6.一夜

一夜、

再び宝箱の鍵穴が移ろっている夜、何かに誘われるように外を窺う

物置小屋の二階、薄いガラス窓から山々の黒いからだを眺めれば

その麓を走るように往く雲の大移動

何か始まるような、まだ追いつけそうな

青磁の空はかすかな光をはなっている

(でもどこへも行けない)


一夜、

水は何のために巡り続けるのか、山腹から生まれ出て

からころと鳴きまわり、草の真下をゆるりと抜けて

そらの奥、音もなく星が破裂する


一夜、

大地が紫の垢に覆われて

水をさんざん浴びせた日

真っ暗な道を泳げば、黄金虫がぶうわり頭蓋を突き抜ける



朝の風に立ち会って、夏草が揺れている

止水板を外された水路が緩やかに波打っている

寝ぼけ眼をはね除ける水田のひかり、それを仕切る畦道を踏んで

ひとつ呼吸する亡き人の肩から

約束どおりに夜が羽ばたいているのだった


からんと落ちた鍵

何も無い日々に棄てた名前

一人立ち止まっている

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