第6話 カップル狩り
カップル狩り……どうやら俺とリーサはこのモヒカンの悪漢達にカップルと間違えられたようだ。これは困ったな。平穏に生きていたいのにこんな絡まれ方するなんて思いもしなかった。
「いやん。怖い。リックー助けてー」
リーサが悪ノリしたのか俺の腕にしがみつきやがった。おいおい、胸が当たってるじゃねえかこの巨乳女。この状況じゃ完全に火に油を注ぐ行為だぞ。でも、ちょっと嬉しいのが悔しい。弾力があって柔らかくて心地いい感触なのが逆にムカつく。イライラする。主に下半身が。
「見せつけやがって! もう決めた! この金髪巨乳女は絶対にオレの彼女にしてやる! 寝取ってやるんだからな! ヒャッハー!」
寝取るも何もこの女は俺の彼女じゃねえ。仮にお前のものになったとしても寝取りにすらならない。
「やだ……怖い。リックぅ……」
リーサが潤んだ瞳の上目遣いで俺を見てきた。チクショウ! この女本当に顔は可愛いな! 男のツボって奴も理解してやがる。魔性の女だ。
「よーし、そこの兄ちゃん。その女を置いていくなら、お前は見逃してやるぜ」
「はい。こいつで良ければいくらでも置いていくんで逃がして下さい」
即決、即断。躊躇うことなくこの女を差し出す。悪いなリーサ。後はこのモヒカン男達とよろしくやってくれ。
「ちょ、ちょっと! 何言ってんのリック! じょ、冗談だよね?」
リーサは目を見開いてこちらを見ている。何だろう。ついさっき会ったばかりで助ける義理なんて一ミリもない相手なのに妙に罪悪感が沸いてくる。
「イヤッフウウ! FOO! 物分かりがいい彼氏で良かったぜ」
モヒカン男達がいやらしい手つきでリーサに触ろうとしてきた。
「やめろ!」
リーサは激昂して、モヒカン男の股間を蹴り上げた。とてもいい音が聞こえた。完全に急所に入ったであろう。モヒカン男は股間を抑えて悶絶し始めた。
「あ、う……お、俺の玉が……あ、うう……」
「て、てめえ! よくも俺の仲間をやりやがったな」
仲間のモヒカン男がキレて一斉にリーサに襲い掛かった。リーサはモヒカン男に襲われる直前に華麗な回し蹴りを決めて、文字通りモヒカン男達を一蹴した。
「げぐし」
訳の分からない悲鳴をあげて、モヒカン男達は倒れた。残っているモヒカン男は後一人、そのモヒカン男は完全に震えている。怯えているのだろうか。
「下衆が、私に触ろうとするなんて一億年早いんだよ!」
「ひゅー。リーサちゃん恰好いいー」
「リック! 何で私を守ってくれなかったの! 確かに盗賊スキルを持っている私の方が強いのはわかるけど、それでも守られたいっていう乙女心がリックにはわからないの!?」
リーサが俺に詰め寄ってくる。こんなに強い奴守る必要なんかある? むしろ、スキルを不用意に使えない俺を守って欲しいくらいだよ。
「あ、あの!」
モヒカン男がリーサに話しかけた。てっきり、仲間を置いて逃げ出すかと思いきや、このモヒカン男は一体どういうつもりなんだろう。
「踏んで下さい女王様!」
「は?」
リーサが生ごみを見るような目でモヒカン男を見ている。そりゃそういう反応にもなるわな。
「お、俺実は、Mなんです。先程の貴女の美しい蹴りに惚れ惚れしました。すらりとした長くて真っ白な足。好きです」
「リック。行こう。こいつ気持ち悪いわ」
「ああ」
「あひん。そ、そんな~。放置しないで下さいよ~」
「黙れ。下衆が。私を性の捌け口にするな。どうしても欲望を満たしたかったら地道に金稼いでそういうお店でしてもらってこい」
リーサに罵られてモヒカン男は酷く落ち込んでいる。
「ふっふっふ……ならば、仕方ない。意地でも俺を踏んでもらうぞ!」
そう言うとモヒカン男が全身毛むくじゃらになり、筋肉も膨張して顔の形も鼻と口が突き出て牙もある狼に変化していく。爪も伸びて正に狼男と言った感じだ。
「俺のスキルは人狼。狼の身体能力を得られる能力だ。どうだ? 恐ろしいだろ? さあ、その美しいおみ足でわたくしめを蹴り飛ばすといい。出ないと俺のこの爪でお前の柔肌を引き裂くぞ」
滅茶苦茶なことを言い出したぞこいつ。
「困った……こいつを攻撃すれば、こいつの要求通りのことをしてなんかムカつくし、かといって攻撃しなければこちらがやられてしまう。うーむ究極の二択だなぁ……」
リーサは考え込んでいる。そんな迷うようなことか? こいつをぶっ飛ばせば済む話だろ。
「ねえ、リック。こいつやっつけてよ」
「は?」
「そうしたら、私を見捨てようとしたこと許してあげる。戦わないとリックを蹴飛ばす」
「そんな横暴な……」
相手はスキルで強化された人間だぞ。こちとら使い物にならないスキルを持っている実質出来損ないだぞ。勝てると思うか? 無理だろ。
「けっ野郎には興味ねえんだよ! おらあ! 早く俺を踏みやがれってんだ!」
「リックに勝てたらあんたを踏んであげるよ」
「本当か!? おい、とっとと勝負すっぞオラァ!」
こうして、俺とモヒカン人狼男の決闘が始まることになった。どうしてこうなった。俺は平穏に生きていきたいのに、決闘なんてしたくない。そりゃ、俺だって昔は騎士を目指していたし、まともな騎士のスキルが得られれば決闘の一つや二つやってたかもしれないけど、俺、暗黒騎士だぞ。能力使ったら無関係の人まで殺しちゃう可能性あるじゃん。無理だよ戦えない。戦いとは無縁の生活するしかないんだ。
まあ、こうなった以上戦うしかない。俺は剣を抜き、人狼相手に剣を握った。願うのはこいつが見せかけだけで実は弱いと言う展開だ。
「行くぞオラァ! ワオーン!」
狼男は雄たけびを上げて腕を大きく振りかざして来た。鋭い爪が俺の体を引き裂こうとする。俺はその攻撃を避けた。避け続けた。確かにこいつの攻撃は狼のように素早いが、騎士として訓練した俺なら避けきれないほどではない。
「ちょこまかと避けんじゃねえ!」
相手の意識は完全に俺の上半身に集中している。こいつ、身体能力は高いが戦いはあまり上手くないな。俺は隙だらけの足を狙って足払いをしかけた。すると人狼は勢いよくすっ転んで尻もちをついた。無様。見事なまでに無様だった。
「いたた……ひ!」
俺が首元に当てた剣に気づいた人狼は情けない声をあげた。俺がちょっと剣を動かすだけでこいつの首を簡単に刎ねることが出来る。最早勝負あった。
「ま、参った……ひ、ひえ~」
人狼は変身を解き、元のモヒカン男に戻った。そして、そのまま悶絶している仲間を連れて逃げ出してしまった。
「すごーいすごい。リック凄い! 無能力者のあんたでも能力者に勝てるんだ。見直しちゃった。私を見捨てようとしたことは忘れてあげる」
それは良かった。女の恨みは恐ろしいと聞くし、これでチャラに出来るなら安いものだ。
「まあ、俺だって一応騎士の訓練は受けているし、戦闘系のスキルを持ってない人間に比べたら遥かに強いわけで」
「あ、そうか……リックは騎士の訓練受けているのにスキルもらえなかった可哀相な子だったんだ……」
リーサが憐れみの目で俺を見つめてきた。事実なんだけど、可哀相な子扱いされるのはちょっと嫌だ。もう少し言い方を考えて欲しい。
「ごめんリック。私リックがそんなに可哀相な子だなんて知らずに盗みを働こうとして。お詫びに開拓地村に着くまで私が守ってあげる。盗賊のボディガード。どう? タダでいいよ」
あくまでも付いてくるつもりなんだなこの女は。
「まあ、ボディガードだったら付いてきてもいいかな」
「やったー」
なんやかんやあってリーサと一緒に開拓地村に行くことになった。まあ、この女は強いし、俺の代わりに戦ってくれれば、俺も暗黒騎士の力を使う機会が減るだろうしな。
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