第43話 未来のこと

43話 未来のこと



 アカネさん宅での打ち合わせから、数日が経過して。今日の夜はアヤカの配信予定日なのだが、サキから聞かされたその内容に、俺は舞い上がっていた。


「収益化、通ったよぉ!!」


「やったなサキ! よーしよしよし!!」


 まるでペットが相手かの如き激しいなでなでをしてやると、サキはゴロゴロと喉を鳴らしながら、満足げに満面の笑みを浮かべる。


 収益化。それは全Vtuberが通るであろう最も重要なプロセスであるが、条件が少し厳しめであるために申請が通るのに随分と時間がかかってしまう者も数多くいる。いつ申請を出していたのかは知らないが、とりあえずはとてもめでたいことだ。


 リスナーがVtuberを応援するという形で投げられる「スーパーチャット」、俗に言うスパチャは数百円の細かい金額から最大五万円までをチャット欄に送る事ができ、全てではないが、それらはVtuberの収益となる。


 コメントを読まれたいから、ただ純粋に応援したいから、など理由は様々であるが、このスパチャもVtuberの配信では醍醐味の一つであり、送られる側も、送る側も、そしてそのやりとりを見ている側も全員が楽しめるという、素晴らしい機能だ。


「これで、ある程度収入が入ってくるようになるからね。新しい家具を買ったりとか……ちょっと贅沢できるかも!」


「おっ、マジか! ありがてぇ!!」


 俺はあまり物を買うのにお金を使ったりする訳では無いのだが、そう言われると買いたい物は浮かんでくるもので。新しいゲームソフトや、大きなベッド、はたまた新しい炊飯器などなど。一度浮かび始めると、無限に脳内をそれらが埋め尽くしていく。


「ふふっ、和人子供みたい。欲しいものがいっぱいで困るなぁ、とか考えてるでしょ」


「バ、バレてる! エスパーか!?」


「和人が分かりやすすぎるだけだよ。ほんと、すぐ顔に出るんだからっ」


 あはは、今までサキ以外にそんな事言われたこと無いんだけどなぁ……。みんな言わないだけで、気付いていたのだろうか。


「あ、そうだサキ! 俺の小遣いも、ちょっと上がったりするのか!?」


「むぅ……上げられない事はないんだけど、和人すぐに使っちゃいそうだからなぁ……」


 ちなみに、俺の実家からの仕送りや俺個人の貯金などは、サキの貯金とまとめて一括で全てサキに管理してもらっている。


 家賃や光熱費、食費、俺の小遣いなども取りまとめてキチンと計算してくれているサキが言うのだから、きっと本当のことなのだろう。色んな意味で、もうサキには足を向けて寝られないな。


「まあ、ちょっとくらいは上げてあげてもいいかな。でも、使いすぎはダメだからね! というか、できれば和人にも少しくらいバイトとかしてもらいたいんだけどなぁ……」


「あ、あはは……善処します……」


 あれ? さっきまではなんか新婚っぽくていいな、なんて思っていたけど、この状況よく考えたら俺実質ニート状態なのでは……?


 学生であるうちはニートという言葉は適応されないなんて言うが、同棲している彼女が収入を得ていて、俺は実家からの仕送りとたまーに金欠になった時に入れる短期バイトの給料のみ。世間から見れば、俺は完全にダメ彼氏だ……。


「あ、やっぱりバイトなんてしてほしくないかも。……一緒にいられる時間が減るのは、ヤダ」


「おほぉ( ˊ̱˂˃ˋ̱ )」


 ……って、危ない危ない。このまま甘やかされたら本当にニートになってしまいそうだ。俺も彼氏らしく、サキを支えられるような男にならなければ!


「まあ、大学生の間は本当に気にしないでくれていいからさ。その先はちゃんと、私のこと……」


「その先!?」


「……うん。いつかは考えていかなきゃ、いけないことだから」


 そ、そそそその先というのはつまり、その! 大学を卒業してからけ、結婚、とか……そういうことを言っているのか!? 末長くよろしくお願いしますみたいな、そんな感じなのか!?!?


「も、もぉ! 恥ずかしいからこれでこの話は終わり! とりあえず収益化記念配信今日の夜にやるから、その準備手伝って!!」


「お、おう! 任せろ!!」



 お互いに、思い浮かべてしまった未来についてのことで顔を赤く染めながら、俺たちはそれを掻き消すかのように熱心に準備を開始した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る