託された仕事
実際にレースが始まってからのソラの働きにはシアンエルーのチーム全員が驚いていた。いくらやり方を知っていても、初めからこんなに上手くアシストする選手を見た事がない。「お前はダイチか?」と思わせる仕事ぶりだ。ダイチとは脚質が違うから求められる働きは違うけれど、ソラは的を得たアシストをやってのけた。
シアンエルーの目標はプティの総合優勝。その為に他の七人は走る。チームの団結力は堅い。これは選手だった時からダイチさんが中心となって築いてきた力だとソラは思っている。
ソラはチームカーから皆んなのボトルを受け取って運び、常にプティの近くで走るようにした。得意な上りではペースを作る事もして初日からの八日間、しっかりと働いた。
休養日前の第九ステージは険しい山岳ステージだ。
序盤から二級、三級、小さなアップダウンを経て、一級山岳を超えて十キロ下り、最後は八キロ上る一級の山頂ゴール設定だ。総合成績を狙う選手達にとって極めて重要なステージとなる。
シアンエルーチームはこの日、色々と不運に見舞われていた。メカトラ(メカニックトラブル)や落車が相次ぎ、ソラのやらなければならない仕事は多く、かなり足を使わされていた。その上、エースのプティの調子もあまり良くないように見える。
最後から二つ目の一級の山を上っている時にソラはプティに話しかけられた。
「まだ走れるか?」
「はい。僕、今日調子いいから。任せて」
「調子、良くないんだ。アシストももう使い切ってしまった。この山、何とか粘って、最後の上りで少しでも助けてほしい。この山はなるべくオレのそばで走ってくれ。もし苦しくなって千切れても、下りで追い付く事が出来そうなら、何とか戻ってきてくれ」
「勿論!」
ソラはその時点でまだ余裕があるように思えていたが、思っている以上に足は削られていたようだ。頂上が近づいてきて他のチームがペースアップすると、ソラは厳しくなってきた。ここで脱落してしまうわけにはいかない。
ソラは考えた。総合を狙う選手達は下りで身体を冷やしてしまわないように頂上手前でウインドブレーカーを着用する為に少しペースが落ちるだろう。下りも安全に下る筈だ。オールアウトする前に離れてペースで追って、大きな差を付けられずに山頂を越えれば下りで追いつけるはずだ。
集団から離れたソラをシアンエルーのチームカーが追い越していった。
「まだ戻れるぞ、頑張れ!」
チームカーに乗っていたダイチは追い越し様に一声掛けていった。
選手達の下りは速い。チームカーを運転するのも容易ではなく、後部座席に乗っているダイチも座席にかじり付いている。
突然、選手達の情報が流れるラジオ・ツールから切迫感のある声が流れた。
「クラッシュ発生! 六十八番が単独クラッシュ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます