第32話 再びHONDAのお店へ

はるなっちとともに、あのHONDAのお店へとやってきた。

もうめっきり寒くなってしまい、防寒着を身につけないことには外を走れないくらいになってきてる。


厚着をしてもこもこになった状態でお店に行くのはちょっと気が引けたけど、はるなっちも同じようなもんだから大丈夫か。


お店に着くと、すぐにはるなっちのスーパーカブが預けられ、お店の中に案内される。

暖房が効いた店内はホッとする。


あの頭のちょっと薄くなりかけてる茂木さんがニコニコしながら姿を見せてきた。手には温かいお茶をいれた紙コップを持っている。


「バイクの調子はどうです?」


と私に聞いてくるので、おかげさまで、とか答えてお茶を受け取る。

はるなっちも軽くバイクの話をしてから、


「今日は、ちょっと茂木さんに聞きたいことあって、桜といっしょに来たんだけど」


と本題を振ってくれた。


「なんです?私に答えられることなら」


「そう、あのスーパーフォア買った春間さんについて、ちょっと詳しく知りたいのよ」


「ああ、春間さんですか。最初来られた時はびっくりしましたよ。

あ、有名人が来た、とかで店の方が少しざわついてましたから。そして、探してるバイクについて聞かれたんですよ」


という感じで、茂木さんは話し始めてくれた。


父が店にやって来た時、本人はゴールドウイングの新型が出た、というのでそれを見に来たのだと言われて。

アメリカで買うかもしれないが、現物をまず見てみたいという話をしたのだとか。

そこで茂木さんが対応して、ゴールドウイングについてエンジンかけてみたり仕組みを説明したりと色々対応してたらしい。


「ゴールドウイングって?」


はるなっちに聞くと、呆れたような顔をされて


「HONDAのフラッグシップよ。1800ccの水平対向エンジン積んでるおっきなバイク。ほらあそこにあるやつ」


あ、あれにサイドカーつけて、大きな犬乗っけてる人見たことある。

たまに音楽とか鳴らしながら走っているのも見たことあるけど、あれ日本のバイクだったんだ。


「でも、1800ccとか車買った方がいいんじゃないの?」


「・・・そんな人はこの店に来ない」


そんなやりとりを面白そうに茂木さんが見ていて


「二輪車で大排気量のバイク、というのはいろんな意味で満足度が高いんですよ。走りも楽ですし。阿蘇とか真っ直ぐな道を走るにはとても良いです」


お値段は300万とかするらしいけど、

だったら車買ったほうが、ってやっぱり思う。

バイクだったら400ccあれば十分だと思うんだけど。


私の感想は今回関係はなく、父はこのお高いバイクをサッと買おうとおもうくらいのお金を持っているということでもあるのだ。

お金持ちはなんでも贅沢にしてしまうのね。


そこで一通りゴールドウイングの説明を聞いた後、父は


「教習所で乗っていたバイクが欲しいと聞いて来られて」


と茂木さんが言う。大型免許だったら、NC750で、中型免許だったらCB400スーパーフォア、だと教えて現物を見せたらしい。


「NC750って?」


茂木さんがちょっと席を離した時に、はるなっちに聞いてみると、また呆れたような顔をされて


「今は売ってないけど、大型バイクの教習車として出回ってるやつ。この系列は大型バイクのスーパーカブって言われるくらい使いやすいって評判なのよ。DCTついてるモデルなんか、ほんとカブとおなじクラッチいらずなんだから」


「DCTって?」


「・・・バイクのオートマよ」


なるほど。

今の世界はそんなに技術が進んでいたのね。


「スーパーフォアには・・・」


「ないわよ」


先に言われてしまった。スーパーフォアをオートマにしても欲しい人いないでしょう。とも言われてしまう。でもあると便利そうだけれどなぁ。


「だったらADV150にでも乗ってたらいいのよ」


と言われて、目の前にある大きなスクーターを顎で示された。

車高の高いスクーターって感じでごつい。私の趣味じゃないなぁ。


そんなバイクの話をしてると茂木さんが戻ってきた。


「結局、春間さんは中型免許を取る時に乗ってたスーパーフォアを探しててね。

ゴールドウィングは契約してくれなかったけど、サッとその場でスーパーフォアは契約してくれたんですよ」


「理由は聞けました?」


「自分の知人のために買う、みたいなことを言ってて。あとは熊本に戻って来たときに自分が乗るためとも言ってましたね。ゴールドウイングだと大きすぎて扱いに困るけど、このサイズなら小回りが効くから便利だとも」


「400ccが小回りが効く?」


思わず声に出してしまうと


「本人はゴールドウィングと比べている話ですから、大型バイク乗っている人がセカンドバイクにスーフォア乗ってる人結構いるんですよ。

だから私たちもなんの不識にも思いませんでした」


私から見たらその組み合わせがよくわからない。大型バイクとスーパカブとか、さっきのスクーターみたいなやつとかならわかるけど。


「その知人のため、ってのはどんなことか言ってました?」


「今の状況を見ると、私が思うに娘さんか奥様に乗って欲しいと思ったんではないですか?」


「私か母に?」


「ええ、知人って言う前に妻と、って言ったの覚えてますから。

奥様と関係が続いていたんだ、と私は思ったので頭に残ってます。離婚されたはずでしたからね」


お母さんバイクの免許とか持ってたかしら?


「ですから、娘さんがこのバイクに乗って、前回こちらへ来てくれたじゃないですか。私はちょとジーンと来ましてね。

春間さんの思いが通じたのかなと。

スーフォア買われる時も、初心者は運転しやすいのかとか、160センチあれば足は届くのかとか、細かく聞かれましたし」


そう言って茂木さんはその時のことを思い出しているのか遠い目をしてたりする。


「その後、何度か整備に来られてますから3年は本人が乗ってることになります。

その間にも色々と話を聞いてましたが、

それに、足元にガードついているでしょう?あれは最初の車検の時に、このバイクにこれから初心者が乗るかもしれない。初心者が乗る時につけておいた方がいいものをつけて欲しいと言われたので取り付けたんです。

だから、奥様よりは娘に乗って欲しかったのかと私が勝手に思っていたんですけど」


茂木さんはそう言って笑っている。


でも、私がバイクに乗ることをお父さんが予定に入れていたのかどうかわからないし。

それにしては、私はお父さんと一緒に生活する話なんか聞いたこともなかったし。

この辺は茂木さんが自分の境遇に合わせて想像してしまい、勝手に都合のいい物語を考えてしまっただけではないかしら?


結局、お父さんが何を目的にしてスーパーフォアを買ったのかはわからなかったけれど


「茂木さんの言ってたことを、とりあえずそう思ってたらいいんじゃない?」


と、帰り際にはるなっちが言ってくれた。

確かに、そのほうがお父さんを身近に感じられていいとおもう。


後で全く違う話が出てきても、それはそれでまた考えればいいわ。








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