第37話 女子会?

「思ってたより普通のお風呂ね」


ちょっと赤っぽい髪の毛をタオルでガシガシ拭きながら、タンクトップに短パンという冬にあるまじき姿でバスルームから出てきたヒナっちは、そんなことを言いながら冷凍庫に入れているアイスを漁りにいく。


人の家の風呂をなんだと思っていたのか。


「こんな家だから、てっきり露天岩風呂とか温泉とかなのかな、って思ってたら、普通のユニットバスなのね」


多分、父は海外生活が長いので風呂にあまり重点を置いてなかったのかもしれない。


「この辺は、広いお風呂、露天とか温泉に入りたければ三百円握りしめてその辺の温泉施設に行けばいいから、別荘とかのお風呂は意外と質素なものよ。ホテルだって日帰り入浴だけできるし」


と言いながら、はるなっちはストーブ前で長い髪を乾かしている。先にお風呂から上がって、薪ストーブの遠赤外線で乾かすのだ、と言いながら単にだらっと横になってストーブ前でアイスを食べているだけだったりする。

はるなっちは「あずきバー」ヒナっちは「ハーゲンダッツ」二人ともタンクトップ姿なのは理由がある。

薪ストーブを最初からガンガンに炊きすぎたので家の室温が30度近くになってしまっているから。


二人が我が家に来て、薪ストーブが珍しいからと庭先に落ちてる枝とか葉っぱとか薪とか色々放り込んで、面白がって燃やすから。

おかげで冬だというのに窓全開だったりするし。ストーブの勢いが収まるまでちょっと時間かかりそう。


貴重な薪が勿体無いわ。

薪ストーブはうっかり燃やしすぎるとこういうことになる。でも、普通に燃やしてても室温が20度くらいは常にあるので、家の中ではせいぜいトレーナーを着るくらいで生活できてしまう。

これも遠赤外線の効果なのか。内側から暖まる感じが心地よい。


二人がおふろ入ってから、私が最後に入る。

いや、十分我が家のお風呂も広い方だと思うんだけど。


今日は高藤先輩に経過報告がてら昼休みにちょっと話に行って、今日のお泊まり会の話もしたところ。


「えーいいなぁ、女子高生のパジャマパーティーとかリア充っぽくて。

私は明日模試があるから参加できなくて残念だわ」


高藤先輩もそういうのに憧れがあったのか。

その辺はまた後日、東京から帰ってきたら一緒にしましょうという話で落ち着いて。

東京行きやその事務所の連絡先、場所、担当者などなど詳しく情報を得ることができた。


「東京から戻ってきたら、また詳しく打ち合わせしましょう」


と言われた。

休み明けの来週頭には終業式で、その翌日には東京にいく事になる。23日の早朝の便で飛行機に乗り、羽田空港から目的の目黒まで移動することになるんだけれど。


それについてはヒナっちに任せて。

私たちは何を話すかを準備しておかないといけないわね。


など思いながらゆっくりと湯船に浸かる。

それにしても、我が家がこんなに賑やかになるとは思ってもいなかった。


江川さんたちが来られる時もそれなりに楽しかったけど。同じ世代の友人が来るのとは全く違う感じだ。


リア充っぽい、とは高藤先輩が言ってたけど、私たちはそんな感じなのかなぁ。

一つの趣味で集まっているだけのオタク集団なのではないのかなぁ。

私はそんなにオタクではないけど。



それに、パジャマパーティではなく、タンクトップパーティーになってるし。


風呂のお湯を抜いて、お湯が抜ける間に軽くブラシで掃除をしてからお風呂を出る。一人で生活しているとこんな感じ。


私もタンクトップ姿でお風呂から出て、少し気温が下がっているので窓を閉めていく。その際に二人がストーブ前で何やらバイクの話をしているのが聞こえてくるけど


「ドゥカティの400とかあんたの店にないの?」


「あるけど、スクランプラー寄りで、はるなの趣味に合うのかどうか」


「スクランブラーならいいじゃない」


「でも、期待しているような音じゃないわ」


「私、昔あったモンスター400ssのエンジン音聞いて、いいなぁって思ったんだけど」


とか私にはわからない話をしている、スクランブラーって何かしら。


一階のリビングにはクッションが転がっていて、それぞれ好きな格好で薪ストーブ前で転がっている感じ。

よくストーブ前に猫がいる動画とかあるけど、そんな感じで面白い。


そんなゴロゴロした感じから宿泊先や帰りの便の話になり、レンタルバイクの話へと展開していく。


「初日は京急蒲田駅あたりで宿取っておくといいわよ。そこから翌日横浜まで一本で行けるし」


「横浜のホテルでもいいんじゃないの?」


「意外と、高いとこが多いの。京急蒲田ならビジネスホテルわりとあるから、その辺にしておけば?それとも品川プリンスとか横浜ランドマークタワーとか泊まる?」


「何それ、ランドマークタワーって」


「地上200メートル以上のとこん客室があるの、でも、時期がねぇ。クリスマスイブとかカップルがたくさん部屋取ってるんじゃないかしら」


「あ、クリスマスイブかー」


私たちにそんなイベントは関係ない。

でも、高いホテルというとこに泊まってみたい気もある。

それにこれを逃すと2度といけない気もしないでもないし。


「地上200メートルとか、よくわかんないわね」


「普段標高400メートル越えのとこ住んでるくせに」


「高いとこから街を見下ろすとか経験ないし」


「じゃあ、初日は品川プリンスのメインタワー、翌日はランドマークタワーホテルで部屋探してみようか」


と言って、ヒナっちがささっとトラベルのアプリを開いてなんかしてる。


「あ、思ったより部屋空いてるのね。23日はそんなにお値段高くないから、いっそ100m超えの部屋取ってみる?」


と言われ、はるなっちは頷いてる。


「せっかくなら角部屋取っておくわね。富士山見えるといいわね。

で、問題は横浜と・・・」


そう言ってスクロールしていくと


「あら、わりと空いてるのね」


「でも、さっきのとこの倍するわよ」


「そりゃイブだから、どこのホテルも高くなってるわよ。

ここで安いとこを選ぶか、200メートルの絶景を拝むか」


じっと私の方を見てくる。

ここは、友人のためにもいい部屋を取ってあげるべきか。

そもそも、はるなっちがいなければこんな機会はないのだし。


「わかった、そこを2人前で」


「2人前ってなによ。ダブルとツイン、時期的にダブルは埋まってるわね」


なんて言いながらホテルを確保する。


「よし、これで横浜走り回った後にホテル直行で大丈夫ね」


問題は


「25日に家に帰るとき、横浜から羽田まで私たちは帰れるの?」


と聞いてみると


「横浜駅からリムジンバス出てるし。

普通に京急蒲田まで乗って、そこで乗り換えれば?」


「それがよくわからない」


「後で帰り方も教えてあげるから、安心して」


行きも帰りもお世話にならないと、生きて帰ってくる自信がないわ。



ということで、一通り東京行きの流れが決まったところでレンタルバイクの話になっていく。


横浜にいる理由は、父の兄弟、いわゆる叔父さんが経営しているバイク屋があって、そこに東京行く時は泊まらせてもらっているからだとか。

そのバイク屋はYSPだと言われたところ、はるなっちがあからさまに嫌な顔をする。


「えーヤマハなのー」


「ヤマハのどこが悪いのよ」


「ホンダが良かった」


「たまには違うメーカーのに乗ってみなさい。こういう機会でもないとのらないでしょ」


確かに、自分が買ったバイク以外基本乗らないので。


「125cc以上400cc未満ならなんでもいいかしら?」


「選ばせてくれないのかー」


「お店の都合もあるし。大体ヤマハのバイク興味ないから知らないでしょ」


「そういうあんたはしってるの?」


「SRとかセローとか・・・」


とヒナっちは車名を上げていくが、一つしかわからなかった。SRは確か、高藤先輩のバイクだ。あれは振動が激しくてあまり乗りたいとは思わないけど。


「じゃあレンタルバイクは私が選ぶでいいわね」


「わかった」

「お願いします」


と、こちら二人は答えて、そのあとは何気ないバイクの話とか自分の乗ってるものについての感想とか。

あとはたまにYouTubeで有名な動画とかモトブロガーとか、そんな話題で話してみたり。

はるなっちは可愛いし、ひなっちも綺麗なのだが、多分この性格上男子はついて来れないようで


「男とバイクの話すると引かれるのよね」


とヒナっちはぼやいていた。

バイク好きと言って近づいてくるのはいるけど、自分と会話し始めるとなんかみんな目が泳ぎ出してしまうのだとか。バイク通学してても、そこまでバイク好きはいないようで、スクーターで十分という男子と会話するとイライラするという話とかしてる。ただ、ヨーロッパのバイクの良さと日本のバイクの良さについてそれぞれ語っているだけなのに、とかいうけど。


そんなところが引かれる原因よね。

そういう私も、モテてるわけではないのだけれどまだ普通に男子と話してる方だと思う。


お菓子を食べながら、ゴロゴロしながら旅の話や見知らぬ東京の話などをしつつ。

お互いの連絡先を交換するのだけれど


「オズっちLINEやってないの?」


と言われ、というか2日目で大津っちがオズっちになってんですが。


「ああいうのは好きじゃなくて」


と答える、既読無視とかそういう話題を聞いていると面倒臭いとしか思えず誰からの誘いも断っていたのだ。LINEいじめとかも怖いし。


その点、普通のメッセージで十分じゃないと思うのだけれど。


「ふーん今時セキュリティがどうとか思っているのかしら?まぁいいわ、メッセージでやりとりしても同じだし」


念のためとメールアドレスも交換して。

ゆったりとした時間を過ごしていると、ストーブの火がだんだん熾火になってくる。

室温は高いのでまだ新しい薪を入れなくてもいいけど。


と思って様子を伺うためにストーブの正面の扉を開けると、背後から

「ピザ焼こうよ」

とヒナっちが言ってくる。


「材料ないよ」


「ふふーん家から冷凍ピザ生地持ってきたから。あとチーズとか増量して、適当にバジルでも乗っけてたらオリジナルピザの完成よ」


そう言いながら冷凍庫から丸いピザの生地を2枚取り出してきた。いつの間に持ってきたのか。そもそも学校でどうやって保管してたのだろうか?


「いいわね、焼き立てピザとか美味しそう!

でも、あんた学校から直接きたでしょう、どこにあれ持ってたのよ」


「家庭科室の冷凍庫にこれ入れさせてもらってたのよ。薪ストーブで焼くって言ったらマミーがこれ持っていけって、おすすめのピザ生地よ」


そう言ってバリバリ袋を破って、勝手にキッチンでなんかし始めた。

ピザを焼くには鉄板が必要だし、ストーブの中に鉄の足場を入れないと焦げつくので、それを用意したり。

そのあとは賑やかなピザパーティとなって。

「寝る前に食べると太るかしら」

なんて言いながら、みんなぺろっと食べてしまう。


いざ寝るときになって、今まではるなっちが来る時は、ベッドが広いので一緒に寝てたりしたけれど。

流石に3人は狭いだろうと思ったら、


「いいじゃない、私も一緒に寝る」


と言ってヒナっちも入ってきた。

二人ともスリムだから割とベッド3人寝てもゆとりがあったりする。

おかげで、寝るまでみんなで話が尽きることはなかったわ。

こういうのがパジャマパーティーっていうのかしら。


寝るときは、流石に薪ストーブの火も消えて家が冷えるのでトレーナーを着込んで寝てもらうことにした。


電気を消すと、ストーブの上で沸くヤカンかの音だけが家の中に響いている。




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