第81話 旅立ち前夜
色々やってたら終業式がやってきた。
早いものである、私がこの学校に来て大体1年くらい経ったということなのだから。
2年の1学期はボッチで友達もいない状態で、私このまま高校生活は寂しいまま終わるのかしら。田舎の排他的な世界で孤立したまま終わるのかしら。
と思っていたけれど、夏休みにバイクの免許を取ってから、世界が一変した。
それでわかったのは、自分が無意識に壁作ってたってことだったし。
バイクを通じて友人ができたり。
東京に行ったり横浜に行ったり。
そして、母のことや父のことがわかってきた。
しかも、母の家とか、父の仕事とか、得体の知れない話も聞くことになろうとは。
あまりにも話がうまく続きすぎてて、謎が一つ見えてくるとその先に新しいものが用意されて、って感じでうまく誘導されてるような気がしないでもない。
ヒナっち曰く「亡くなった両親が糸を引いている」ということなんだろうけど、父の仕事の話とか知ってくると、そんなこともあるのかもしれないと思ってしまう。
そして、今度は屋久島へ。
しかも、仲良くなった先輩や友人たちとロングツーリング。
私の目的は、その父の怪しい話の件なのだけれど、みんなで行くツーリングの方は楽しんでいきたい。
はるなっちは、今回はもちろんCB400SSで、後ろにリアボックスとサイドバッグをつけて積載量を増やしている。ボックスとリアキャリアは中古で買ったらしく、ヘルメットも入るほど大きなボックスは取り外し可能にしてあり、普段はキャリアだけで乗り回せるようになっている。
「リアボックスとかツーリングの時はいいけど、普段乗りだとダサいし」
なんて言っているけど、ヒナっちが乗ってきたBMW310GSの方にはリアとサイドにボックスががっちりくっついていた。
銀色のがっちりした箱がしっかりと取り付けられていて、鍵とかついてるし、取り外しも容易なのだとか。
「フルパニア仕様よ」
とかヒナっち言ってるけど、フルパニアって何?ガンダムとかで聞いたことのあるような単語のような。
ツアラー、旅するバイクはこのように荷物を入れる箱をたくさんつけた仕様が多くあるらしく、以前見かけたBMWの1000cc超えてるバイク乗ってる人たちも、なんか箱がいっぱいついてたのを思い出した。
排気量が小さくても、この手のバイクには箱が標準でつけられてしまうのか。
最初からこれを取り付けられる仕様になっているからカッコよく見えるのね。はるなっちのバイクとか高藤先輩のSRだとボックスつけたらバランスが悪く見えるのは確かにあるけれど。
ヒナっちみたいにサイドバッグをがっちりつけると、そうでもないような気がする。
現に、はるなっちのバイクはパッとみため変ではない。リアのでかいボックスとサイドバッグがバランスよくまとまっているから。
高藤先輩もサイドバッグとリアに大きなバッグを積んで積載を増やしてる。
キャリアに取り付けるのではなくベルトと紐でシートに括り付けてる感じ。
こういうのが「ツーリングしてる」って感じがする取り付け方だわ。
私は、キャリアも何もつけてないので、高藤先輩のやり方を真似するも、サイドバッグをつけるようなバイクでもないので、
プラスチックのコンテナをゴム紐で縛りつけ、その上に長いスポーツバッグを縛りつける。
なので、かなり高層建築的な見かけになり、バランスがとても悪そう。つまり、他の3人に比べて私のはとてもカッコ悪い感じなのだ。
いかにも「積み込みました」という感じで。
「しょうがないんじゃない、色々つけたらサイドバッグもつけられるけど、利便性とか考えるこんなもんよ。CB400スーパーフォアは車重が重いから多少上に重量物が来ても安定してるわよ」
とはるなっちに言われる。試しにその辺運転してみたけど、無茶な運転しないならそんなに抵抗とか感じなかった。
まぁ、二人乗りできるようになってるから、後ろに荷物積んでも人間より軽いわけだしね。
はるなっちの荷物にサンダルがぶら下がっているのは、「島といえば海よ」と海に入るつもりがあるらしい。下阿蘇ビーチみたいなとこがあると思ってるようで。
海亀の産卵で有名な「長田浜」という砂浜があるらしいのでそこに行って使うつもりらしいけれど。
でも、サンダル持ってると宿とかで便利そうなので、私も同じようにリアバッグの外に縛りつけるようにした。
高藤先輩はリアバッグのサイドポケットに、ヒナっちは横のボックスに入れているみたい。おしゃれに収納できるのはいいわね。
そんな感じで、前日からみんな私の家に泊まりにきて準備をしていく。
お互いの積載がずれたりしないか、今回は高速道路を使うので特に入念に調べていく。
私の積み方が一番「不安定」と言われたので、席のとこに板を置いてみたり、ゴムシートを置いてみたりして安定するように工夫していくけれど、こんなことは長距離ツーリングしない限りは考えたことのないものだわ。
ツーリングが決まった際に、インカムを買うかどうかの話が出てきたこともあった。
「運転中に通話できるインカムとか買う?」
「高いし、バイクで走りながらしゃべると運転ミスりそうで怖い」
という意見があり、インカムを購入することはなかった。
私は欲しかったけどなぁ。
経済的な理由もあるといえばあるのだろうし。
そこで、みんなで地図を共有することにして、もしもはぐれた場合は自力で宿までたどり着け、という感じの計画となっている。
一昔前のツーリングな感じね。
バイクに両距離乗る際は、まずタイヤの空気圧。
そして、ネジとかが緩んでないか全体的にチェック。はるなっち、高藤先輩とかはスポークの方も調べてる。
なぜか、我が家にはスポークを締める道具もあったりするし。
レンチ、トルクレンチとかそんなのもある。
空気圧については少し高めに入れておいた方がいいということで、家にあった電動コンプレッサーでみんなのタイヤの空気圧を測りながら入れていく。
チェーンの緩みも一応見ておく。
ツーリングでは各自パンク修理剤を持つようにしていて、スプレーでシューって入れるタイプを持つようにした。
もしパンクしても近くのバイク屋まで走れればいいでしょ、というとこで。
ただし、ヒナっちと高藤先輩はチューブが入ってるのでそれ用のものを用意してるみたい。
バイクの調子はチェックよし。
荷物も、全て積載済み
来ていくジャケットやプロテクター、ヘルメットなどを用意して。
ヘルメットのシールドもしっかり拭いて綺麗にしておく。
あとは、必要なものを入れたリュックを用意して。
みんなでジャケットとヘルメットとバイクをガレージに並べ写真を撮ったりする。
旅する前って感じでとてもいいわ。
人によっては鹿児島まで下道で走る人もいるらしいけど、7時間くらいかかると聞いたことがある。
高速だと3時間かからないのだから、いかに便利かわかるわねぇ。
翌日は朝の5時から移動するので寝るのは早めに、
ということだったけど、布団に入ってから寝るまでに色々話しすぎて寝るのが遅くなっちゃったし。
猿は目を合わせると追ってくるから気をつけた方がいいとか、屋久島の鹿は小さいから可愛いらしいとか。
縄文時代っていつ?とかそんな話が色々と。
しかし、女子が集まっても全く浮いた話が一つも出てこないのどうなのかしら。
年頃の娘として、何か方向性が間違っているのではないか、と思うこともあるけれど。
そんな男女の浮いた話より、バイクでみんなで走ってる方がワクワクするんだからいいんだと思う。
みんなで一緒に走れることが、純粋に嬉しいと感じる。
特に、一年前を思い出すとそう思う。
お母さんの一周忌もすぎたけど、特にそういうイベントは何もなく。
母の身内からの誘いも何もないので、個人的にその日はお母さんの好きなものを用意して過ごしたりして。
「お父さんのことで、屋久島までツーリングに行くことになっちゃった」
そんな話をした時に、写真がちょっと笑ったように見えたのは気のせいかしら。
お母さんやお父さんに見守られて、私は今ここで楽しく過ごすことができてるんだわ。
布団で寝静まったみんなの寝顔を見ながら、そんなことを思ってしまった。
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