【元英雄の成り上がり】 ~仲間に裏切られたけど【合成】スキルを使って『精霊美少女』を拾って『豪邸』を買って『迷宮無双』してます~

サナギ雄也

第一部

第1話  【合成】使いの少年

*まえがき*

第一話は少し長めになります。


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「――おっしゃ、五体の魔物の討伐を達成!」

「皆、ご苦労だったな! お疲れさま」

「ねえ、さっきの連撃、良くなかった? 凄かったよね!」

「あー、疲れた。帰って美味い酒でも飲みてぇ」


 岩に囲まれた広大な《迷宮》の中、魔物を討伐したパーティの面々が大きく手をかざす。

 互いに労い、勝利の喜びを分かち合っていく《探索者》たち。

 命がけの戦いを生業にする彼らにとって、この瞬間が最も心地良い時だ。


「リゲルもご苦労さん。《強化》の魔術、タイミング良かったぜ」

「ありがとう、僕も皆の役立てて良かった。この戦果は皆の連携あってこそだ」

「そうかい? お前も良かったぜ。魔術の援護、今日も良かった。とてもランク『青銅ブロンズ』とは思えねえ」


 リゲルは思わず苦笑した。


「あはは、僕は取り柄がこれだけだから。皆に役立つためにこの程度は」

「ふふ、謙虚だねぇ。ま、何にせよ助かったぜ」


 リーダーの青年の言葉に、柔和にリゲルは頬を緩めた。

 探索者としてのリゲルの位階は、今は高くない。

 《探索者》とは、迷宮に入り、魔物を討伐する戦士のことだ。


 『剣士』、『魔術師』、『武闘家』、『回復術師』、『シーフ』……様々な『クラス』が存在する。 

 その強さ――『位階』は大きく六つに分けられる


 『カッパー』、『青銅ブロンズ』、『シルバー』、『黒銀ブラックシルバー』、『黄金ゴールド』、『白銀プラチナ』。


 そのうち、リゲルは下から二番目、『青銅ブロンズ』となっている。

 つまり、初級者ではないが、中級者には足りない。

 戦闘力も高くはなく、簡単な技しか使えない。

 短剣技の他、単体回復や付与・強化の魔術がいくつか使える程度だ。

 能力も補助に秀でているため、決して単独で魔物と戦う事は出来ない。


 ――というのが、『表向き』の話。


 実際は、ランク五、『黄金ゴールド』以上の実力はある。

 それに戦闘に関しても、《魔石》を駆使し、上位者並みの戦闘も可能。


 その気になれば、最高位の『竜種』とすら渡り合えるだろう。


 ただ、あまりに急激な活躍は、周りの嫉妬ややっかみを呼び起こす要因になる。そのため、あえて低級者を装っているのだ。


 日頃からいくつもの集団パーティに入り混じり、戦闘の補助をする。

 それが今のリゲルの日常だった。

 

「よし、皆、魔石と素材の回収をするぞ!」


 リーダーの青年が宣言する。

 倒したばかりの五体の《ロックリザード》の死骸、その体を漁り、『素材』を獲得していく。


 『素材』――魔物の部位を売るのが《探索者》の主な収入源となる。


 鋼以上に硬い《ロックリザード》の鱗や牙はそこそこ高価だ。

 十個も集めて店で売れば銅貨一枚以上はする。


 硬貨の価値は、銅貨一枚でおおよそリンゴ一個分の価値。

 銀貨は一枚でその十倍の価値。金貨はさらにその十倍。

 つまり銅貨では八十枚、銀貨では八枚、金貨では0・8枚分集めれば、日当としては十分だ。


「うーん、何か無事な箇所が少なくない?」

「やばいな、魔石もだよ。うわ、中央から粉砕してる」

「うむ……倒すことに熱中して、精密性を怠ったか。……仕方ない、とにかく素材は確保する」


 素材や核となる『魔石』は完全に近ければ近いほど高値が付く。

 磨けば装飾品として映え、武器にはめ込めば、『魔術具』として利用が可能。


 けれどその反面、脆い特質がある。

 今回もほとんどが全壊、または半壊していた。無事な部分を探す方が難しい。


「うう、魔石が粉々なのは痛いよなぁ」

「ほんと。素材になる爪が二本で、牙が三本……ん~、あとはいまいちかな?」

「そうね。尻尾の方の鱗、少し剥がせばいいのがあるよー」


 リゲルも短剣を取り出し、一枚の無事な鱗を剥ぎ取っていく。

 それなりに良質で形も良い。最低限の収入にはなる。

 ひとしきり作業が終わると、リーダーの青年が叫んだ。


「皆、ご苦労! 占めて銀貨一枚分といったところか? 魔石は……駄目だな。あれでは銅貨一枚にもなるまい」


 残念そうに言うリーダーに、仲間たちが苦笑する。

 

「まあ贅沢言っても仕方ないよ。塵も積もればなんとやらさ」

「次に期待期待! さ、帰って酒飲もう」

「……そうだな。よし、今日はこれまでだ。二十二階層まで来れば十分。皆、今日は帰ってゆっくりするといい」


 口々に帰り支度を始める面々。

 そんな中、一人の少年だけがまだ魔物を漁っている。


「あれ? リゲル、魔石の欠片、拾っていくの?」

「……ああ、うん。知り合いに宝石商がいるから。こんなものでも、百個分くらいあれば銅貨一枚と交換してくれるから」

「あはは、涙ぐましいねえ」


 パーティの面々は笑いを浮かべた。

 それは、子供がささやかな玩具をいじるのを見守るような、格下を見るものだった。


「いつもご苦労だよね。まあ、魔石って綺麗だしね」

「そうそう、高く売れる場合もあるし、無駄とは言わないよ」


 『魔石』は、魔石商に売ればそれなりの値はつく。


 とは言え、それにしてもリゲルのように数十個は拾わないし、毎回とはいかない。

 かさばるし、涙ぐまし過ぎる。浮浪者のゴミ漁りとまでは言わないが、普通は『魔石の欠片は捨てておくもの』、それが探索者において常識となっていた。

 

 だから青銅ランクのリゲルの行動に、パーティの面々は苦笑していた。


「ま、いずれ努力は実を結ぶさ」

「そうそう。さ、リゲルの作業が終わったら帰ろう。帰還時も用心は怠らないように」

「りょうかーい」


 微笑ましいものでも見たかのように語る彼ら。

 けれど、リゲルはそんな事は気にしない。


 『こんなもの』でも、彼にとっては十分に価値があるのだから。


†   †


「それじゃあ、皆明日も頼むぞ!」

「はいリーダー。今日は寝坊すんじゃねえぞ、ローダ、ウィゲス!」

「判ってるよバックス、お前もな。――じゃあな、リゲル、明日もな」

「ああ、うん。また明日」


 笑顔で皆と別れ、しばらくその場で手を振るリゲル。

 数分たち、誰も見ていないことを確認すると路地裏に引っ込む。

 そして人の気配がないか周囲を見渡し、確認を行う。


「誰もいないかな?」


 先程拾った《ロックリザード》の魔石、その破片数十個に加え、いくつか魔石半欠けを、荷物袋から出していく。


「さて、今日もやるか。――[道化の家来が神へ祈りを捧げましょう。無価値を宝石に、塵を黄金に。再生の光よ我が元へ!]――『リユニオン』」


 瞬間、狐色をしたほの明るい光が、彼の集めた不完全な魔石を包み込んでいく。

 螺旋上に光、眩い渦を巻く光。

 小さな陽光のような圧縮された魔力の塊――それがやがてリゲルの手元へ集中し、凝縮する。

 そして形を成したのは――凝縮された真紅の石だった。


 すなわち――完全な【魔石】だ。


 その光景を見た者がいたなら、驚愕しただろう。

 なにせクズ同然の魔石の欠片が、傷一つない『完全体』に変化したのだ。

 ルビーのように澄んだ赤色。陽光を反射し煌びやかに光る石。完璧な魔石。

 集めた欠片が『ランク一』や『ランク二』――つまり低級ばかりだったのに対し、出来たのは『ランク三』。


 金貨にして四枚分の価値。常識的に、あり得ない光景がそこにあった。


「――今回も成功だ。この調子で頑張ろう」


 軽く微笑み、懐の荷物袋にしまうリゲル。

 それが、彼の強み。

 彼は『クズ』のような魔石の欠片すら『完全体』にすることの出来る『スキル』を持っていた。

 

†   †


 ――地上で、【終焉の災厄】と呼ばれる脅威が猛威を振るわれてから、数千年後。

 人々は世界各地の地下に広がる《迷宮》に潜り込み、生活を営んでいた。

 ある者は《探索者》として広大な《迷宮》内で魔物を狩り生活して。

 ある者は商人や鍛冶などに携わり探索者を支えて。


 《迷宮》と《探索者》――それらは世界中の人々にとって、切っても切れない関係となっていた。


「へい、らっっしゃいらっしゃい! 氷剣ヒエルダの入荷! 切れ味、重量、氷竜の鱗を使った高位剣が、今なら特価!」」

「魔石買取り店、《赤剣の調べ》へようこそ! 各種の魔石、魔術具、取り扱っております。是非当店へ!」

「《ウッドゴーレム》の体を利用した大盾が入荷致しました! 兄さんどう? 今なら金貨四十枚だよ!」

「名工ランスダーの造った霊剣エリュエーサです。中央広場にてオークション中!」


 王国最大級の都市、『ギエルダ』では今日も市場が盛況だった。

 長剣や長マント、鋼の鎧をまとった騎士。装飾華美な杖を持つ魔道士が歩いている。

 ある者は一段上の武具を買い求め、ある者は値段値切りの交渉に余念がない。


 様々な探索者で溢れかえる大通りで、リゲルは周囲に目もくれず歩き続ける。

 行き先は大通りの裏路地。くたびれた通路の、その奥にある換金屋。古びた鷲の印章のある扉を押し開け、リゲルは店内へと入る。


「へいらっしゃい! ――おっと、初めてのお客さんかい? 今日は何の用ですかい?」

「すみません、魔石を買ってくれますか? ランクは『四』、完全な品です」


 店主の壮年は思わず唸る。


「ほう? なかなかいい品だ。傷や破損箇所が全くない。お客さん、なかなか上等な探索者らしいね?」

「はは、まあ、慣れた狩り場だったので」


 もちろん嘘だ。実際は元々『ランク一』――最底辺の魔石を【合成】し、それを『ランク四』にまで跳ね上げたのである。

 【合成】したと判明すれば面倒だが、この程度の会話で判る者はいない。


「『ランク四』か……それなら金貨十枚と銀貨五枚でどうだい?」

「うーん、もう少し色を付けてくれませんか? それなりに苦労して手に入れた物ですから」


 一般の相場では、『ランク四』は金貨十枚と銀貨八枚が妥当。やや安い値段を提示され、リゲルは笑顔で交渉する。


「出来れば金貨十枚と銀貨八枚が望ましいのですが。武器をつけてくれても構いません」


 店主は髭を何秒か撫で、軽く唸った。


「うーん……はは、うちは見れば判るが、貧乏店でねぇ……これ以上はちょっとなぁ」

「そうですか。ではいらない魔石の欠片をください。それでも結構です」

「……え、いいのかい? こんなクズを?」

「塵も積もればと言うでしょう? 僕としてはそれでも有り難いです」

「そうかい……? 判った。悪いねぇ」


 リゲルは柔和に微笑んだ。


「いえ、それでも役に立ちますので。僕としては問題ありません」

「そうか。そこまで言うのなら……そうだな、ランク一の『半欠け』を十六個……それと、ランク一の『六欠け』を二十個、おまけしよう」

「ありがとうございます」


 リゲルは心の底から嬉しそうな顔をした。


 『半欠け』とは、魔石の『半分』が欠けてしまった粗悪品のことだ。

 それでも価値がないわけではないが、完全品と比べると価値が半減以下になる。


 そして店主が言った『六欠け』とは、全体の六割までが欠けてしまった不完全品。

 つまり『ランク一』の半欠けなら、値段は通常の十分の一。銅貨一枚分にまで減ってしまう。


 けれどリゲルは柔らかく笑んだ。


「助かりました、それでお願いします」

「まいど、次もご贔屓にな」


 店主に笑顔で礼を言って、リゲルは路地裏へ出る。

 そして路地裏へと入り、先程の魔石と、残っていた魔石いくつかをばら撒いていく。


「さて収穫は上々。今回もいくか」


 念の為周囲の気配を探った後、目を瞑る。

 活眼し、詠唱の開始。

  

「――[道化の家来が神へ祈りを捧げましょう。無価値を宝石に、塵を黄金に。再生の光よ我が元へ!]――『リユニオン』」


 ほぐれた糸のように細い輝く光となり、淡い光が路地裏に漏れて拡散する。


 美麗な光の粒子が幻想的な光景を刹那、醸し出す。

 そうして現れたのは――『ランク一』、完全な魔石だ。

 傷も、歪みも、曇り一つない、完璧な出来上がり。


「うん、無事に合成完了。手抜かりはないな」


 続けてリゲルは、腰袋から四つの『魔石』を取り出す。

 

「――[塵芥に意味ある輝きを。黒き破片よ、醜き破片よ、昇華し、紅き結晶となれ!] ――『ハイリユニオン』」


 光が、拡散する輝きが。さらなる領域へ踏み込むための、構成変質の輝きが、リゲルの手のひらの中で踊っていく。


 光が消えて現れたのは――『ランク三』の魔石。

 先程より一段も二段も輝かしいそれは、商店では『金貨四枚』で取引される、高価な代物。


「――まだ終わらない、続けよう」


 さらにリゲルは、荷物袋から多数の魔石を取り出す。

 《オーク》、《ゴブリン》、《ホブウルフ》、《ハーピー》、《グール》、《スケルトン》、《マタンゴ》、《リトルドレイク》、《パラライズビー》、《ブラックドッグ》、《ドライアド》、《オーガ》、《レイスソード》、《ハイドスネーク》、《グレムリン》、《リトルアーミー》、《リザードマン》、《サハギン》、《ロックリザード》――以前に倒した、数々の魔物たちの『魔石』の欠片、それらを全てばら撒き、リゲルは詠唱し、【合成】していく。


「――[塵芥に意味ある輝きを。黒き破片よ、醜き破片よ、昇華し、紅き結晶となれ!] ――『ハイリユニオン』!」


 煌びやかで美しい、眩い光が溢れ、乱舞する。

 目も眩む程の光量が収まったとき、現れたのは――。


 『ランク一』の魔石が九個。

 さらに『ランク二』の魔石が六個。

 さらに『ランク三』の魔石が三個。

 さらに『ランク四』の魔石が二個。

 いずれも完全な『魔石』だ。淀みのない、宝石じみた光沢がいくつもリゲルの手の中で存在感を放っている。


「ふふ」


 そしてさらにリゲルは詠唱を続ける。


「――[道化神への祈りを捧げます。価値ある宝石を、価値ある黄金を、再生を超えし昇華の域に誘う光よ、我が元へ!] ――『ハイエンドリユニオン』!」


 上位の魔術詠唱を叫び、リゲルは《ロックリザード》を使った魔石と、今作った二十個の魔石を【合成】した。


 完成したのは――『ランク五』の完全な魔石だった。


 それはこれまでの魔石と段違い。『金貨八十枚』は下らない、高級な魔石の完成である。


「うん、これも成功! いいね、この調子でいこう。次はランク六だ」


 リゲルは満足そうに語る。

 これこそが彼のスキルの真髄。

 例え、それが八欠け(八割が破損)だろうと、九欠け(九割が破損)だろうと、魔石の欠片であるならばいかなるものでも合成し、完全体へ昇格させる。

 それこそが【合成】スキル。リゲルだけが持つ――超常のスキルだった。



†   †



 ――通常、魔石は大まかに分けて『十のランク』に分けられる。


 『ランク一』――最下級品。主に《オーク》や《ゴブリン》など低級の魔物から取れる。中堅の《探索者》なら採取可能。

 『ランク二』――下級品。迷宮の低層で稀に取れる。難しいが中堅の探索者なら採取可能。

 『ランク三』――中級品。《幻惑》や《強化》など、便利な物が多数。

 『ランク四』――中級品。『準一流』の探索者の武具に埋め込まれている。ベテランの探索者でも採取は難しい。

 『ランク五』――中級品。オークションで取り扱われるほどの高級品。専門の『採取パーティ』ですら採取は厳しい。

 『ランク六』――上級品。『一流』の探索者以上でなければ、手にする事はほぼ不可能。

 『ランク七』――上級品一部の『貴族』や、『商人』、『一流』の探索者のみが持てる希少魔石。

 『ランク八』――上級品。『王侯貴族』や『ギルド』の【家宝】にされる程の希少品。

 『ランク九』――準最高級品。都市を破壊するほどの強大な『力』を秘め、一流探索者でも手にすることはまず叶わない。

 『ランク十』――最高峰。伝説の『英雄』や『大賢者』のみが採取可能な、超々希少魔石。歴史上、発見は数個のみ。



 ――それら、全ての『魔石』を創り得るスキル。

 それこそが【合成】、リゲルのみが使える、最高のスキルだった。


 

【リゲル 十八歳  探索者 レベル20

 探索者ランク:『青銅ブロンズ』 

 クラス:付与術師エンチャンター

 体力:274  魔力:261  頑強:213

 腕力:214  俊敏:201  知性:286

 特技:『短剣技Lv3』 『投擲術Lv4』 

 魔術:『付与魔術Lv3』 『補助魔術Lv3』 『回復魔術Lv3』

 装備:『スチールナイフ』×10

    『レザーシリーズ一式』

 スキル:『合成Lv1』

(あらゆる魔石、もしくは魔石の欠片を【合成】することが出来る)】



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