SF小噺投げやりさん

s286

第零話

 「は? トコロテン」

  今や文科系の中でも絶滅危惧種といわれている漫研の部長はあごが外れるほど呆れて言ったものだ。

「特異点よ! と・く・い・て・ん! トコロテンってなに? アンタってバカなの? 歩くの? 死んじゃうのッ?」

 まぁ、突っ込むわな。 文芸部の副部長としては。そして、ガチのSFオタクがこの女子だ。 

 趣味は趣味としてマルペから日本沈没まできっちり考察し、研究成果をまとめて年に四回は即売会に出展している。 そして就職は内定済み。都内の図書館に司書官としてあきをみつけてスルリと滑り込む華麗な女子。

「ンなこと言ってもよォ…… 特異点なんて、普通はSFのはなしだぞ? なんでウチの部室に出現したとか言って乗り込んで来るんだよ?」

 他方、ク……青年の方は、漫研でダラダラと時間を浪費し、夜は夜で自宅アパートで仲間と呑み『いつか俺はやってやるんだ』とオダをあげ、学生生活の間、賞レースに投稿したこともなければ漫画原稿を完成させたこともないク……若者だった。

「でもの、はれもの……ところ構わずっていうじゃないのさ」

「お前、それ微妙に使い方、間違ってんぞ?」

 呆れつつ成人している漫研の部長はタバコに火をつけた。バイトはしているが嗜好品しこうひんのタバコは貰ったものをためているのでバラバラ。白いフィルターだったり茶色かったり。酒はたかる金は返さない。部長の男仲間は口をそろえて彼をクズと呼んだ。

「で、でね。特異点……なんだけど」

「おう、どこにあるっての?」

  副部長は、おずおずと部室の隅にあるロッカーを指差した。

「そ、そこ……だと思う」

 指差す先には。ベコベコのロッカー。投稿作品が黙殺された悔しみ、持ち込み先の編集に受けたパワハラが全てこのロッカーにこめられているのだ。

「あーん? まてまてこのローッカーには歴代の部員の描いた原稿が詰まってんだぜ? 開けたら無駄に祟られるわ」

「確認しなさいよ! 部長でしょッ」

 何の説得力もないが、勢いにおされて部長はショボショボとロッカーへ向かった。

「どーすんだよ、絶対なだれがおき……あ? お前なにやってんの?」

 部長が意味も無く振り向くと文芸部の副部長は小洒落こじゃれた封筒を手に固まっていた。ダルマさんが転んだのように

「えっ……あっ」


 それから数分後、二人は寄り添うように部室から出てきた。

「今日から私は君の副部長だぞッ」

「おっ、おう」

 SFとはなんだったのか?Sは好きとしてFは?

 ……ファンタジーでいいじゃない

                              おしまい


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