第143話 そらふねの桟橋
途中から右折して入る土日だけ空いてる展望所があるのだけれど、どっから入るのかよくわからないまま通り過ぎてしまい、そのままWindowsXPの壁紙みたいな景色を見ながらミルクロードをやまなみハイウェイ方向へとひた走る。
それにしても気持ちいい道
何度も走ってるけど、季節ごとに見える景色が違ってていい感じだわ。
昨年は春に走ったことなかったけど、ほんと草原がヨーロッパみたいでとても異空間、異世界って感じがする。
そんな風景を通っていくとやまなみハイウェイとの合流地点に到着。ここから多くのバイクが左折して大分方向へと進むけれど私たちはここから阿蘇市方向へと右折する。
さっきまで私たちの後ろを走ってたバイクたちのほとんどは左折してバリバリ言わせながら走り去っていく。
しかし、いろんなバイクが走っているものねえ。
城山展望所方向に走っていくと阿蘇の五岳が見えるのだけれど、なんだか頭でっかちに見えてしまう。
一宮方向から見ると根子岳が近いから頭がデカく見えるのよねぇ。
そんなことを考えていると目的地に到着。右側なのでタイミングよくさっと曲がって入っていくけれど、ここは道が広いし駐車場の入り口が道路に広く面しているからスッと入れてよかったわ。
右折でバイクだと後続車からのプレッシャーを感じてしまうし。
ここからは頭でっかちになった阿蘇の涅槃像が楽しめるのだけれど、何か古めかしいレストハウスのようなものが建っている。
あれやってるのかしら?
そんなことを呟いてしまうと、はるなっちが
「こないだここでお父さんとラーメン食べたわよ」
と言うのでやってるらしい。
展望所に行く途中、レストランの中が見えるのだけれど確かに人が入ってる。
「美味しいの?」
私が聞くと
「棒ラーメンみたいな味。アベックラーメンとかと同じ感じ?」
「なにそれ」
「熊本のラーメンよ。2人分が袋に入っている豚骨スープの棒ラーメンで美味しいのよ。2人分だからアベックラーメン」
「今どきアベックとか言わないでしょ」
「前、これのカップ麺があったんだけど」
「2人分入ってるの?」
「流石に一人分しか入ってなかった。アベックラーメンという名前が意味をなしてないからかすぐ消えちゃったわね」
ということは、はるなっちは食べて確認したということか。
展望所にくると、また景色が開けて気持ちい。
阿蘇の展望所はどこも全て見晴らしが良くて気持ちいいわ。
「ほんと、最高の場所だらけだよね」
ヒナっちが赤い髪の毛をかきあげながら言う。
「阿蘇、初めてバイクで走ってますけど、こんなに気持ちのいい道だったんですね。車の助手席でも十分心地よいと思ってましたけど」
「なんでも、実際に体験してみないと本物の良さは感じられないのよ」
「その理屈で言うと、ミルクロードをジョギングしてる人が最高ってことになるじゃん」
「そんな疲れることしてたら景色楽しめないじゃない。バイクの立体的な動きが、この景色の感動をさらに掻き立ててくれるのよ」
はるなっちがそんなことを言う。
立体的な動き?
「バイクって、カーブの時に体が傾くじゃない。それって重力を感じてる瞬間なんだよね。
飛行機とバイクは重力を感じる乗り物って昔から言われてるよ」
などとヒナっちが言う。
だから飛行機乗りはバイクに乗るのだとかなんだとか言ってるけど、それトップガンの見過ぎではないだろうか。
草原の風と青い空と、田植えの準備が始まった水田の向こうに見える阿蘇山。
どの角度から見ても、いい景色よね。
車も増えてきたので、また移動するのだけれど、ここから下に降るのが大変。
なんでこんなカーブがキツいのか。
ここからははるなっちを先頭に私が最後尾なのだけれど、みんなバイクが軽いからかスイスイ曲がってるように見えるけど。
スーパーフォアは重たいから倒すのが怖くて。
じわっと曲がろうとするとスピード緩めないといけないし。
下で前ブレーキとか使うとバイクが立ち上がって曲がらなくなるし。
中指をそっと前ブレーキにかけてじわっと調整して、足のブレーキを引き摺りながら下のコーナーを慎重に曲がっていく。
慣れてくるとちょっと楽しくなるわね。
とか思ってると、稲荷があるヘアピンコーナーでかなり倒しながら曲がることになってヒヤヒヤしちゃうし。
ここのお稲荷さんはなんか怖い感じがして立ち寄ったことがないんだけど、こんなカーブのとこにあるからどうやって車止めるのかもわからないし。
場所が悪いのではないか、と通るたびに思う。
みんなスイスイ先に行ってしまい、なんとか跡を追う。
そらふねの桟橋はかなり狭い道を通っていくらしいので遅れないようにしないと。
そして、確かに住宅地を抜けるので私だったら道がわからなくなってたかもしれないし。
「ここ登ってくの?」
という道だったからちょっとびっくりしちゃった。
目的地も、思ったより「人いないじゃん」というくらい過疎っててびっくり。
あの写真とか見るとみんな来たがるんじゃないかと思うんだけど。
「割と、兜岩展望所とかと勘違いしてここまでこない人も多いんだって」
バイクを慎重に止めて倒れないのを確認して、心配なのでスタンドの下に大きめの石を挟み込んでいるとヒナっちが話しかけてくる。
「あの道だと途中で諦めた人もいたかもしれないね」
などと話しつつ、先に行ったひなっちとしのぶちゃんを追いかける。
重量があるバイクは、砂利の駐車場に停めるのに気を使うから。
そこから見る阿蘇山は、
「大観峰から見るのとあんま変わんない?」
「むしろ低い位置だから迫力はあるかも」
などと好き勝手言いながら桟橋の先まで移動する。
ちょうど人がいないので私たちだけの占有!
だからスマホでバシバシ撮って映える感じを求めるけど
「ここは朝靄がかかる時間帯なんかが良さそうよね」
はるなっちはそんなことを言いながら、手をかざしてなんか画角を見たりしてる。
「ここまでくるのが大変だけどね」
「気合の入った人は早朝からバイク走らせて雲海とか撮影に来てるわよ」
雲海っぽいのは自分の家から眺められるけど、阿蘇市側からの雲海はどんな感じなんだろう。
としのぶちゃんを見ると、なんか目を逸らして真っ直ぐ見ないところがある。
「なんかいるの?」
「この桟橋の上の方に竜が住んでます。だから気づかれないように目を合わせないようにしてるんですけど」
「面倒そうな人?」
「多分、人間と契約してる竜だと思うんですが、違ったら前みたいになると嫌ですし」
ラピュタの道でのことを警戒しているのだろうか。
あの一件でいろんな人に迷惑をかけてしまったからなぁ。
まぁそういうことなら知らないふりして通り過ぎてしまいましょう。
「佐藤くん?」
「あの竜は大丈夫ですよ」
心の中で問いかけるとすぐに返事が返ってきた
どうやら、近くの竜使い本家があるらしく、そこがちゃんと繋がりを持っているとかで、人間に対して変なちょっかいを出してこない竜なのだとか。
「なんで人と繋がってない竜より繋がってる竜の方が落ち着いてるの?」
「彼女がいないで数十年過ごした男性は常に性欲を満たすもの、女性の姿を眺めて楽しむなどしてると思いますが彼女がいる状態だとそういうものを求めず落ち着いた生活ができるでしょう。すぐそこに手に入るものがあれば、落ち着いていくものです」
そういうものなのか。
ということをしのぶちゃんに話すと、ほっとしてちらっとその竜のいる方向を見て、何か笑顔で微笑んでたりする。
「なんか話してるの?」
「ここの竜が、南阿蘇の私たちの白龍様と知り合いだったみたいで、私を最初から気づいて目で追ってたと言われました」
「じゃあ気遣いしなくてよかったんだね」
「なんか、避けられてると思ってあえて声をかけてこなかったとか言われちゃいました」
レディに気遣いのできる竜もいるのね。
なんか竜とか精霊とか、知らないうちは特別な存在で人間を超えたようなイメージがあったけど。
いろいろ接していくと基本的なところは人間と同じような部分があって、なんか親しみやすいのを感じてしまう。
でも、なんでそうなのかしら?
人間と接している時間が長くなると影響を受けるのかしら?
うーん
その竜がいるであろう山の方を見ていると
「何?反対側に何かあるの?」
そう言いながらヒナっちが桟橋からこちらに歩いてきたので
「なんか珍しい鳥がいたから、しのぶちゃんに聞いてたの」
などなど話を逸らしてみるが
「鳥?私詳しいよ、どんなやつだった?」
ここに食いついてくるのか。
しどろもどろしながら私が適当に答えていくと
「それは、シジュウカラかな、それともヤマガラかな?お腹の色は何?」
とか詳しく聞かれるので困ってしまった。
ヒナっちが鳥好きというのも覚えておこう。
そして、これから箱石峠へと向かうのだけれど、しのぶちゃんが
「あそこ通るんですか?」
と聞いてくるので理由を尋ねると、こそっと
「箱石のところにいる精霊が面倒臭いんですよ。竜と縁があると難癖つけてくるから私通りたくなくて」
「難癖って何?」
「変ななぞなぞ仕掛けてきて、解けないと足止めかけてくるっている面倒なやつなんです」
「スフィンクスみたいなやつね」
などと話しながら。
そうなると阿蘇山超えてかえるしかないのかな?
「日ノ尾峠通っていきません?」
しのぶちゃんがそんなことを提案してくる。
「それどこ?」
「面白そうなところね」
ヒナっちとはるなっちが食いついてきた
「以前親と一緒に通ったことあったんですけど、軽トラで走れるくらいの道だからバイクでも問題ないと思います。
結構いい景色が見られますよ」
そう言いながらスマホで峠に行く道を示していく。
「なるほど、普通に箱石峠通っても面白くないから、そっち通っていきましょうか」
「オフロードじゃないよね?」
「舗装されてるからバイクなら大丈夫です、あ、でもさくら姉さんのだとコケたら大変かも」
「大丈夫、どこでコケても大変だから」
しのぶちゃんが箱石の精霊と会いたくないのだから、私も協力してあげないと。
なのですぐそんなことを答えてしまったが、ほんの数十分後には後悔することになろうとは。
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