第4話
何かあったら連絡を、と言い残して村長――加々村正蔵村長は去っていった。
野次馬たちも解散して、祭りの準備に取り掛かり始めている。
宮内は手近な男に声をかけた。
「少しお話、よろしいですか?」
「おお、刑事さんかい。さっきはありがとうなあ。
「ははは、私は現職の刑事ではありません。元・刑事ですな。そんなことより、村長さんの息子さんが亡くなったというのに、皆さん冷たいのではありませんかな?」
「ハッ」
男は突如豹変した。
穏やかな笑顔は影を潜め、刺々しい雰囲気を露わにしていた。
「いくら正蔵さんところの息子でも村を売ろうとした若造だからの」
「バチが当たったのよ」
「祟りじゃ祟りじゃ」
傍にいた男たちも口々に被害者を罵っていく。
「村を売る、とは剣呑な話ですな」
「正蔵さんとこの息子はな、村に都会の会社を引っ張ってくる計画を何度も立てておったんだわ」
「地域振興。よい話ではないですか」
「金儲けのために村の土地を切り拓くわけにゃあいかんわ」
「村の土地が穢れちまう」
「村の伝統が
部外者が言う事ではありませんが、と宮内は前置きをして、口を開いた。
「見た所、この村には若者が少ないようです。青年部といっても私と変わらぬ年齢の方ばかりでしたし、若者が帰ってくるきっかけになるのでは? 伝統以前に村そのものが廃れては仕方がないでしょう」
「村を捨てた親不孝者に帰ってきてほしいとは誰も思うとらんよ」
「そうじゃそうじゃ」
「金儲けの話のときだけ帰ってきよって不埒モンが」
「正蔵さんが体悪うなった時には顔も見せんかったのになあ」
「全くけしからん」
「村のためにいつも尽力しとる正蔵さんの息子とは思えんわ」
「そんなだからバチも当たるんだわ」
「違いない」
宮内は人の死を「バチ」と言ってしまう彼らにそれ以上何か言う言葉を持たなかった。価値観が、考え方が違い過ぎる。
「あの」
代わりに口をひらいたのは、まりあだった。
「祭りの準備、昨日の夜も、こんな感じ?」
「おう。そうじゃな。夜
「もうひとつ、訊いていい?」
「なんじゃろうかな。言うてみい」
孫ほど年の離れた少女に、男は歯を見せて笑う。
まりあは真っ白な顔に無表情を乗せて問うた。
「昨日、最後に村長を見たのって、誰?」
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