第40話 赤羽アカネのウラオモテ1
40話 赤羽アカネのウラオモテ1
次の日。午前中に支度を済ませた俺たちはレンタカーに乗り込み、サキのスマホに送られてきた地図を元に、赤羽さんの家へと向かった。
「どんな人なんだろな、赤羽さんって」
「どう、なんだろ……配信だとなんていうか、お姉ちゃんって感じだけど。リアルでも同じ感じなのかな……?」
俺には、アヤカとサキの前例がある。
声こそ同じであったものの、コイツらは全然性格が違った。ポンな部分は同じであるものの、積極性や口調など、違う点を挙げれば案外何個も浮かび上がってくる。
と、なるとやはり、赤羽さんも裏では全く違う女の子だったりするのだろうか。……いや。そもそも女の子なのだろうか。男だったらやだなぁ……。
「良い人だといいな」
「きっと大丈夫だよ! 赤羽アカネさんは私の……憧れの人、だからね」
「あ、そういえばそんなこと言ってたな。初めて見たVtuberだったとかか?」
「初めて、だったかは覚えてないけど……私はVtuberを始める前からずっとファンだったの。自分の意見をハッキリと言えるところとか、性格面でもカッコいいところとか。本当に、大好きで」
むむ。なんだか彼氏として他の人にサキがカッコいいと言っているのは引っかかるところがあるが、まあでも確かに、女の人とは思えないくらいカッコいいからなぁ、あの人は。
ちなみに俺もアヤカの配信ほどではないがたまに切り抜きなんかで追っていたVtuberではあるのだが、姉御肌なその感じは男の俺から見ても確かにカッコいいと思う瞬間が多かった印象だ。
「まあ、もうすぐ分かる。そろそろ着くからな」
閑静な住宅街で車を走らせながらそう言った俺は、地図に「目的地まで、残り二キロ」と表示されているのを見てそう言うと、サキの横顔をチラりと見る。
なんだかその表情は恋する乙女のようで、無いとは分かっていても、赤羽さんにサキを取られてしまうような気がしてしまって、ほんの少しだけ……不安になった。
(前から思ってたけど、俺って相当メンタル弱いんだなぁ……)
だが、この心配は約十分後、一瞬にして無に帰す事となる。
そうなることなど当然未だ知らない俺は、モヤモヤした気持ちを押し殺しながら、ハンドル操作を続けていた。
◇◆◇◆
「なあサキ、本当にここで合ってるのか?」
「……うん。ここの十一階だって」
「うへぇ……」
俺たちの視界の先には、灰色の塗装を施されたマンション。十一階、ということは最上階だろうか……。
いや、なんかさっきからやたら通る家通る家が全部デカめで綺麗だったからなんか嫌な予感はしてたけどさ。まさか、ここまでとは。明らかにこのマンションだけは幅的にも綺麗さ的にも周りの家やら小さめのマンションやらと比べて迫力が違うし、ここら一帯の主、って感じのマンションだ。
「えっと、エントランスで1102号室を呼び出してだって。そしたら扉開けてくれるみたい」
サキのその言葉を聞いてエントランスの中まで移動すると、そこには上に上がるためのエレベーターへの道を遮る透明なガラス製の自動ドアと、その前には番号を打ち込む用の、機械が設置されていた。
言われた通り1102と打ち込んで呼び出しボタンを押すと、スピーカーから、女の人の声が返ってくる。
「は〜い?」
「ひ、柊アヤカです! 赤羽アカネさんのお部屋で、お間違いないでしょうか……?」
「ッ、んぐぅ!?」
「んぐぅ?」
「あ、ななななんでもないよ! うん、合ってる合ってる!! 今扉開けるから、上がってきて〜!!」
「は、はい!」
ウィィー。赤羽さんの部屋との通信が途絶えると共に、俺たちの横で扉が開いた。
というか、さっきの「んぐう!?」ってなんだ? まあとりあえず声がまんま赤羽さんなことには安心したが、あの変な反応が気になって仕方がない。
「ま、とりあえず行くか」
「そう、だね」
やたら小綺麗なエレベーターに乗り込み、十一階のボタンを押して、ゆっくりと上へと俺たちは上がっていく。
するとほんの数十秒で俺たちは十一階へと辿り着き、すぐ近くにあった1102号室のインターホンを押した。
ピン、ポーーン。
インターホンの音が響くと、その瞬間。ドタドタと中から足音が近づいてきて、すぐに扉が開く。
すると────
「は、ははは初めましてアヤカちゃん! あ、あぁっ!! 可愛い!! アヤカちゃん可愛すぎる!!! ね、キスしていい!? いいよね、ヨシッッ!!!」
「え!? ちょ、ぁっ!? やめ、やめてください!? 和人、和人お兄ちゃん!! 助けてぇぇぇ!!!!!」
「おま、何してんだ!? 離、離れろォォォォッッッ!!!!!」
金髪ショートカットのその女は、サキを正面から全力で抱擁して。その唇を奪わんと、襲いかかってきたのである……。
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