第70話 家族写真
家に帰る道中、下阿蘇ビーチの風景とその時に思い出された風景を重ね合わせたりして、色々と考えてしまう。
お母さんはカメラ持ってたと思うから、写真残ってると思うけどなぁ。
はるなっちに「どうも下阿蘇ビーチに来たことがある気がする」と言う話をし、その写真が残ってるかもしれないなんて話をしたら、ノリノリになってしまい、家に帰ってきてからは早速お母さんが撮り溜めた写真で記憶を確認しようと考えるも、膨大すぎてよくわからない。
印刷されてるアルバムはヒナっちが探してくれたけど印刷してるのは一部でほとんどがデータとして保管されてるだけだし。
印刷してるのも、私の小学生からのが中心で、それ以前のは幼稚園とか保育園とかのイベントのものがいくつかと、母と旅した時のものがいくつか。
大体は人に配るために印刷したものを印刷して保管してるだけだし。
写真データ、それが入った複数の携帯用ハードディスクをカメラと一緒にもらったのだけれど、中を見るもデータだけが詰まっててよくわからない。
ハードディスクのケースに「2000年2月以降」とか書いてあるので、私の小さい時のが入ってるのを見つけることはできたのだけれど
日付とサムネのちっちゃい画面だけで目的の写真探すなんて無理だわ。
ヒナっちとはるなっちに「なんかパソコンに便利な機能ないの」と相談すると
「桜はアマプラ入ってるんじゃないの?」
と聞かれる。
南米のアマゾンあたりの熱帯雨林の名前がついた通販サービスサイトのことだ。
送料無料とかビデオとか音楽が聞けるので私は年会費を払って入っている。
田舎で生活すると通信販売が生命線だったりするし。レンタルビデオ店とか半径10km圏内に存在しないし。
「じゃあPhotoサービス使えるでしょ」
と言われ、ちょいちょいとハードディスクを父のパソコンに繋いで、そこからアマプラのフォトサービスに接続し全てのデータをアップロードし始めた
何、そんなものがあったの。
「会員なら容量使い放題だから、ハードディスク1個分くらいすぐよ。500ギガくらいでしょ?」
「これ、昔のだから、200ギガくらいだと思う」
「ここ光回線?」
「一応」
そこでカチカチと何かのサイトを開いてはるなっちが
「早いわね、100こえてんじゃない、ならあっという間よじゃあその間にご飯でも食べてしまいましょ」
と言われ、3人でご飯の用意。海の幸を昼は食べたので夜はカレー。
ナンも売ってたのでナンカレーに季節の野菜サラダを添えて。
「桜の家はいつも野菜買ってるのね」
「美容と健康に野菜は重要」
「サプリ飲めばいいじゃん」
「サプリは騙されてる感じがして信用できない」
などと会話をしつつ。
私は常に、その辺で野菜買って冷蔵庫に入れているけど、単純に生野菜が好きだからというのもあるし。
地元の人が作ったトマトとか物産館で売ってる野菜がとても美味しいから。
白菜も無人販売所でうっかり一つ買ってしまい、煮込んだり酢漬けにしたり鍋にしたりといろいろ工夫して食べてたりもするし
「桜のスタイルの秘密は野菜をたくさん食べるから、なのかしら」
「何その秘密って」
そう言うと、ヒナっちとはるなっちは顔を見合わせて
「オズっちは身長ある上に出るとこでて引っ込んでるとこ引っ込んでんじゃん。
はるなは板だし私は油断するとお母さんの形質が出てすぐ太くなるし」
ヒナっちはそう言って二の腕を捻る。赤毛で外人顔の美人が何をおっしゃるか。
家の中では薪ストーブを燃やしてるので、二人とも薄着になっている。
「板って何よ」
「横から見たらまな板じゃん」
「スリムで華奢なスタイルの方がバイクにはいいのよ」
「軽いと燃費はいいかもだけど」
「私から見ると、ヒナっち、はるなっちの方がスタイル良くて羨ましいけど」
「人は無いものを求めるものよ、私は身長が欲しいし」
「私はも少し胸が欲しい」
ヒナっちとか足が長くて日本人と骨格違うからかっこいいけどなぁ。はるなっちはかわいいけどなぁ。
私は中途半端に背があるから服選びが割と難しかったりするのだけど。
こういうの無い物ねだりになるのかな。
そんな人生にナンの役にも立たない話題で話しているとアマプラにアップロードしてたのが終わったようなので見に行く。
これは私が生まれてから5歳くらいまでの記録だった。
ついでにスマホにアプリも入れてスマホの写真データも上げている、これは顔認証で今の顔があった方が良いからとか言われたから。
私が小さい時、この頃はデジカメも性能が良く無いとか、携帯のカメラもちょっと画質が悪いとかで容量が少ないから枚数はたくさん入ってる。
「さて、これで、ここをこうやってこうやると・・・」
はるなっちがアマプラにログインして、パソコンをいじると、左に「人物」とか「場所」とかが並んでいて、その人物というところクリックする。
すると、顔写真がずらっと並んで出てきた
「なにこれ?」
ヒナっちが驚いたように声をあげる。
「勝手に人工知能が判別して並べてくれるの」
「私もアマプラ入ってるけど写真使ったことなかった」
「この機能便利よ。それに、誰だかわからない人も並んでくるから面白いし」
確かに、画面上に「誰このおじさん」というのが出てきてて、しかも何枚か写っていたりするので。
「そして、この機能の恐ろしいところはね、桜の赤ん坊くらいの顔でも判別するところよ」
そう言って私の今の顔写真が丸く上がってたのをクリックする
と、今の私とはるなっち、ヒナっち、高藤先輩などと並んでる写真がまず目に入って、それを下にスクロールしていくと私と、母と映っている中学生くらいの写真、そして小学生、幼稚園となって、赤ん坊の時の、1歳くらいの時の私などなどがずらっと出てきた
「何これ、人工知能頭良すぎじゃん」
思わずヒナっちがつぶやいてる。今の私の顔と、幼い時の私の顔を同じ人間と認識してるってことだし。
私も技術の進歩に驚いてしまった、いずれ人間は人工知能に支配されるという話も信じられるような気がするわ。
顔認証ってすごいのね。
「そして横みて、お母さんと映ってるのもここから選べるのよ」
そう言いながら、はるなっちが母の小さい顔写真のアイコンをクリックすると、
私と母の写った写真が一気に出てくる。
小さい時の、私も覚えてない時の母がそこに写っていた。
「若い」
「そりゃそうでしょう。20代くらいでしょうから」
でも、若くても母の印象は変わらないのを感じる。
そして
「ほら、ここにあるのはお父さんじゃない?」
はるなっちが示す先に、父の顔らしきアイコンが見える
父と一緒の写真があるってこと?
「それ押して」
つい食い気味に答えてしまう。
「了解」
すると、画面が切り替わり、母と、私と、父の3人が入った写真が数枚出てきた。
知らない女性と母と父と1歳くらいの私の4人で阿蘇山の火口で撮影してたり、同じ3人で食事してたりする風景がいくつか。
この女の人、お母さんにちょっと似てる気がするけど?誰だろう。
それより、3人の写真が存在することを今の今まで知らなかった。母はなぜ教えてくれなかったのだろう。
別に父の存在を無視してたわけではなさそうだけど。
その中に、海の写真が3枚あった。
背景は青い海と白い砂浜。
そして、赤くてヒラヒラのついた水着の4歳くらいの私と、その後ろで楽しそうに笑う父と母。三脚立ててカメラを置いてタイマーで撮影でもしたのか同じアングルで数枚写っている。
「あ、この海岸、さっきの下阿蘇じゃん!」
すぐにヒナっちがそう言う。
そうだ、やっぱり私、一度下阿蘇に行ってた。それもお父さんと一緒に。
下阿蘇の海岸と、今日の海の匂いを思い出してたら、
急にその時の記憶が蘇ってきた。
ボートに引かれ、海と空の境界線をゆっくりと進む。
見える先は水平線と遠くにある島々。見上げると太陽が空の真ん中に輝いてる。
振り返ると砂浜で手を振るお母さんがいて、私も小さいてを振り返す。
海の上をボートがぐんぐん進むのが楽しくてはしゃぐ私。そして、振り返って私を見て笑う父の笑顔。
視界が急にぼやけてしまう
急いでトレーナーの袖で涙を拭うが2人に見られちょっと恥ずかしい。
父との思い出も、あったんだ。
すっかり忘れてた。
そっと隣にいたヒナっちが私の肩を抱き寄せてくれる。
「よかったね」
そう言われてしまうと、もう涙が止まらない。
なんで自分が泣いてるのかもよくわからないけど、とにかく嬉しかった。
はるなっち、ありがとう
恥ずかしいから心の中で言っておくわ。
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