ」
「っあ!?」
「えへへ、しょっぱぃ」
その瞬間。サキは俺の首元に寄り、短い舌をちろりと出して。……俺の首筋の汗を、舐めとった。
突然舐められた衝撃と、不意打ちを喰らったことによる驚きで俺が咄嗟に首筋を手で押さえて後ずさると、サキはほんのりと頬を赤くしながら、そんな俺を見て笑った。
「隙を見せたね、和人。水分補給完了だよっ♪」
「お、おま……」
「ほら、早く行くよっ!」
「いや、待て待て待て! 変な水分補給の仕方をさらっとしないでくれるか!? 確かに汗には塩分含まれてるし、運動後の水分にはいいのかもしれないけども!!」
「……もしかして、私の汗舐めたいの? それはちょっと」
「なんで汗限定なんだよ!!」
と、そんな感じで一悶着ありながら。俺はなんとかお茶を買うことに成功し、それを飲みながらバトミントンコートへと移動した。
着くやいなや早速試合をする事になった訳だが、試合開始と共に、俺は確信する。
「えぇいっ!」
「っ、あ……」
ぶるん、ぶるるるんっ。
この勝負、俺が圧倒的に不利だという事を。
「ふふっ、どうしたの和人。そんなんじゃ、あっという間に私が勝っちゃうよん!!」
「くっ、このッッ!!」
「えぃっ!」
ネットを挟み、対面形式で行われるバドミントン。即ちサキが羽を打つ時には、必然的に視界へと映り込む。
……激しく揺れる、そのたわわな胸が。
(これ、全然集中できねぇ!!)
胸に視線を奪われているうちに羽は俺のコートへと侵入し、ギリギリのところでそちらに視界を移して羽を打ち返す。
ただラリーを続ける意思しかないのかと思わせるほどに緩い軌道のものばかりだというのに、俺はそのせいで既にちぐはぐだ。
「サキお前、さてはわざとか!?」
「? 何言ってるの和人? まあ、いいやっ!!」
こちらから激しくスマッシュを打ったりする暇もなく、気づけば全て俺のミスで点数差が開いていく。15点マッチの試合は既に8対0となってしまい、大ピンチだ。サキのやつは自分がバドミントンが上手いのだと錯覚して自慢げな様子だが、その実力は平均である。
「くふふぅ。このまま、一気に決めさせてもらうよ!」
「ぐっ、ちょっと待てサキ! 一回落ち着い────」
「問答無用ッ! ふん────」
と、静止を求める俺を無視してサキが思いっきりスマッシュを打ってこようとした、その時。上にあげた右腕は固まったままで、滑り落ちたラケットが、コートにカランッと落ちた。
「……?」
「っ……っっっう!? ひっ!?」
すると、突如涙目になったサキは肩を押さえながら、その場にしゃがみ込む。何事かと駆け寄ってみると……
「つっ……たぁ……。痛いぃ……」
どうやら、普段から運動をしないサキにはバッティングからのバスケ、そしてバドミントンという流れは相当キツかったようで。心はやる気でも、先に身体が悲鳴を上げたようだった。
「ったく、無理するから」
「無理なんてしてな────っあぁっ!!」
ピキィッ、と固くなって見事に上がったまま動かない右腕をツンツンしてやると、サキは悲痛な叫びを上げる。
あのまま続けていれば間違いなく俺は敗北するところだったのだろうが……流石、ポンコツのセンスの塊なだけはある。まさか自分の身体で自らの勝利を阻むとは。
「ぐぬ、ぐぬぬぬぅ……っ」
こうして、謎に始まった勝負は、サキのリタイアで終了を迎えたのだった。
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