第41話 赤羽アカネのウラオモテ2
41話 赤羽アカネのウラオモテ2
「いやー、失敬失敬。カメラ越しに写ってたアヤカちゃんがあまりに可愛いもんだから暴走しちゃってさ。えと……大丈夫?」
「…………うぅ」
「大丈夫じゃなさそうです」
暴走していた赤羽さんを引き剥がし、やっと正気に戻ったところで家の中にお邪魔したわけだが。サキはあの強行のせいで完全に萎縮してしまい、俺の背中にべっとりと引っ付いて身を隠していた。
「あちゃちゃ。これはもう責任を取って結婚するしかないね。婚姻届、貰ってこなきゃ。ね、お義兄様?」
「誰がお義兄様ですか誰が。あなたみたいな人にうちの大事な妹を渡せるわけないでしょうが」
「えー? 私両刀だからアヤカちゃんみたいな可愛い子大歓迎なんだけどなぁ。黒髪ロングで童顔な清楚系かと思いきや、主張の激しい圧倒的サイズ感のおっぱい。このアンバランス感が、グッと来るんだよねぇ」
「ひっ……」
どうやら、俺も一緒に来て正解だったようだ。サキを一人で行かせてたら、マジであのまま襲われて行くところまで行ってたかもしれない。
「にしても、配信の時とは随分イメージが違いますね? こんなド変態なイメージはなかったのですが」
「うわぁ、酷い言われ様……。まあでも、Vtuberでキャラ作ってない人なんて滅多にいないんじゃない? アヤカちゃんだって、配信中と今とじゃ全然イメージ違うし」
「まあ、それはそうですが……」
に、してもだろう。アヤカとサキの違いとはまた別の、最悪の変化の仕方をこの人はしている。
アヤカだけを知っている人がサキを見ればギャップ萌えの一つでも狙えそうなものだが、この人は完全にガッカリされるタイプだ。面白がる者こそいるかもしれないが、少なくとも今までのようにガチ恋を増やすことは不可能になるだろう。
まあただ、見た目はかなりの美人さんだ。身長はサキより少し高くスラッとしていて、スレンダーなボディ。口調的にも、若干赤羽アカネの姉御肌に結びつくものはある。
「ふへ、ふへへへへっ。ねぇアヤカちゃぁん。こっちおいでよぉ〜。いっぱいお姉さんともふもふしようよぉ〜〜♪」
「おいコラやめろド変態。そのいかがわしい手つきでサキに近づくのは────」
「あー、アヤカちゃんの本名ってサキちゃんって言うの!? か〜わ〜い〜ぃ〜!! あ、ちなみに私は鳴川茜!! アカネってところは一緒だから気軽に呼んでね!!!」
「話を聞けよ!? このままじゃコラボどころか打ち合わせすら始まらないぞ!?」
「む〜、お義兄様の意地悪……。でも、私バシバシ言ってくれる男の人好き♡ ねぇ、今度デートにでも────」
「ダ、ダメッッ!!」
次は俺の元に伸ばされようとしたその手を、後ろからにゅっと出てきたサキがぱしっ、と掴む。
「え?」
「か、和人……お兄ちゃんは、私の、だから……」
「っうぅぉっ!!?」
自分で言いながら恥ずかしくなったのか、サキは顔を赤らめて俺の背後へと戻って行く。その姿を見て、アカネさんは尊死寸前であった。
「天使、か……?」
「そうだぞ。その神聖な存在をアンタは汚そうとしてたんだぞ」
さて、このままこんなことを続けていても埒があかない。当のコラボする本人がこんな状態だし、アカネさんとあまり近づけたくない気持ちもあるが、せめて恐怖心くらいは取り除いてやらないとな。
「サキ、もうそろそろアカネさんとちゃんと話せそうか? 一応、中身こんなだったけど憧れの人なんだろ?」
「そ、それはそう、だけど……。また襲ってきたり、しない?」
「そん時は俺が引き剥がすから大丈夫だって。ほら、隠れてないで、な?」
「……うん」
ひょこっ、とサキが小さく顔を出し、手を振りながら笑うアカネさんと机一つを挟み、正面に座る。隣には俺がいて、机の下できゅっと、俺のその手を握っていた。
「サキちゃん、ごめんね。さっきは襲っちゃって。今も理性を抑えるの限界近いけど、頑張ってガマンするから」
「あれ? 今なんかかなり危険なこと言わなかったか?」
「き、気のせいだよぉ。サキちゃんとディープなキスしたいとかおっぱい揉みたいとか、あんなことやそんなことしたいなんて、これっぽっちも────」
「サキ、もう帰るか?」
「あー、ごめん嘘だって!! ちゃんとガマンする!! するから帰らないでよおぉ!!!」
え、ガマンするって言ってる時点で嘘では無いような気がするのだが。
だけどまあ、サキもさっきからセクハラされまくってる割に自分から帰りたいって言わないってことは、やっぱりそれだけこのコラボが嬉しかったからなのだろうか。
「あの、アカネ……さん」
「なぁに?」
「私、アカネさんとコラボするのが、ずっと夢で。今日も誘ってもらえて、とっても嬉しくて。だから、その……よろしく、お願いします!」
「うん、やっぱり天使だな。ねぇサキちゃん。ここの近くに行きつけのいい健康ランドがあるんだけど、今からどうだい?」
「おい、いい加減にしろド変態」
こうして、一先ずコラボすることは決定した。した、が……なんだか、もう帰りたくなってきた。
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