タスケの鯉。
桜野 叶う
タスケの鯉。
一、愛する人のために、全力疾走。
ウミちゃん! ウミちゃん!
ユウは走った。路面電車の通る
ユウは、死にもの
速く速く! 足を動かせ! ウミちゃんは今どうなってる?
ハァハァと息が苦しくなっても、必死に前を向いて、死にそうな足も
それは八月だ。
爆心地から、かなり離れた、この町も、建物などが、
爆心地である、その中心部近くのところには、ユウの
たった
そして、さっきまで晴れていた空も、
ウミちゃん。ウミちゃん。どうかご
建物や、そこにいる多くの人たちが、
ユウは走った。とうに限界になっている。息も
あぁ、怖い。
嫌だ嫌だ! そんなの嫌だよう! ウミちゃんだけでも、生きていて!
涙で前が見えない。それでも足を止めなかった。すぐにでも彼に会いたいのだ。
進んでいくごとに、その思いほ強くなっていく
雨が降った。土砂降りの
そろそろ爆心地の辺りなはずだ。やはり、ここの辺りが一番
そんなユウの体にも、
原因は、おそらく雨だろう。顔が、足が、この雨に
そして、その
「ウミちゃーん」「ウミちゃーん」
ユウは、走りながら、
せめてもう一度だけ、あの笑顔を見せてよ。あの、大好きな笑顔を。見ただけで幸せになれる、あの笑顔を。
でも、もっと一緒にいたいんだよ。ずっとずっと一緒に!
しかし、ついに、ユウの足が止まった。
「う…う…ウミ、…ウミちゃん」
早く会いたいのに、会えないまま、
『ユウ』
どこからか、ユウの名前を呼ぶ声が、聞こえてきた。ユウは目を
ウミちゃん!
『ユウ』
後ろを向いた。そこには何もない。再び前を向くと、そこには、一人の女の子がいた。
「
金魚のような赤い着物。下はスカートのようになっている。首もとまで
「
何それ。と思ったのも
鯉へと変化した
ふらふらと立ち上がったユウは、
「つかまってて下さいね」
そう言った、
ユウは大いに
そして、今や荒れ地と化した広島の街を見下ろしている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。