第53話 大晦日

その日は朝から賑やかだった。


12月31日大晦日

夜からみんなで集まる、などと言いながら朝からはるなっちはやってきてガレージでなんか新しいパーツだとかなんだとかを取り付けている。

家族から了承もとっているとかで「一人で寂しいだろうから、行ってあげなさい」と言われたとかなんとか。余程不憫な子だと思われてしまってる感じする。


「今年最後だから、ちゃんと磨いてあげないとね」


なんて言いながら自分のスーパーカブ110を磨くために外に持っていき、

冷たー!

とか言いながら外の水道の水をかけているけど。


「はるなっちは何使って磨いてるの?」


「泡になる窓拭き用洗剤」


「泡になるやつ?」


「水かけて、泡になるスプレーのやつをかけて放置しておくと、結構落ちるのよ。

そのあと、ちゃんと拭いてあげるとばっちり」


そう言いながらガラスクリーナーの泡をかけて、すぐに家に中に戻ってきて薪ストーブで手先と体を炙っている。


「薪ストーブいいわね〜家だと体が濡れたらもう嫌になるけど、これだとすぐぬもるし遠赤外線効果か、いっとき外に出ても寒くないもんね」


だからウチに来て洗車してるとか言ってるけど。

確かに薪ストーブの暖かさは、家の中だけではなくしばらく外に出ても体の中に残るので、ちょっとの時間だったら薄着で外に出たりしてるし。

熊本市内にいた時よりも、冬が過ごしやすいと思うくらい快適。

ただ、薪の用意が面倒なので腕の力が強くなりそう。


泡を流したらまたガレージの中に入れて、布で綺麗に磨いている。


私もスーパーフォア磨いてあげようかしら。


はるなっちからガラスクリーナーを借りて、私も同じようにやってみると、汚れが落ちやすくなって良い感じ。

いつもは中性洗剤つけてスポンジで洗ってたけど、泡だと隙間まで入り込んでくれるから使い勝手がいいものなのね。


そんな感じで、午前中はバイクを磨いたりしてると、午後になってヒナッちと高藤先輩がやってくる。

そして、私たちがバイクを磨いているのをみて洗車する気になって。

同じように、外でガラスクリーナーで洗って家の中でなかで拭きあげる、という感じ。はるなっちが持ってきたのは空っぽになってしまったので今度ホームセンターで買ってこよう。


ピカピカの4台のバイクが並ぶとなかなか壮観。


私のCB400スーパーフォアはラメの入った黒。

はるなっちのスーパーカブ110はクリーム色みたいなベージュみたいな柔らかい色

高藤先輩のSR400は空みたいな青い色

ヒナっちのは、、、そういえば久々に見るけどオレンジと黒のバッタって感じ。


KTM 125 DUKE、という外車らしく顔がなんとかライダーのバイクぽいし。

後ろにのびたナンバーを止めるところがバッタの産卵管みたいだし。


黒いバッタバイクだわ。


でも、海外のモノ特有の存在感があって、奇抜っぽく見えるけれどカッコイイデザインと思えるのは洋物だからという贔屓目なのか。

ヘルメットも色に合わせたオレンジと黒、ジャケットもそれに合わせてて。

それに、乗ってる人間がちょっと赤っぽい髪の毛のハーフ女子なのだから、外車が似合うというものだろう。


お高いのかしら


お値段は聞いてみると、割と普通だった。

私のが一番値段するのね。


しかし、今年の4月からここで生活し始めて。

まさかバイクがガレージに集まってくるなんて思ってもみなかった。


みんな洗車したあとはストーブ前で体をあっためてるけれど、ヒナっちはハーマンミラーの高い椅子を占領している。すっかり気に入ったみたい。


それぞれ、色々と手土産を持ってきてくれて、正月用のおせちとかお餅とか。

あとは


「年越し蕎麦作って、雑煮も作るから」


と高藤先輩が材料持ってきてくれたり。

ヒナっちは横浜から冷凍焼売とかを買ってきたと持ってきてくれたり、冷凍ピザ生地持ってきてくれたり。


急に冷蔵庫がいっぱいになり、江川さんが冷蔵庫に入れてる恵比寿ビールを半分くらい外に出す。

今は外気温のが寒いから外で十分よね。


今日は天気は薄曇り。

雪でもちらつくと気分は出るのだけれど、明日のことを考えると天候はこのまま維持してほしいところ。

九州でも阿蘇は年末年始に雪が積もることがあるから。


天気予報ではこれから少し雨か雪が降るかもしれないけれど、明日は朝から晴れるらしいので、ご来光も眺めに行けるんでは、という話にもなってたり。


「気温もそこまで低くなさそうだから」と高藤先輩は言っているが、阿蘇で「低くなさそう」は地面が凍らない程度の気温を指すので、他所では十分寒いかもしれないけれど。


しばらく荷物置いたりバイク磨いたりして、落ち着いたところで高藤先輩がガレージに並んだバイクの写真を撮るとか言い始めたので、写りのいいように並べ替えてみたり。

ガレージには専用のレールに取り付けられた明るさを調整できる照明があるので、それを調整していい感じにしてみたり。


「割とメジャーなバイクが揃ってる感じでいいわね」


と高藤先輩が言う。

ヒナっちのはともかく、他の3台は阿蘇でもよく見かけるといえばそうかもしれない。

ダラダラしながら、明日の予定を話したり、今日の晩御飯は何にするのかとか、ピザを焼くのはいつにするのかとか、

この先乗ってみたいバイクの話とか、それぞれのバイクの自分が気に入っているとこを話してみたり。


それぞれの趣味とかそんな話にも広がって、お互いのことを今まで以上に知ることができたり。


ただ、ダラダラとした無為な時間が過ぎ去っていく、この感じもいいものよね。

会話内容が女子高生っぽくないけど


夕食は冷凍ピザ生地にお餅乗せたり和風の味わいにしたりして、薪ストーブで焼く。

高藤先輩は初めてだったので楽しそうにピザ焼いてた。

後で年越しそばもあるからちょっと軽い夕食で十分。


そのあとは栗をストーブで焼いて食べたり、銀杏を焼いて食べたり。

高藤先輩が教えてくれた「熊野座神社」がモデルになったアニメとかを見てみたり。

家にテレビはないので、高藤先輩が持ってるタブレットPCで見たけれど結構面白かった。

ニャンコ先生可愛い、とか話してると、高藤先輩はリュックから大きなそのぬいぐるみを取り出してきて。

「熊野座神社行って、これ置いて写真撮りたかったの」

なんて言うが、

「一人でやってると、寂しい人っぽく見られて嫌だから、人と一緒にいる時にやろうと思って」

今回はそちらがメインで初詣はついでなのではないだろうか。


ヒナっちたちも面白がって撮影に協力する、とか言ってるし。高藤先輩がリュックに半分入れた状態で背負ってバイクで走るので、それを後ろから撮影してほしいとか、そんなやり取りが行われていた。YouTubeの動画で使うらしい。


紅白歌合戦が始まるのをラジヲで流し聴きながら、高藤先輩と私は年越しそばの準備。


ヒナっちとはるなっちは蕎麦を食べる準備。

そして、「一応置いとこう」とか言いながら、二人は各自のバイクのシートの上にお餅を重ねておいていく。


「今置くものでもないけど、お供えもち、来年も安全で走れますようにってね」


上に葉みかんを乗せるとそれっぽくなってる。

んか可愛いわね


こたつはないけど、みんなでリビングのテーブル周りに座って、できた蕎麦を啜りながらバイクに乗ったもちを眺め。


「今年はこんな感じに年を越すとか思っても見なかった」


と私が言うと


「それは私も同じ、こんなおしゃれな別荘で過ごせるとか」


高藤先輩がしみじみそんなことを言う。

今年の8月までは存在すら知らない人だったのだけれど、今では私の両親情報を得るために一番働いてくれている人になってしまった。

ありがたい。


「二人が東京に行くとか言ってないなら、私がここにいることもなかったんじゃ?」


「じゃあ私に感謝しなさい」


「はるなはただのオマケだったじゃん」


「あの時ケニーロードで会ってたから、話がトントンと進んだんじゃない、あれは私が桜を練習に連れて行ったからなのよ」


とかはるなっちとヒナっちが話しているが、

そうなった流れを辿ると、私のスーパーフォアに行き着くわけで。

それを買った父が繋いでくれたご縁、と言った感じなのかな。


ホテルで見た夢を思い出した。

母のところにスーパーカブで行くときに、後ろからスーパーフォアで押してくれたのは父だったのではないだろうか?



遠くから除夜の鐘が鳴り始めると、ラジオからは行く年来る年が始まり。


そしてカウントダウンが終わると、


「「あけましておめでとうございます」」


みんなで一斉に挨拶。

このわざとらしい切り替えが、日本人って感じで好き。

昨年は母と過ごしていた時間が、今年は4人、友人と過ごすことになった。

父の存在も近くに感じられるようになったし。

そして、母のこともこれから知っていくことになるけれど、またこの3人にお世話になるんだろうな。

そこにいる3人と、私のスーパーフォアに向かって


「今年も、よろしくお願いします」









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