第14話 二人でお風呂タイム1

14話 二人でお風呂タイム1



「んーっ、疲れたぁ!」


 バタンッ。買い物の荷物を床に置いたサキは、勢いよくソファーの上に倒れ込んだ。


 俺達は食事をした後も買い物を続け、食料品なども溜め込んですっかり疲弊し切っている。外はもう夕日がさしているし、半日以上外にいたのだから当然か。


「俺も流石に疲れたな……。あ、風呂先に入ってきていいぞ。俺は後から入るから」


「う〜ん。お風呂入りたいけど、ソファーの上にいたぁい……」


 ごろん、ごろんとソファーの上で寝返りを打ちながら枕を抱きしめるサキは、そう言ってうつ伏せになって悶えた。まあ、俺も気持ちはよくわかるが。


「でも、風呂は入らなきゃだろ? 汗だってかいてるだろうしさ……。あ、なんなら一緒に入るか? なんちゃって────」


「ん、和人と一緒にお風呂……入りたいかも」


「え?」


「え?」


 冗談のつもりで言った提案にまさかの賛同の意を示したサキに固まる俺と、その反応を見て己の失言に気付いて固まるサキ。ただ気まずくて照れ臭いというなんとも言えない空気感が、俺たちを包んだ。


「待って! 今のはその……違うから! 別に和人の背中流してあげたいとか、一緒の湯船に浸かりたいとかそういうの……ないから!!」


「い、いやサキさん? 今なんかサラッと考えてることダダ漏れになってましたが……?」


「っぅぅ!? ち、違っ!? いや、違わない!? 違わなくなくはなくて、なくなくない!? あれ!? あれぇ!?!?」


 唐突に一人自爆を繰り返すサキは、立ち上がって必死に反論を続けようとすると言葉は絡まって訳が分からなくなっていく一方で。気づけば、壊れたおもちゃのようになっていた。


「お、落ち着けサキ。悪かったよ変なこと言って。もう普通に俺一人でサッとシャワー浴びてくるから────」


「ま、待って! その、えっと……」


 その場の空気に耐えられず俺が逃げ出そうとすると、服の袖をキュッと掴んでそれを阻止しながら、サキは深呼吸。そしてまだ若干恥ずかしそうな感じの表情をしながらも、俺から目を逸らしながら言った。


「一緒にお風呂、入ろ……? 流石に裸はまだ恥ずかしいし隠すけど、それでも一緒に……」


「サ、サキ……」


 恥ずかしがり屋のサキが、俺と一緒に風呂に入りたい……? もしかしてこれが、今日言っていた努力の形の一つなのだろうか。


 サキなりに、俺との関係を深めようと頑張って言ってくれたのか。それとも、単に俺を喜ばせようとしてくれているのか。どちらにせよ、俺には断る理由なんて見つからない。むしろ、ぜひとこちらからお願いしたいくらいだ。


「いいのか? 無理、してないか?」


 俺がそう聞くと、サキはぶんぶんと首を横に振る。


「私が、そうしたいの。ダメ……?」


「そんなわけないだろ。むしろ、めちゃくちゃ嬉しい。……ありがとな」


「え、えへへ……やった♡」


 この顔を見ればわかる。サキは俺のためにと無理をしているのではなく、自分自身もきちんとそうしたいと思ったから行動したのだ。なら、もう心配する必要はない。あとは……存分に楽しむだけだ。


「お湯、何度がいい?」


「41度!」


「おっけー」


 偶然にも俺がいつも風呂に入る時に設定している時と同じ温度ということで少し喜びを感じながら、俺は湯船の栓をしにいくため一人、浴室へと移動した。


◇◆◇◆


『お風呂が沸きました♪』


 それから約五分後。お湯張りの完了を知らせる機械音声がリビングに響き、俺達は同時に身体を震わせた。


「和人。私も着替えてからすぐ行くから、先行ってて?」


「お、おぅ。じゃあ……待ってる」


 緊張でどこか声が上擦りそうになりながらも平静を装って脱衣所へと入った俺は、扉を閉めてその場で衣服を全て脱いだ。


 普段ならこのまま裸でいいが、今日はそうもいかない。キチンと腰にタオルを巻いて息子を隠してから、湯気に包まれた浴室の中へ。そしてシャワーの前に置いている椅子の上に座り、深呼吸を続ける。


「入ってくるんだよな……ここに、サキが」


 うちの風呂は、お世辞にもあまり大きいとは言えない。浴槽だって、二人で入ればキュウキュウになってしまいそうなほどだ。


 そんな狭い密室空間で、サキと二人きり……。


「和人? 入ってもいい?」


「っあ!? お、おおお、おうっ! いいぞ!」


 不意打ちで扉をノックされ焦ったが、そう言葉を返して俺は中に入ってきたサキへと、視線を向けた。


「えっと……お邪魔します」


「っ!!!」


 てっきり水着か何かを着てくるものなのだとばかり思っていたが、その期待は……悪い意味で裏切られた。


「あ、あんまり見ないで。恥ずかしい、から……」



 その美しい身体を包む物は、たった一枚の大きなバスタオルのみだったのだから。

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