第89話 縄文杉

「ここは辻の岩屋、あの美輪明宏の声の狼が出てくる映画に出てくる洞穴のモデルになったとか言われてるとこ」


作品名を言われなくてもすぐわかる。


その岩の上に登って


「お前にサンが救えるのか!」


とかヒナっちが物真似して言ってたりするけど、割と似てる。


ガイドの冬美さんにウケて満足したような表情してるし。


そこからしばらくいくと、トロッコ道へと合流してきた


「ここからはいっとき道なりに進むだけだから少し楽。ウイルソン株を目指します」


と言われ、平坦な道をひたすら歩くルートになった。

このトロッコの感じ、夢で見た雰囲気に似てる。


ここからは他の縄文杉を目指す人達とも出会うようになり、私たちはそれらを避けながらサクサク進み追い越していく


「みんなペース早いけど大丈夫?」


と心配されたけど、みんな割と大丈夫っぽい。

学校の行事で、強歩大会で30km歩かされてるから。


ウイルソン株、植物学者の人が雨が降ってきて雨宿りしたとこらしく。

洞穴だと思ったら過去に切り倒された屋久杉の根っこだったってことで盛り上がったらしい。


「今はね、中入って上見上げるとハートの形になってるから、恋愛に効果あるって言われてる。若い女子はみんなここで祈ってるわよ」


と冬美さんに言われるも、

私たちは誰一人そんなものに興味はなかった。


「うわーでかい」


「ウイルソンさんって有名なのかしら?」


「もしそれが北欧のアホネンとかいう学者だったら、アホネン株とかになったのかな」


とかしょうもないことで盛り上がっている二人がいるし。

私は、それよりもそんな古い切り株が残っているのが不思議でしょうがない。

それだけ、屋久杉は腐りにくいってことなのかしら。


その辺りで一度おやつタイムが挟まれた。

冬美さんは森に湧き出る水を汲んで、ペットボトルみたいな浄水器を使って濾し取り、その水でコーヒーを淹れてくれた

簡単なドリップコーヒーだったけど、とても柔らかく美味しい。

お菓子はパウンドケーキ、バナナがたっぷり入っててとても美味しい。

このケーキは冬美さんが作ったものだとかで、ツアーの人用のお菓子として作っているとか。甘くてカロリーが高いものとしてパウンドケーキはちょうどいいとか言ってたけど、美味しいならそれでいいと思う。


そこからまた登山道路を歩いて、木製のデッキがあるところにたどり着いた。

私たちは早い時間から出発したせいか、そこにはまだ人がチラホラしか居ない。


「そこを登ると、見えてくるわ」


と冬美さんに言われ、みんな駆け上がっていく。

そして目の前に、それが姿を表した。


「でかい」


「太い」


「ゴツゴツしてる」


それぞれが感想を口に出し、そしてしばしその姿を眺めてしまう。

今まで見た屋久杉とかと、また違う風格があるものね。


「一応縄文杉と言われてるけど、本当の寿命は三千年以上?という感じではっきりしてないの」


「そもそも、なんで縄文時代から生きてると言われたのですか?」


「太さ、これくらい太くなるなら7千年くらいかかるだろうと言った先生がいて、みんながノリノリになったわけ。いろんな説があって、実は3本くらい合体してて千五百年くらいだとか言われてた時もあったけど、まぁ確実なところで三千五百年くらいは生きてるでしょう、と言う話になったみたい」


「でも、縄文時代から生きてた、と思った方がロマンありますね」


「それぞれが信じるものを感じ取っていけばいいの」


そんなことを言って、冬美さんはまたブログ宣伝用の写真を撮るためにヒナっちたちに声をかけてる。


しかし、離れててもこれだけ存在感を感じるんだから、昔みたいに近くに行けたらさぞかしよかっただろうに。


と思ってしまう。

紀元杉よりも存在感あるし。


眺めてるだけで、何か語りかけてきそうな気配を感じるのは、単に自分の中でイメージが膨らんでるだけかしら。

私たちがデッキの上で楽しげに縄文杉を見て、感じていることを喜んでいるような。

そんな気配を感じてしまう。


まぁ、これも自分の気のせいなんだろうけど。



しばらく縄文杉と対面していたら、だんだん人が増えてきたので私たちは昼食を取ることにした。

「まだ11時くらいだけど、いいよね」

と言われ、縄文杉からしばらく移動した先で昼食を食べることに。

竹の皮に包まれたおにぎりとおかずのセットを手渡される


「これも作ったんですか?」


「これは、注文しておくと作ってくれるとこがあって、そこから買ってきたもの」


とはいえ、中身はかなり家庭的なもので美味しく食べてしまった。山の中で食べる飯は美味い。


「時間があるなら、ご飯炊くとかからしたいとこだけど、今日はお茶とデザートで我慢してね」


と言われ、キャンプ用の小さなガスストーブで山の水でお茶を入れてくれる

暖かいお茶が体に染み渡るくらい美味しかった。

何しろ、止まると寒い。標高が1300メートルくらいあるので、そりゃ寒いはず。

ここでライダージャケットがまた役立つ。


人も増えてきたので、私たちはさっさと戻ることに。


「流石に縄文杉にお金置いてく人はいなかったみたいね」


「でも、お金投げてる人はいたかもしれないよ」


などとはるなっちたちは話しているが


「年配の人は、確かにお金投げる人がいるの」


と冬美さんが言う。どこにでもそんな人たちはいるのか。


「縄文杉にはどんなご利益があると思います?」


ヒナっちにそう聞かれ、冬美さんは


「長寿と、見てくれが悪くてもモテモテで人気者になれるとか?」


「なんですかそれ」


なんて話をしつつ、きたみちを引き返していく。

縄文杉

私の心の中では縄文時代から生き抜いた存在として受け取ることにしておこう。


白谷雲水峡に戻ってきてもまだ15時くらいだったので、そこでしばらく苔むした森の中を散策する。


植物や木々の説明もしてくれたり、木陰でゆっくりティータイムができる場所に案内してくれたり。


ガイドの冬美さんがいてくれたおかげで、今回の縄文杉行きはスムーズで楽しいものとなった。


最後にみんなで記念撮影をして、宿に戻ってくる。

17時過ぎには宿に帰りつき、そこで冬美さんと別れることに。


なんだか名残惜しい。

ひなっちはなんか涙ぐんでるし。


「また、屋久島きたときはガイドお願いします」


とか言って手を握ってたりするし。

またご縁があったらきっと会えるかな。


その日の夕食はまた豪華だった。

亀の手がまた出てきたけど問題なく美味しくいただき、またまたいろんな海の幸を美味しくいただいてしまった。

知識がないので、何が出てきてたのかはわからないけれど。


とにかく「美味い」ことだけはわかる。


部屋に戻ってからは、明日の計画になるんだけど


「でも、今日のガイドさんが明日桜があう人の妹だというのが不思議な縁よね」


「でも、明日会う人は40歳で、あの人20代くらいに見えたけど」


「屋久島の水のんでると若く見えるとか?」


「年が離れてるだけかもしれないじゃん」


などとどうでもいい話が盛り上がる。

午前中、ここをチェックアウトしてからは安房へと移動し、そこでロケット打ち上げをみんなで見て。

それから私は東雲さんの家に、他の3人は屋久島フルーツガーデンとか西部林道とか、永田浜とかを制覇するらしい。

屋久島を一周してくるのだとか。

ちょっと羨ましいけど、私は私のやることがあるから仕方ないわね。


東雲さんの住むとこは栗生地区の山の方らしいので、途中までは一緒に行く予定。

そして、今日も寝る前にみんなで話で盛り上がろうかと思ったけど、

お風呂に入った順に倒れていき、結局昨日とおなじパターンでさっさと寝てしまうことになった。


私が今度は早めに目覚ましかけておいて、はるなっちの枕を奪って起こそうかしら。









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