第38話 応酬

「俺のターン! ドロー!」


 山札から一枚引いて自分のターンを迎える。

 敬虔なる信者は出来る限り早い所手を打ちたいところだが……俺のデッキに1魔力で対処できるカードは入ってない。

 それなら……


「魔力をチャージ。魔力1で『規律正しき見張り』を召喚する!」


 規律正しき見張りはパワー2体力1のクリーチャー。ひとまず敵の攻撃を防ぐ壁になってもらおう。

 まだだ。仕掛けるのは数ターン後だ!

 リーゼッテの表情からは何も読み取れない。案外ポーカーフェイスだ。


「では私のターンですわ。ドロー」


 手札を一枚引いたリーゼッテが笑みを浮かべる。なんだ? 何か切り札を引いたのか?

 しかしこのリーゼッテという女。最初に軽く言葉を交わした時は神に使える純粋な信徒、といった印象だったのだが

 こうやってテーブルを挟んで見ると今度は腹に一物抱えた曲者にも見える。どちらが本当の彼女なのだろうか


「魔力をチャージ。魔力2で魔法カード治癒術キュアウーンズを使います。体力を3回復して一枚ドローです」

「なるほど。これで敬虔なる信者のパワーと体力が上がって今は2/2(パワー/体力)か」

「ええ。そして攻撃は……しません。今攻撃するとそちらの見張りさんと相打ちになってしまいますし勿体ないですからね」

「そりゃ残念だ」

「ターンエンドです」


 うーん。相手の2/2の信者に対してこちらの2/1の見張りをぶつければこちらのパワーと相手の体力がお互い2なので相打ちに取れたのだが

 流石に攻撃してきてくれないか。どうすっぺかな……ひとまずドローしてから考えるか!


「俺のターン。ドロー」


 ん? このカードは……うまくいけば主導権を握ることができるかもしれない。


「魔力をチャージ。あとは……何もない。攻撃もなしだ。ターンエンド」

「ちょうどいい手札が来なかったのですか?」

「カードゲームってのはこういうこともあるから面白いのさ」

「それは確かに同感ではありますが……」


 怪訝な顔を浮かべるリーゼッテ。さあどう出る? あえて動かなかったのはお前の腕前を試す試金石だ。

 見させてもらうぞ。


「では私のターン。魔力をチャージ。魔力2でもう一回治癒術を使いますわ。3回復で総ライフは26。信者は3/3です」

「やはりもっていたか。信者を強化できる回復魔法を」

「ええ。これでパワー2の見張りにブロックされても信者は生き残ります! では信者でアタック!」

「それを……待っていた!」

「!?」


 パワー2のクリーチャーと相打ちにならないで済む体力3になれば攻撃すると思っていたぞリーゼッテ!


「俺は魔力2、即時魔法『スクランブル招集』を使用!」

「なっ!?」


 動揺からか口元を抑えるリーゼッテ。

 即時魔法。魔力さえあれば相手のターン中にも使うことのできる魔法カードの一種だ。

 スクランブル招集の効果、それはターン終了まで自分のクリーチャーのパワーを1体力を3プラスすることのできる効果だ。


「これで俺の見張りは3/4(パワー/攻撃力)だ。お前の信者をブロックだ!」

「クッ……信者のステータスは3/3……信者だけが破壊されます……」

「よしっ!」

「なるほど……スクランブル招集を使う為にさっきのターンは何も動かなかったのですね」

「ああ。あとはお前の信者が3/3になって仕掛けてくるのを待てばいいだけだった」

「アイザック様やりますわね。でもこれはまだ緒戦。勝負はこれからです!」

「ああこい!」


 信者を失ってもリーゼッテの戦意は一向にくじけていないようだった。なるほど。強いな。

 

「俺のターン。ドロー!」


 クレリックデッキはどちらかといえば終盤尻上がりに強くなっていくデッキだ。なるべく早く決着をつけるべきだ!


「魔力チャージ! 魔力3で装備魔法『名工が鍛えし剣』を見張りに装備!」

「装備魔法……!」

「このカードを装備したクリーチャーはパワーがプラス3される! そして規律正しき見張りの能力! このカードが他のカードを装備した場合ニ回攻撃が可能になる!」

「なっ!? それでは……!」

「パワー5の二回攻撃だ!ダメージを10受けてもらうぞ!」

「クッ!!」


 よし! うまいこと見張りのアタックが決まったぞ! これでリーゼッテのライフは残り13! 次に10ダメージで残り3。そして次のターンでリーサル《とどめ》に持っていける! 

 今更信者を出した所でパワーを上げきる前にこちらの見張りで押し込めるはずだ!


「これでターンエンドだ!」

 俺は勝利を確信した。規律正しき見張りに名工が鍛えし剣を装備させるのは俺の定石必勝パターンだからだ。

 3ターン目にパワー5で二段攻撃のクリーチャーを出されては手も打てまい!


「は~。アイザックの旦那強いですねえ。俺こんなの出されたら何もできませんよ」

「いやあいやあ。そんな褒めるなよデュランス。ハッハッハ」


 満更でもないがな! これが将来ゴールドドラゴンクラスになることを確約された男の実力ってやつだ! ワッハッハ!


「ええ。デュランスの言う通りとってもお強いですのねアイザック様」

「気を落とすこともない。都合よくいいカードが手札にきただけでいつもこんな動けるわけじゃない」

「それでもお強いですわ。見張りに剣。どちらも素晴らしいカードです」

「本来は”繋ぎ”のカードなんだがな、うまいこと行けばそのまま試合を終わらせることも出来るフィニッシャーも兼任できるのがありがたい」

「ええ。素晴らしいカードです。ですから……」

「ん……?」


 出会った時は太陽のような目をしていたリーゼッテ。決闘を申し込んだ時は炎のような目をしていたリーゼッテ。

 そんな彼女の目の色が更に変わった。冷たい、冷たい氷のような目をしていた。


「頂きますね。魔力チャージ。魔力4で『心を盗む女盗賊』を召喚!」

「…………えっ?」


 俺はリーゼッテのクリーチャーをポカンと見つめる。

 太ももが露わになった過激な服装で均整の取れたボディラインをした女のイラストだ。

 女は扇情的な表情で手に持ったダガーに舌を這わせている。

 なんて素晴らしい格好のクレリックなんだ。こんな格好のクレリックいたら俺出家しちゃうよ。うん。

 心を盗む女盗賊……? ちょっとまて……心を盗む女盗賊だと!?

 クレリックじゃねえじゃねえか!!

 やばいやばいやばい!よりによって心を盗む女盗賊だと!?

 このクリーチャーはやばい! 俺のデッキにぶっ刺さっている!!


「リーゼッテ……お前のデッキ……クレリックデッキじゃなかったのか!?」

「はい。クレリックがクレリックじゃないデッキを使えるのもデュエル&ドラゴンズの素晴らしい所ですから」


 再び太陽のような目を浮かべてにこやかに笑うリーゼッテ。

 こいつ……猫被ってやがった!!

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