第102話 フェリーの中で

雄龍からの警告については、まぁ実生活に影響ないなら気にしない、程度にしておくことにした。

考えたところで、人生が有意義になるわけでもないし。


朝はみんな遅くに起きてきて朝食をぼんやりと食べて。高藤先輩は「ご飯食べるより寝る」とか言って、私たちが戻ってきてからもしばらく寝てたけど。

それからしばらく周辺を散策しチェックアウトの時間まで海岸を走り回る。

種子島はその後、海食で作られた千座の岩屋、馬立の岩屋、樹木でできてるアコウのアーチを通って、また海岸沿いに行って海を満喫。

「なんか、種子島は穴が空いててるとこが多いのね」

と、はるなっちの感想。


走ってみるまでは、平で平坦でどこまでも見渡せるような雰囲気だったけど、ちゃんと凹凸もありそれなりにアップダウンもある島だと言うのも体験し、なんでも実際に足を運ばないとわからないこともあるものね。


屋久島は山と水という印象。種子島は海と街という印象かしら。

サーフィンとかいろんなことしたい人は住むのにいいのかもしれないわね。屋久島は、ちょっと湿っぽい感じがあって、実はあまり住んでみたいとは思わなかったのだけれど、種子島だったら住んでもいいかな、なんて思ってしまったし。

多分、コンビニでファミチキ買って食べたからだと思うわ。


そして、時間になったのでフェリー乗り場へ移動すると、ここにきて問題が発生していたのだ。

ヒナっちの持ってきた酔い止め、薬ポーチごとどっかにおっことしてたという話。

気づいた時はもうフェリーに乗る時間直前なので薬局に行くわけにもいかず。船の売店で売ってないかな、と思ったけど無いみたいで。


「船が揺れないように」


とか青い顔で祈っているヒナっち。

一番いいのは横になってじっとしてることなので、ヒナっちは2時間以上2等客室

の雑魚寝部屋で横になってることを決意したらしい。

そういえば、三等客室とかあるのかしら?

映画、タイタニックでそんなのがあったような気がするけど。

今時、船倉に詰め込まれて運ばれる人とかいるのかな?


とりあえず、私も寝不足気味なので一緒に寝てあげることにした。

綺麗な女子一人で雑魚寝で寝てるのは危険だし。


高藤先輩とはるなっちは撮影のためにまた船の中を駆け巡っている。

高藤先輩も一緒にいようかという話をされたのだが

「私のせいで動画撮影できなかった、とかになる方がいやです」

とヒナっちが言うので、「梅干しでもへそにはってたらいいわよ」とかおばあちゃんの謎知識を披露してたはるなっちと一緒にデッキへと登っていって、出港の様子から撮影してるみたい。


梅干しを臍に貼るとか初めて聞いたわ。

一体何が効くの?クエン酸がヘソから吸収されるのかしら?


「悪いわね」


とヒナっちが言うから


「私も昨日、寝不足だからちょっと寝たいだけだから気にしないでいいよ」


と言って毛布にくるまる。

しかし床が硬いし枕ちっちゃい。


「屋久島種子島、楽しかったね」


ヒナっちが話始める。多分、気分を紛らわさないと船の揺れに意識が向くからだろう。


「色々とあって疲れたけど、楽しかった」


「種子島もあと1泊くらいすればよかった」


とヒナっちが言うので、なぜかと尋ねると


「まだ巡ってないとこ多いし、カヤックとかの体験もしたかった」


それは夏に行うべきものでは?と思ったので


「また、夏に来たらいいじゃん」


「でも、夏になったらもっと遠くに行きたくなりそうだし」


「受験生だから、そんな暇ないかもしれないし」


「あ、そうだった」


「ヒナっちは東京の大学いけそうなの?」


「一発では無理かなぁ。浪人とか考えてたりするけど」


「浪人してまで行きたいとこなんだ」


「美術のデザイン系は予備校通わないと技術が上がらないって言われてて。田舎からだと東京の予備校は夏期講習とかしか行けないから、どうしたものかと思ってる」


「私はまだ、どこ行こうか決めてないな」


「進学コースで優秀な成績取ってたら、色々選択肢はあるじゃん」


などと言われるが、特に決まらないとこがあって。

それに、佐藤くんとかに言われた巡回者の話もよくわかってないし。


「お父さんの仕事とかお母さんのこととか考えると、何をしたらいいのかよくわからなくて」


「自分の人生なんだから、自分の好きに決めればいいじゃない」


自分の好きに、がよくわからないのだけれど。

そんな話をすると、


「じゃあ、乗りたいバイクとかある?」


「今乗ってるので満足してるけれど」


「他に、何か乗ってみたいとか」


「特にないわぁ」


「・・・その辺ね。自分で何も行動しなくてもなんか色々手に入ってるから、あえて欲求が出ないのかな。

ある意味幸せだけど、周りに流された人生になるよ」


「そう言われてもねぇ」


「オズっちは自分の「好き」なこだわり持たないと」


「そう言われてもねぇ〜」


「何か仕事してみたいのとかある?」


「ホワイトな企業がいいかな」


「結婚相手に望むものは?」


「長男じゃないとかDVじゃないならいいかな」


「人生で大切なものは?」


お母さんだったのだけれど。


「それが、今年無くなっちゃったから、なんか迷うというか」


「あ、ごめん」


「いいよ」


「そうか、そうだもんね」


何かに納得したようにヒナっちは言う。


まぁ、どうしてもこの話題になっちゃうから仕方ないけど。


すると、ヒナっちはこちらを向いて


「これからも一緒に、オズっちの好きなもの探ししてあげるよ」


と言って笑ってくれる。

好きなもの、大事なもの、今はヒナっち、はるなっち、高藤先輩と友人とかそんなのもあるけれど、

口に出すのは恥ずかしいから頷くだけにしておく。


実は今すでに、好きなものはそれなりに手に入れているから、探さなくてもいいのだけれどね。


そんな話をダラダラとしていると、いつの間にか二人とも眠ってしまい。


はるなっちの声で起きたところ。

船が港に着いたらしい。窓から外を見るとすっかり夕方、まだ明るいから目的の桜島ユースホステルまでは問題なく行けそうね。



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