第58話 母の家
お母さんが働き始めたのは、父と離婚してすぐだったようだ。
4歳までは、どうやら父のお金で生活してたらしく、私を保育園に預けられるようになってから勤め始めたらしい。
その当時から、ずっとあの建軍のアパートだったけれど。
「しばらく、バイクで通勤してたからアグレッシブな人だと思ってて、大きなバイク乗ってたものね」
と言われたが、私の記憶には無い。
その時に乗ってたバイクの写真があると見せてもらったけれど、長くてハンドルと足が遠くて、背もたれのついたバイクに乗ってる姿が写っている。
え、こんなの持ってたっけ?
高藤先輩が隣から「これHONDAのスティードよ。今は見かけないけど以前はよく走ってたって聞いたことある」と言われた。HONDAもハーレー作ってたんだ。
「バイクでの通勤は2年くらいで終わって、多分桜さんが小学生に上がるくらいにはカブになってたはず」
と言われ、私の記憶にあるのは、母いつも黄色いカブに乗って通勤してたというもの。
軽自動車とバイク、二つ持っていると何かとお金と場所が取られるから原付に変えたのだとか。
しかし母がもともとバイク乗りというのは意外だった。
しかもハーレーっぽいのに。
私がそう言うと、高藤先輩が
「アメリカンタイプを全部ハーレーとか言うのはプレステもNintendo Switchも全部ファミコンって言ってるようなものよ。
この形はアメリカンって定義があるの」
と教えてくれた。
バイクの形で似たようなのは全部同じな名前で呼んでしまいそう。ちなみに、私のはネイキッドというらしい。
母は東京芸大出身という肩書を持っていたので、会社でもすぐデザインの方で頭角を表し始め、すぐに責任者の地位に着いてしまい、この会社にはなくてはならない人となっていたのだとか。
実は、母は結婚するまではフリーのカメラマンをしていたらしく、撮影からデザインまで全て行ってしまうので、新人が育たないという問題が生じたという話。
先日東京ではバンドの写真撮影とかしてたみたいだから、カメラマン志望だったのかしら?
それとも、経歴を聞かれたときにそう名乗ったのかしら?
会社としては、あの有名人の元妻であるので採用すべきか悩んだのだとか。でも、持ってきた写真の腕と、デザインのセンスを買ったということ。
「あの時は私たちもお金も人もいなくて、田舎の会社にできすぎた人材が来たけどどうしよう、って感じで前の社長ともだいぶ話したものよ」
スキャンダルとかそんな話が来ても困る、と思ったらしい。
田舎から見ると、東京人、有名人の結婚相手なのだから色々妄想が膨らむというものだ。
「それに、二葉さんはね。熊本では知らない人がいないくらいの、名家の出なのよ」
「銘菓?」
「名家、昔からある家で、土地資産を持ち、あの辺のビルとかあの辺のマンションとかの土地と建物を持ってたりする家柄、実家は資産家なの」
あの辺、というのは熊本市内の割と繁華街に近い方。
社長さんは、田舎ではなく市内の駅近くの地名を言っていく。
「そういう家柄の人だから、どうしたもんかと思ったわけよ。
でも、本人が「家とは縁を切ってます」とハッキリ言ってきたので、まぁ採用となったわけなの」
その家については、熊本の経済を裏で握っているとか、そこについて滅多なことを言うと会社が潰されるとかそなん噂が流れるほどだったので、自分の会社が目をつけられることを恐れたのだけれど、
「それよりも、当時は才能ある人が欲しかったからね」
と言って昔を思い出したのか、バイクに乗ってる母の写真を眺めてそっと微笑んだ。
若い時は二人で結構冒険をしたようで、会社を大きくするためにあらゆるところに売り込みをかけて行ったりプレゼンをしたりと忙しく働いていたらしい。
そして、だんだん会社が大きくなってきて、人も入ってくるようになると少しは余裕も出るようになり、より会社の拡大を目指して日本各地に飛んで行ってたのだとか。
私が中学生になるくらいにはたまに数日出張に行ってることがあったように思う。年に数回は私留守番してた記憶あるし。
「おかげで、地方のデザイン事務所だけど今は全国相手に仕事できるようになってて、それもこれも、二葉のおかげなのだけれどね。
本当に、さくらさんのお母さんは、私たちの会社にとっては恩人なの。
だから、あなたが何かあった時や手助けが必要な時は、こんな感じで気軽に声をかけて欲しいのよ。お母さんから受けた恩はあなたに返すから」
などと言われ手を握られてしまったりする。
恩と言われても。
特に思い浮かばないが、母の話をもっと聞きたいのはあるかな。
「今出入りしてる江川くんがいるでしょう?彼は私の大学の後輩だから何か気に入らないことしたら私に教えて、すぐとっちめるから」
と言われてしまい、どうやら江川さんが私の方に来るように仕向けたのはこの社長さんだったらしい。
信頼のおける人物を連れてくることで、少しでも私のためになるようにしたかったとか。
大変ありがたい話だ。
私の知らないところで、母の繋がりでいろんなことが動いていたことを知れてよかった。母の人徳が導いたことといえばそうだけど。
しかし、母の家について思わぬ話を聞いてしまったが、これは調べて行った方がいいのだろうか?
熊本の経済を牛耳る資産家って何?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます