6.一夜
一夜、
再び宝箱の鍵穴が移ろっている夜、何かに誘われるように外を窺う
物置小屋の二階、薄いガラス窓から山々の黒い
その麓を走るように往く雲の大移動
何か始まるような、まだ追いつけそうな
青磁の空はかすかな光をはなっている
(でもどこへも行けない)
一夜、
水は何のために巡り続けるのか、山腹から生まれ出て
からころと鳴きまわり、草の真下をゆるりと抜けて
一夜、
大地が紫の垢に覆われて
水をさんざん浴びせた日
真っ暗な道を泳げば、黄金虫がぶうわり頭蓋を突き抜ける
朝の風に立ち会って、夏草が揺れている
止水板を外された水路が緩やかに波打っている
寝ぼけ眼をはね除ける水田のひかり、それを仕切る畦道を踏んで
ひとつ呼吸する亡き人の肩から
約束どおりに夜が羽ばたいているのだった
からんと落ちた鍵
何も無い日々に棄てた名前
一人立ち止まっている
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます