CB125Rと、しのぶちゃん

第113話 新学期になってから

「えー、CB125Rにしたって? KTMデューク125の方が高性能なのに」


「それ、最新版のスペック見てないでしょう」


などと学校でははるなっち、ヒナっちがそんなことを話している。

クラス替えなどもあった結果、私は以前から進学クラスだったけれど、3年生からはこの二人も同じクラスに入ることとなった。

一応、2年生の時に私の家に来ては勉強してたおかげで、二人とも成績がかなり上がってきたのと、進学を目的にしているので編入となった形。


進学クラスに居た人が数人普通クラスへと移動しているので、ついてこられない人もいたりする。


私たち3人が集まると、バイクの話しかしてないので一般女子が近寄り難い雰囲気になっているのがあるのだけれど。

見た目だけなら、この二人スカート短いし髪の色染めてるみたいだし、派手だし。

そこに地味な私が混じっていることを不思議と思われてそうな感じもあるし、「二人に脅されてカツアゲとかされているのでは?」とこっそり心配してくれた人もいた。


あ、私そんな感じで見られてたんだ。

どうも幸薄い少女的なニュアンスはなかなか外れないらしいが。


ただ、同じくバイク通の男子などが話に混じってくることがあり、二人は割とこのクラスにも馴染んでいけそうな感じはある。

女子からは距離置かれてるけど。


GSX125に乗ってる田中くんが「今度一緒にツーリングしようぜ、お前らの写真撮ってやるよ!」などと言ってくれるが、彼が写真部だというのを3年になって初めて知ってたりする。

「そう、じゃあ野焼きで真っ黒な草原が緑になったくらいにお願いしようかしら」

とかはるなっちは軽く言ってるけど、初対面以外の人に対してはフレンドリーなのよねぇ。

東京で小動物のように人混みに怯えていた人と同じとは思えないけれど。


学校ではそんな感じで、新しい動きがあったわけで、バイク部にも、しのぶちゃんが入ってきて、早速他の二人にバイクをチェックされてたりもする。


いきなりハーフ顔で黙っているとちょっときつい感じのあるヒナっちなどが現れた時は、顔がこわばってたけど。

話をしているうちに打ち解けてきている感じだった。

皆が仲良くするのは良いことよね。


そして、私たち3人が同じクラスになったので、毎日我が家に来るようになってしまったわけで

勉強という名目なので、一応学習を行うんだけれど。いつの間にかバイクの話になるのは仕方ない。

はるなっちは「暖かくなるまではスーパーカブで」とまだカブ乗って通学してる。ヒナっちも通学にはデューク125を使ってて、BMW310は普段乗りには使ってないみたい。

「あれは代車だから」

と言われたことはある。


こんな感じで新しい学年でも賑やかにやっているわけだけれど。

父母の話については、特に進展してないところ。色々あって何か事件が起こって、物語が佳境に進んでいくようなのがあると盛り上がるのだけれど。

日常が特に変化がなく。

佐藤くんとお父さんの話ができるようになったので、それが嬉しいというくらい。


見えない存在が見えても、特に何か役にも立たないし。使役するとそれなりの手順が必要で面倒らしいし。

妖精などを精霊使いが使役するような話がファンタジーなんかに出てくるけど

「彼らを使うなら、ちゃんと等価交換しないとダメです」


と佐藤くんに言われる。

等価交換?

妖精が「働いてもいいよ」と思えるくらいの価値のあるものを与えないといけないのだとか。

それが

「妖精は個性的でわがままですから。昨日まで黄金が好きと言ってたのに、今日はダイヤがいいとか言ったりすることもあるんです。阿蘇の妖精は麦が好きでも、広島の妖精は米が好きとか、地域によって違いがあったりもするので、それぞれの地域特性、妖精の好みに対応できるものを常に持っておくなど知識がないと難しいのです」


「お願いとか話しかける程度じゃダメなの?」


「さくらさんは、たとえば目の前にクマが現れて困っている人が其処にいたとします。

その人が、さくらさんに「頼むこの熊を倒してくれ」とかお願いされたらやる気出ます?」


「無理」


「現金2億とかだったらどうです?」


「少し考える」


つまりそういう事らしい。

お願いされてもタダで死地に入れと言われるような感じらしく、確かに相手の身になってみれば等価交換は必要なのだろうと思える。

よくわからないものは当てにしないこと、という事なのね。


「さくらさんにも、良い友人がついてて安心しましたよ」


などと佐藤くんが言ってくる。

そもそも、人間でもない得体の知れない存在から良い友人とか言われても、どういう基準なのか不思議である。


「良い友人の定義ですか。

さくらさんが一緒にいて笑顔が出るような人たちという定義ではダメですか?」


「私、笑ってる?」


「ええ、友人と一緒にいる時はとても自然な笑顔で笑ってますよ」


佐藤くんはそう言って、魅力的な微笑みを向けてくる。

一瞬心奪われそうになるけど「これは得体の知れない半非物質生命体」だと思うと思と我にかえる。


そうか、自然に笑えているのね。


そう思うと少し嬉しくなる。

母が亡くなり、父が亡くなっていると知らされてから、この一年色々あったけれど。


竜とかそういう世界の話よりも、友人ができたこと、一緒にツーリングしたり、勉強したりできてる方がよほど嬉しいと思うし。


「さくらさんは、僕のような存在とこういう関係になっても、特に変な行動はしないですよね」


「変な行動って何?」


「力を試すとか、自分が特別な存在だと自覚するために竜や力ある存在と縁を結ぼうとしたがるとか。僕を使役するなんかもする気ないでしょう?」


「それやっても面白くなさそうだし。

竜とか力ある存在と縁を結んだら、何かいいことあるの?」


「自己顕示欲が満たされる人もいます」


「学費がタダになるとか、バイクのガソリンが減らなくなるとか、そういうのあるなら頑張って竜と仲良くするけど」


「残念ながら、石油が沸くとこを教えてくれる程度でガソリンにすることはできないですね」


「それって、もしかしてアラブに行って油田掘ったら儲かるんじゃないの?」


「アラブの精霊と仲良くなれるなら、その手もありますが。アラブの精霊に知人はいないので僕には無理ですよ」


アラブの精霊。ジニーみたいなのがランプから出てきて「ご主人様御用ですか」とか言ってくるのかしら。


海外の方はよくわからないけど、金山とかそういうのは見つけてみたいわね。


「僕と縁ができて何か使役して自分の人生を有利にしたいとか思ったことないですか?」


「いじめっ子に復讐だ、みたいな話?

別に私何も困ってないし。人に復讐とか考えたこともないし、それに佐藤くんを使役して何か結果が出たら、その代償に今後生まれる子供をよこせ、とか言われたらいやだもの」


「子供は欲しがりませんが、何らかの等価交換は必要になるのはあります」


「ただでさえ、父母の家の話で混乱してるのに、それ以上面倒なこと考えたくないし、受験生だし」


やることたくさんあるので、佐藤くんの使い道など考えている暇はない。


「さくらさんのお父さんもそうでしたが、意識の自由な人と縁を持っていると僕も楽でいいです」


「使役されると、疲れるの?」


「等価交換でそれに相応するものを用意できない人もたまにいて、その人からは命とかもらわないといけないんで心苦しいんですよ」


今さらっとやばいこと言った。


「あ、春間家の人と関わり出してからは人の命とかもらってないですから、安心してください」


やっぱり、この人はまだ信用できないな。

と思ってしまうけれど、悪い存在ではなさそうだからこの先も関わってもいいかなと思ってる。




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